あの帰りみち
私たちは普通の、いや、それ以上の友達だった。
親友というには大きすぎて当てはまらない。それ以上の、家族に近い存在だった。
彼女の名前は ユウ 。
ユウと出会ったのは小学3年生の時だった。
たまたま同じパーカーを着ていたことがきっかけで知り合い、
小・中・高と同じ学校だったこともあり、仲良くなった。
それ以来、私たちは帰る時も遊ぶ時も一緒だった。
ある日の夕暮れ、私はいつものようにユウと帰っていた。
何気ない日常、変わらない日々、それがいつまでも続くと思っていた。
そう、あの時までは。
「サク!今日はどこか寄り道する?」 そう彼女は笑顔で私に尋ねる。
「んー、今日はそのまま家に帰る。」 そう、このあと予定があるのだ。
「そっかぁ。」
「ごめん、」
「ううん!全然いいの!別の日にどこかに行こ?」 少し残念そうにしながらも彼女は話す。
「あぁ。そういえば、遊園地のチケットが当たったんだけど…一緒にどう? 」
「え!行きたい!」
「じゃあ、詳しいことはまた連絡するから。」
「わかった~。」 彼女は嬉しそうな足取りだった。
「そういえば、今日の小テストやばくなかった?」
「そうだな、もう昨日に戻りたい……」
「またゲームしてたの? 」
「うん、止まらなくて笑。」
「私もしようかなーなんて。」
・
・
そんな他愛のない会話が続いていく。
繰り返し、繰り返し、 もう何を話したのかさえ覚えていないほど。
反射で会話をする。という表現の方が近いだろう。
明日も明後日もこんな日常が描かれるのだろう。そう思いながら空を見つめる。
家に帰るまでまだ道のりは長い。
ポツ、ポツ……しばらくすると雨が降ってきた。
見上げると雲が何かに追われているかのような速さで動いていた。憂鬱な空だ。
その日は、なんだかおかしな天気だった。
突然、私たちの真上に雲が渦を巻いたかと思えば、突風が吹き荒れ、激しい豪雨となった。
雷も鳴りだし、
ふと……空を見上げた時、 月が真上に昇り、空は紅く染まっていた。
訳がわからない天気に私たちは立ち止まるしかなかった。
ビュゥウゥッッ……!!
目が開けられないほどの風に襲われ、固く目を瞑る。
「…ク…!」
ユウが呼んでいるように聞こえたが、雨風の音しか耳に入らなかった。
ふいに、嫌な予感がした私は後ろを振り返り、ユウを見る……
”そこに居たはずのユウが居ない”
彼女は私とさっきまで同じ道を歩き、他愛のない会話をしていたのだ。
あたりを見回すが、どこにも彼女の姿がない。
「ユウ!! どこにいるんだ?何か返事をしてくれ!」
痛いくらい雨粒の音しか聞こえない世界に、ただ私は叫び、呼んでいた。
ふと足元を見ると、そこには桜の花弁が落ちていた。 今は冬だと言うのにおかしなものだ。
「どうして、桜の花びらなんか落ちて……?」
いや、今は探すのが先だ。
私は駆け抜ける。
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あれから1時間。 来た道を戻り、学校を調べ、周りを調べ、彼女の家にも行った。
が、どこにも彼女の姿はなかった。
豪雨は収まったが、空は憂鬱なままだ。
視界が紅に染まる… 月が空を照らし始めていた。
見つけることができないまま私は家に帰った。
重たい気持ちのまま私は彼女の両親に電話をかける。
ガチャッ、
「はい。どちら様でしょうか?」 彼女の両親の声が聞こえた。
「え、ぁ、あっ、、あのっ……!!」
普段の私なら明るく話し始めるのだが、何故だか息が詰まり声すら発せなくなった。
彼女が居なくなったことをどう伝えればいいのか、何が起こったのか、
彼女が無事なのかもわからない、 不安に押しつぶされそうだ。
「 あ、あの、ユウさんは家に帰ってきていますか?」
違う。言いたかったのはこれじゃない……
私たちに起こった出来事を伝えたかったのに。別のことを話してしまった……
すると受話器の向こうから聞こえたのは、あり得ない事実だった。
「 え、ユウ?? サクちゃんどうしたの?
ユウって子は我が家にいないけど……? 」
私は何を言っているのか理解できなかった。
「え、いや、、” ユウ ”って子、居ますよね……?
ハハ、ドッキリ……とかですか?」
「うーん、申し訳ないけど、サクちゃんの言っていることがよく分からないの。
今忙しくて、このあとも少し用事があるので一旦切りますね。」
ツーツー……
電話が切れてしまった。
もう……何がなんだかわからなくなってしまった。
そこで私の記憶は途切れた、、、、