4.ゲーム制作専門部
郁美は直情型。頭より体が先に動きます。
書いてて書きやすい。すんなり動いて物語をグイグイ引っ張ってくれます。
その分、背景や設定をしっかり作らないと、本人が飽きてしまって動いてくれませんけどね。
折角、ハマレそうなゲームだったのにぃ!
バグッてた。さすが「試供品」よね。
いくらスタートボタンぽちぽちってやっても、全く反応無し。
リセットしても、動かない。
いつまでたっても、あのタイトルが、浮かんだまんま。
超ビジュアリーなオープニング画面さえ、でて来ない。
電源オンで、タイトルがどかんと出て、それだけ。
んもう、白河の奴ぅ!
これじゃ、いくら「海浜のゲーマー女王」だって、解けないじゃないのさっ!
速攻でゲームCD、パックにしまって、チェンジお出かけモードでお着替え。
ソッコーダッシュで階段を駆け降りた。
「ちょっと郁美、ドコ行くの?!」
「センセーんとこ!」
元気よく掛け声残して、勢いよく飛び出す。
アハ、小学生かあたしは。
ママチャリ吹っ飛ばして、再びガッコーへ。
コンピューター部の顧問してる白河センセ、まだいるはずなのよ。
ドタドタと廊下を掛けていくアタシを止められる者など、もう誰もイナイ。
いいの。“女の子”は、中3の時に捨てたから。
「センセーいるぅ?」
ガラガラっと扉を開けて、コンピューター教室に飛び込む。
ギョっとツラを上げる、軟弱そうなオタッキー共が5、6人。
ちょっとツツイタだけで穴が開いちゃいそうなひ弱な連中なんだけど、それぞれが分野の違うデザイナーやプログラムを持ち寄って、共同でパソコンゲーム創ってんの。
「おう、もう解けたのか?」
意外そうな顔で振り向いたセンセーの胸ぐらをムンズとつかんで壁際まで押しつける。
「チョットー、これバグってるじゃないのサ!折角ハマレソウだったのにぃ!」
「う、うわっ、ちょっと待て、苦しい……」
わたわたともがく白河。フフン、いい気味よ。
周りのオタク共、あたふたしてはいるけど、誰も助けようとはしない。
全く、こんな可憐な女の子一人止められないだなんて、だらしなさすぎるのよね。
もー少し苦しませてから、おもむろに手を離して上げる。
「グホ、ゲホ……全くオマエはなあ……」
「んなこといいから、コレ、ちゃんと動くようにしてよ。これじゃあ愛しの剣士さまに会えないじゃないのさ」
「剣士?じゃあ、一応は動いたのか?」
「そうよ。オープニングとタイトルが出て、そのまま止まっちゃうの」
「スタートボタンでも押し忘れたんじゃないのか?」
あのねえ。
ギロッと睨んでやると、白河、オドオドと怖じ気づいた。
よしよし、その素直な態度が大事なのよ。
「とりあえず預かっておくから」
「ダメ、今すぐここで直して」
「……判ったよ。おい、志田」
「ハイ」
部員の一人が、プログラムテスト用のパソコンを立ち上げ始めた。
このコンピューター部、実はゲーム制作が専門なのよ。
コーコーセー集団なのに結構、というよりかなりのレベルの高さで、毎年、その手のコンテストで上位入賞を占めてたりする。
学校祭とかでも新作をレビューできて、そのまま限定発売として売り出したりしているので、その手の筋の人たちにとっても、ウチの学校の呼び物の一つにもなっている。
はっきり言って、毎日ゲーム三昧という羨ましすぎる環境なんだけど。
コイツラを束ねてる白河ってカタブツが融通の利かないヤツで。
自分の担当の数学で合格点取らないと出入り禁止なんてルール作ってるのよ。
しかも、部員には卒業後の進路にその手のソフト会社とか紹介してくれるんで、学校側も一目置いてるし、その手の一部の生徒には絶大な信頼があるのよね。
あたし?
あたしは、正式な部員じゃない。
というより、なれない。
だってさ、あたしの頭で、あんな役に立ちそうもない学問を理解しろという方が理不尽と思わない?
でも、白河センセー、ゲームの試作品は必ずあたしにやらせてくれるんだ。
一般向けのレベルじゃない、解き終わった後にパスワードを入力して出来る、上級者向けの設定で。
部員じゃないけど、難易度MAX用のテスターとして、重宝されていたりします。