3.グランザール
自分で読んでみて、あれ、結構イケるんじゃね?と思っても。
読者様からすると、それほど興味は湧かない、らしいです。
まあ、自分で書くモノは、自分が読みたいから自分で書いているわけで。
だから、自分は二流作家。
読者が読みたいものを書くのが、一流の作家様だということなのですよ。
「母ちゃんただいまー!」
「郁美!」
小うるさい母ちゃんの小言なんか無視無視。
お部屋にちょっこー、電源プチッと、CDはめ込んで、お気に入りのクッションにどっこいしょっとお座り。
まだるっこいオープニングの間に、制服脱ぎ散らかして。
バトルスーツは、やっぱジャージでしょ。
と。
鳥の目からみたような、西洋ファンタジー系の、やけにリアルなアニメーションが展開されていく。
ズーンと地上に迫っていくと。
どうやら中世の城砦都市に大軍が攻め込んできている様子で、ばったばったと兵士が倒されていく。
あちこちで上がる煙。
勝ち誇って進んでいくのは、お決まりのゴブリンやオークといった、悪役な異種族だ。
「ありがちありがち。でも、グラフィックはキレイねえ……」
ジャージのズボンから、ウニョンと御美足を覗かせながら、あたしの目は画面に釘付け。
パッケージもないし、CDにはマジックで『WR試作品』としか書かれてなかったから、グラフィックなんか出来てない、ほんとに骨組みとしか思ってなかったんだけど。
ここまで作っておいて、解けないなんて。
ただのバグじゃないの?
それとも、センセーの腕が落ちたとか?
画面は、王宮の中に入っていって。
荘厳な大広間で、群がってくるモンスターどもをバッタバッタとなぎ倒している美麗な剣士様をクローズアップした。
銀色の長い髪。
蒼色の、高貴な雰囲気の鎧。
真っ黒な大剣を軽々と振るっている。
浅黒い顔は、彫りが深く、そこらへんの男優なんかと比べ物にならない位カッコイイ。
「やっぱ、男はヨーロッパ系に限るわよね……」
ツマラン事思いながら見入っていると。
でたでた、凶悪そうな、目茶強そうな牛頭の筋肉モリモリ男が。
申し訳なさそうに腰に巻いている布ッキレの先端が膨らんでる。
デカイ。
こらこら、そんな所をうら若き乙女が注目するんじゃアリマセン!
じゃなくて。
チガウチガウ。違うのよ。つまらん誤解しないデネ。
そ、アソコの大きさじゃ無くって、体つきの事よ。
剣士様も大柄だけど、この牛男は、その二周りは大きい。
と、剣士様、牛男じゃなくって、背後を振り向いた。
ギリシャ風の真っ白なロングドレスに身を包んだ、肩までかかる黒髪で長身の女性が、柱の陰から顔を覗かせている。
…あたし、だった。
いや、ちょっと待って。
あたしに、似ていた。
えっと、誤解を招かないように言っとくけど。
顔の雰囲気は、あたし。
背の高さも、あたし。
スタイルは、その、まあ、なんちゅうか、あたし…じゃないわよ、悪かったわね!
それくらい、ほっそりとしていて、綺麗な人だった。
顔だって、かなり似ている。
いや、その、決してみられない顔とかいうんじゃないのよ。
んとねぇ、あたしの顔を、そう、思いっきり美化したようなお顔なのよ。
憂いと悲しみに沈んだ、でも、剣士様を信頼しきっているような、そんな、女冥利につきるような表情。
ホントにあたし?
なんて思えるくらい、なんとも綺麗な人。
「姫っ!危険ですから、下がっていて下さい!」
声が、聞こえた。
剣士様、そう、叫んだ。
あたしに、そういった。
…馬鹿よね。音声入ってるに決まってるじゃない。
でも。チガウ。
あたしに、直接聞こえる。
耳じゃない、直接、あたしのココロに聞こえたんだ。
「な、なに、これ…?」
「ブウオオオオッッ!」
牛男、そんな剣士様に隙ありとでも思ったのか、大きな斧を振り上げて、襲ってくる!
「あ、危ないっ!」
声よりも、アタシの手が先に反応した。
レバーアクショントリプルで、超バックダッシュ。
同時に強斬り強蹴り同時押しから、レバーを下側に半回転。
画面の剣士さま、あたしのイメージ通りに飛びのいて大斧をかわすと、その反動で、牛男の懐に飛び込んだ。
剣が光る。
必殺技発動のチャンスだ。
左下、下、右上、右。
タイミング目押しで強弱強。
あたしの指が神速の速さで動く.
なんて、適当に操作しただけなんだけど。
…あら、反応した。
ウフフ、“本能”ってヤツかしら?
「うおおおおっっっ!」
剣士様の剣が、牛男を切り裂いた。
逆袈裟から左腕を一気に切断し、返す剣で首を刎ねた。
そのまま、脇をすり抜けて走り抜ける。
牛男は、しばらく立ちすくんでいたけど。
やがて、ものすごい血飛沫を巻き上げて、ドウと倒れた。
「怪物共よ!姫には、指一本触れさせはしない!」
普段は使わない、スタートボタンで挑発行為。
剣士様、剣を高く掲げて、群がる怪物どもにスルドイ眼光を投げかける。
カメラが、ズーンと寄っていって、お顔大写し。
ああっ、カメラさんサイコー!
いい、いいわ、抱かれたい男ナンバーワンは、たった今からこの剣士様決定よっ!
と、カメラがすっと離れ、再び全景が見渡せるようになる。
そのまま、剣士様は再び闘いの舞台へ…
て、ちょ、ちょっと、どーしてカメラさん離れていくのよ。
バカバカ、もっとその凛々しいお顔を見せてよー!
でも、画面は鳥が後ろを振り返りながら飛び去るように、お城から羽ばたいて、煙る城砦を後にしていく。
そのまま、徐々にフェードアウト。
代わりに、ぼやっとした輪郭が徐々に浮かび上がってくる。
古風なアルファベット。
凝った装飾の施されたタイトル。
『グランザール』
英語なんてサッパリなのに、そう読めた。
っていうか、英語じゃなかった。ただ、似ているだけの別の言葉。
なのに読めた、というより、そう、書いてあった、というより。
そう“理解った”って感じ。考えることなんてないし必要ない。
つまり、この世界の、言葉なんだ。
意味を日本語に訳すると、『聖なる剣』。
グランザール。
元々の意味は「グランド バザール」。
「年に一度の大決算市」です。