あれから……
風の音が聞こえる。
私は必死に叫んでいた。
手を伸ばすが届かない。 あと少し、ほんの少しなのに…
「…ク…!…サク!!…」
吐き気とともに目が覚める。
アラームを止め、時間を見る。
7月31日……10時丁度。 背中にじっとりと汗が張り付き、蝉の音が暑さを更に加速させているようだった。
「嫌な悪夢を見たな…」
私は急いで服を着替える。
朝飯は…食べる時間がない。
玄関を出て、急いで彼女の家に向かった。
家にたどり着くと、すぐさまインターフォンを押す。
照りつけるような暑さだからか、買ったアイスを入れた袋には水滴がうっすらとついていた。
私は…今でも彼女が消えていないか、不安になってしまう。
しばらくするとドアが開いた。
中から出てきたのは…彼女だった。
そのことに安心しつつ、玄関を上がる。
白の壁紙にピンクのクッション、クマのぬいぐるみに水玉模様のコップ、
如何にも女の子をイメージさせるインテリアだった。
溶けかけのアイスを半笑いで渡しつつも、彼女は喜んでくれた。
そのまま、たわいのない話を彼女とする。
この時間が彼女の安定を確認でき、楽しめる、貴重な時間だ。
そんなことを思いながらも、あの光景が頭をよぎる。
もう、私しか覚えていない。
そのことに孤独を感じながら早く忘れ去りたいとも思う。
けれど、それが訪れることはないだろう。
なにせ、あれは生涯忘れることができないほど刻まれているのだから。