25 そして、日々の便り
そこから、中断されていた日々の便りが復活した。どれも内容はたいしたものではなく、一言二言の走り書きだった。
簡潔すぎるほどの内容だからこそ、キャロリンは返答に再び頭を悩ませることになった。
なにせ、届く便りが今日はいい天気だねとか忙しいだとか大した内容でないものばかりなのだ。
キャロリン返せるのだって似たような言葉しかない。
それはまずいと考えたのは、やりとりが幾度か続いた後だ。
これまで曲がりなりにも毎日楽しく文を交わせていたのはバートのおかげだったと気づき、たまには自分から話題を振ってみようと思った。
といっても、やはり大した内容は思い付かない。
すぐに書けるのは以前出かけた時は楽しかったとか、これまでにも伝えたようなことをもう少し丁寧に言うようなことくらいだった。
自分の話題のなさは絶望的だと、キャロリンは自覚せざるを得なかった。
バートのように、何か質問するようなことをすればよかったのかもしれない。しかし、彼が忙しいと言うことがわかっているのに、返答に手間をかけさせるようなことは避けたかった。
キャロリンは、せめてもう少し気安い話題を見つけ出せないかと、父の書斎で本を探すことにした。
本屋へ案内してくれた様子からバートは読書家のように見受けられた。暇つぶしを兼ねて、読んだ本を紹介するのもいいかもしれないと考えたのだ。
いい案だと意気揚々と書斎に足を運んだはいいものの、何を読んでいいものかわからないまましばらく背表紙を指でたどる。と、本棚の隅にバートがお勧めしてくれた男の子向けの冒険譚を見つけ出した。
キャロリンはこれこそいい話題の種だと張り切って書斎にこもり、見つけた本のページをパラパラめくる。
男の子向けの本なんて読めるかしらと思ったけれど、子供向けだからこそ読みやすく内容も面白そうだ。
シリーズの幾冊かを抱えて自室に戻り、届いていたバートの便りに弟に勧めてくれた本がタウンハウスにあったから読んでみるつもりだと返事をする。
明日はいくらか読み進めて感想を記せばよいだろうと考えると、余計に楽しく読めた気がする。
キャロリンは世間話の代わりに、今日はこれを読んだ、あれを読んだと日々の文に日記のように記すことになった。
もう少し何かを足したかったが、感想の言葉はなかなか出てこない。結局これは面白い。あれはドキドキしたなどバートとさほど変わらない簡潔な文を足すくらいしかできなかった。
そろそろ父の書斎にある冒険譚が尽きてしまうと考え始めた頃、バートに次に会う日程が定まった。
昼食を一緒にどうかというデートのお誘いだ。
実際は当日にあるのは名目に掲げた内容だけではないのだろうなと覚悟しながら、キャロリンは時を待った。




