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あおる

作者: 渚のいん

2011年にオカルト・超常現象をテーマとした創作同人誌『PLAN9 FROM OUTER SpFILE』に掲載した短編です。

水を求める宇宙人との遭遇事例がいくつかあることを下敷きにしています。

最近のオカルト界隈ではUFO・宇宙人ネタってあまり見かけないので、ここから興味を持っていただければ嬉しい限りです。


※pixivに掲載済みのものを加筆修正して投稿しています。

「宇宙人さんはきっと喉が乾いているんです」

 きりっと眉を引き寄せ、そう力説する少女を前に、俺はただただ立ち尽くす。


 その日、出勤の為駅への道を急ぐ俺の足を止めさせたのは、奇妙な光景だった。

 踏切を越え、駅に向かう角を曲がった俺の目に飛び込んだそれはペットボトルの群。

 1.5リットルの、ラベルを綺麗に剥がされ一杯に水を詰め込んだペットボトルが視界の中全ての電柱や街灯、道路標識の根本に一本ずつ置かれていた。

「猫避け? 昨日は無かったよな」

 薄気味悪さを覚えかけた時。件の少女が俺の前に現れた。

 小学校の低学年位か。

 ランドセルを背負い、大きなトートバックを肩に掛けており、そこからペットボトルの先端が顔を覗かせている。

 この子なのか、これ。

 いぶかしんだ俺の気配に感づいたのか、じろり、少女が俺を睨んだ。

「あー、猫、嫌いなの、かな?」

 視線の圧に耐えきれず、つい俺は尋ねる。

「動物は何でも好きです」

 すかさずはっきり元気良い返事が返ってきた。

「じゃあ、これは」

 再び問うた俺への答えが、冒頭のそれ、だった。


 聞きもしないのに色々彼女が教えてくれる。

 彼女の父親は熱心なUFO研究家だそうだ。

 そんな職で生活が成り立つのかと感心したら、どうも趣味の一環らしい。

 何やら道を豪快に踏み外している気がする。

 故に彼女は生まれた時からUFO漬けの生活を送っているらしく、同年代の子はおろか一般人なら縁遠いであろうUFOや宇宙人の目撃・遭遇談に聞き及んでいた。

 その彼女が、ある結論を独自に導き出した。

 それが、宇宙人は喉が乾いている、という物だ。

「水が欲しいって地球人に声をかけてくる宇宙人さんの話は沢山あるんです。だから私、いつ宇宙人さんが来ても困らないようにお水置いてあげる事にしたんです!」

 少女は胸を叩き、誇らしげに言い放った。


 好奇心は猫をも殺す。

 俺の場合は大遅刻の大目玉になって返ってきた。

 残業を済ませた俺は、終電を降りる。

 帰り道、そこには朝と変わらず、あの少女が置いたペットボトルが並んでいた。

「宇宙人、ね」

 俺も好きだったな、そういうの。

 何となく、足下のペットボトルを取り上げる。

 と、悪戯心が涌いて出た。

「あの子、これ見たらどんな顔するかな?」

 周りを見渡し、大きく深呼吸。

 そして俺はキャップを捻り、一気にそれを呷ると、途中つっかえながらもなんとか全ての水を胃に叩き込む。

 やれやれ、宇宙人も楽じゃない。

 重いが軽い足取りで、俺は家路を急ぐのであった。

2024年12月1日に東京ビックサイトで開催される文学フリマ東京39で、UFOや超常現象など、我々の世界をささやかに彩る事象を、肯定/否定などの立場を越えて慈しむサークル「Spファイル友の会」(G-59)から『UFO手帖9.0』が頒布されます。

小説ではありませんが私も「UFOと漫画」というエッセイで参加していますので、ご来場の際はぜひお立ち寄りを。

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