24 走り書きから読み取れる
バートから、走り書きのような便りが届いたのはその日の夕刻。
「あのねごめんね、下手に手紙のやりとりをしたら、それで断りを入れられたら嫌だから、なんとなく送るのにためらいを覚えていただけで。他意はなかったんだ。本当に真剣にいろいろ動いてるから、だからちょっと待ってくれると嬉しい」
貴族的な言い回しに欠ける相変わらずの文面に、キャロリンは思わず笑ってしまった。
ビリーの来訪後、突然帰郷を取りやめたキャロリンに怪訝な顔をした使用人たちも久々のバートの便りでなんとなく得心がいったようだった。
この数日どことなく静かだったハウゲン家のタウンハウスは、それで少し明るさを取り戻した。
お嬢様は何らかの理由で交際相手と少し仲違いをしていただけのようだと彼らは思ったようだった。
というのは、彼らの雰囲気からキャロリンが想像しただけだが。
彼女も深くは言わないし、屋敷の者も誰も詳しく聞きこんでくる事は無い。
意見を翻したことで色々降り回されたはずなのに、ダドリーがニコニコと「ビリー様のおかげですね」とつぶやいたのを小耳に挟んだくらいだった。
キャロリンはバートからの最後の手紙を何度も読み返した。
彼らしくない崩れた文字の手紙だ。忙しくしているという人が、隙間を見つけて書いたような、これまで以上に体裁が整っていない文面だけど、それだけ真剣に自分のことを考えてくれているのだと思うとなんだか心がホカホカしてくる。
嬉しいと言う気持ちを大事にしようと改めてキャロリンは思った。
バードの素性はとんでもないものだと度々ビリーに言われているけれど、この気持ちがあれば大丈夫なのではないか。
便りが途絶えた後にあれだけ落ち込んで、こんな走り書きでもうれしい。
それだけで、自分はバートのことを好ましく感じてると思われた。
難しい事情は、きっとあるのだろう。パウゲン家はたいした家柄ではない。
バートが忙しくしているというのは、そんな心もとない娘を娶ると言う末っ子を心配する家族の説得なのかもしれない。
彼曰く、兄弟みな恋愛結婚をしている家柄のようだけれど、それでもしかるべき名家ならば見るものは見ているだろう。援助込みで子爵家の娘を伴侶としたがるバートの本気を探り、またその相手であるキャロリンの背後も探っているかもしれない。
いくら恋愛結婚が少しずつ認められてきているとしても、貴族であればただそれだけで縁付くわけにいかないというのもまた、れっきとした事実なのだ。
うちの家はどう判断されるかしら、と考えると少し不安はある。
当主不在で何とかやっているだけの力のない家の自覚はある。しかも幼い弟が成長するまで、彼の後見を望んでいる。
バートはなんというか末っ子気質のようだから、若い娘に良いように振り回されているいるだけと思われないだろうか。キャロリンは少し心配になった。
何せ、つい先日ビリーと噂になったばかり娘なのだ。その噂がどれだけの範囲に広がっていたかわからないけれど――ビリーより高貴な家柄の若い男に乗り換えたのだと悪意を持って解釈される可能性も否定できない。
探られて痛い腹があるわけでは無いけど、深く考えると心配ばかりが湧いて出るようだ。
キャロリンは、「家族の反対が大きくて、やっぱり駄目だった」と彼に言われても落胆しないようにしようと思った。
どうせ最初は、結婚などするつもりもなかったのだ。降ってわいたような幸運を最終的に掴めなかったところで、仕方ないんじゃないか。
簡単なことで運命が変わることなんて十分に知っているのだから。
キャロリンは案ずる気持ちを押し込めて、次のことを考える。
バートに相まみえたら、どうしようか。まず初めにすべきは、謝罪だろう。
あれこれと紡ぐべき言葉を想像した。
自分のことだからいざその時になったら言うべき言葉を失うだろうけれど、考えるに越したことはないはずだ。




