捜査行動02 「公僕」
「シミズちゃん。どうだった、おやっさんの様子。怒ってた?」
所轄署に戻って来た辰巳が表の状況を確認する。
「清水です。ただ溜め息をしてましたよ。リードを離した犬がどっか行ってしまったとか言われてますよ。いい加減にしてください、辰巳さん」
「あらあら。とんだ言われ様だ。ちゃんとこっからは表立って捜査するよ」
清水も大きな溜め息を吐く。
「なんでもかんでも一人でやらないでください。警察は組織機構です。集団で行動するんです。警察のいろはの”い”の字ですよ」
はーいはい、と意にも介さない返事をして辰巳が自分のデスクに着く。
ペラペラと聞き取りのファイルを見てみる。
「ふぅーん、上がった女の子。金銭的に困ってたわけでもなく、目立った政治、宗教活動にも無縁。大学のサークル活動は美術部。これまた真面目だね」
「部活内の聞き込みもしましたけど、報道前なので特段騒ぎにはなってなかったです。警察が来たことの方が、逆に驚かれました」
「まあ、普通はそうでしょう。そんな普通の子が川に浮かぶ、なんてことの方が起こるってのが本来あっちゃいけないんだよ」
検死結果と捜査記録もパラパラと目を通す。
溺死。彼女の一人暮らしのアパートでの自殺の痕跡が見られなかったので、死亡場所は自室とは別のところとの見解。おそらくは川の上流。
(…川に流れてたのは、何でだ?)
疑問を抱く辰巳に清水が話しかける。
「私は自殺の線で調べてますけど、動機が分かりません。引き続き自殺の方向で進めます。辰巳さんは、とりあえずデスクワークで大人しくしててください」
「えぇ? まだあのこと、根に持ってんの?」
「当たり前です! あの後、課長が上からもの凄く怒られたんですから!」
「でも、特殊詐欺のグループの裏にいた暴力団を一つ潰せた」
「だからって署に帰ってくるなり!『逮捕令状くれ』って、殴り倒した3人の男をパトカーに詰め込んで連れてくるなんて! ホントに警察官ですか!?」
これ見よがしに辰巳が警察手帳を開く。
清水は呆れて、モノが言えない。
その時は、あの若頭のいる組に対抗していた、詐欺グループのバックの組を吊るし上げた。それが功を奏して、カタギには卑怯な手を出さないあの組が頂上作戦のリストから外れた。
今はその恩とか義理とかで関係が続いている。
「まあまあ。そんな怒ると可愛い顔がフグみたいに膨れちまうよ、シミズちゃん」
辰巳が急に清水の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「なぁっ!?」
顔を真っ赤にして清水が飛びのく。
辰巳は態度などが不真面目なだけで、容姿はかなりの美青年だ。署内でも女性の人気は高い。
「いつもそうやって…! この女の敵!!」
カッカと怒りながら部署の出口へ歩き去っていく。振り返り、一言。
「あと、清水です!」
大きな音を立ててドアが閉まる。
「あらまあ、フラれちゃいましたよ」
出入り口から目線を離すと、この捜査課の課長。50歳を越えた上司である、東海林警部が立っていた。
「お疲れ様です。おやっさん」
「…そのおやっさんって呼ぶのやめてくれないか。お前のせいで皆んなが俺をそう呼びやがる」
「あなたが、今の責任者ですよ。捜査課の長、つまりはオヤジさんですよ」
「…まあ泥臭いのは嫌いじゃねぇから、もう諦めるけど。でも組織のルールは守ってくれよ。俺はお前が警察を逸脱して野に下るなら、かならず日の当たる処に引きずり出してやる」
「自分もそうならないことを願ってますよ」
辰巳が半笑いを浮かべて頭を掻いた。
「ところで今回の件、自分は”殺し”だと思ってます。シミズちゃんには悪いけど」
「俺と一緒か。根拠は?」
「彼女の身体に薬品が残った形跡はありません。でも、薬も使わず若い女の子が、えいって川に飛び込んで自殺なんてあんまり考えられない。上流の橋の監視カメラにも彼女の姿は無かった。つまりは”歩いて一人でゆっくり川に沈んだ自殺”になる。今日び、そんな派手で手の込んだ自殺しますかね? 誰かに見せつけるような」
「まあ、俺の見解とほぼ同じだな。こんな簡単に自殺じゃないと分かる殺し方。殺し慣れてねぇと思うわな」
「事前に裏取りをしてきたので、現時点では公の反社の動向も無関係です」
「…お前は警察であることと相手さんのことを考えて動いてくれや…」
「しかしこれでSNSのネットストーカーの線も含めて特殊捜査課と手を組めます。現代じゃ代理殺人や闇バイトまでネットで取り交わされてる。【殺し】が安価なビジネスになってます。だから殺しの素人が二束三文のお駄賃で、素人として容易く人を殺す。情報ネットの暗部を探すのにいい機会になったでしょう」
はぁ、と警部が薄くなった白髪頭を振り、首を鳴らす。
「俺が警察に入った頃は、こんな事件は無かったんだけどな。通信記録もお粗末なもんだった。それが今は情報量の海。捌く方にもなってもらいたいもんだ」
さもありなん、と辰巳もうなづく。
「発した情報が誰の手に届くかも分からない時代ですからね。誤配送、誤受理のオンパレードなんですよ、今の世の中は」
「でも誰かが何かを送って、誰かが何かを受け取った結果、女の子が一人で死んでしまった」
「その誰の何かを捜す、のが自分たちの”仕事”というわけでしょう?」
「分かってんならその重い腰上げて、捜査してこい」
「けどシミズちゃんに止められてるんですよねぇ」
「…清水のことはいいから行ってこい。リード離しても枝咥えてくる犬は、いい犬だ」
「犬のお巡りさん、分かりましたワン」
敬礼しながら辰巳がその場を去っていった。
どうしたもんか、と警部が席に着いた。
しずしずと別の男性署員が近付いてくる。
「おやっさ…、じゃなくて課長。いいんですか辰巳さんほっといて。あの人、また無茶やるかもしれませんよ。ここに配属された時みたいに」
あの大騒ぎをしたのは辰巳がここの署に来てからすぐだった。まだ一年も経ってない。
ただ、上から奴の面倒を見てくれと押し付けられた形だ。
だから叱責だけで済んだのだ。
「俺も分からん。けど目的の為に手段を選ばない姿勢は、根っからの警察官である俺たちには足りない部分だ」
「それはそうですが、警察は『これしかやってはいけない、ポジティブ』な組織です。『これ以外は何をしてもいい、ネガティブ』な組織は、軍隊か、その他の暴力組織ですよ」
「だから、俺もアイツの”在り方”が分からないんだよ。本庁も何を考えてアイツみたいなのを連れてきたのか、皆目見当も付かん」
買ってきた缶コーヒーを東海林警部が開ける。納得いかない気分を喉から腹に流し込む。
皆さま、ご無沙汰しております。
秋津島 蜻蛉です。
あまり初めましてとなる状況ではないので、そちらは割愛で。
また礼儀のお正しい辰巳が、ド糞真面目に仕事をしていますね。
日本全国の公務員、傾注の的ですよ。
ホントに全ての警察官がこんななら、世界は公平、平等ですな。
(核戦争後の世紀末ゆえ、地面が真っ平という意味で。ヒャッハー!)
さて今回運悪く辰巳に捕まった犯罪者達ですが、その後移送されます。手錠をされ、荷馬車に揺られ、別国への不法侵入の疑いで処刑場に連れていかれます。
待っているのは、逃げて弓で射殺されるか、冤罪として斬首刑ですね。
ドラゴン? そんなものは『スカイ〇ム』じゃないんですから、来ませんよ。
または『ダークソ〇ル』ばりに、永遠に不死院で監禁。
…冗談はこれくらいにして、今後はテンポよく掲載を進められればと考えております。
短い間ではございますが、ご贔屓の程をば。
それでは今後の辰巳の捜査に、またお付き合いいただきますよ。




