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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第4幕 虹色の刀士 姉妹激突編 (妖刀 闘々丸)
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姉妹兄弟喧嘩は年と共に過激になっていくもので・・・年齢がある程度オトナになると大人しくなるものなのですが、稀に目も当てられなくなるのも事実


 青春を謳歌おうかしていた若者達だった肉塊から出る血の海が広がる空き地で、大前を持つ善朗と闘々丸を持つ若者がつばぜり合いをしながらにらみ合う。



〔ギャリリリィ・・・〕



 両者は刀が交わるただ一つの支点だけで互いの距離をジッと保ち、お互いの次の出方を伺っているようだった。


「・・・・・・。」

 二人の周りには、何十人もの人と霊がその周囲を囲み、二人の次の動きに固唾を飲んで見入っている。曹兵衛もそんな観衆の一人だった。


(・・・闘々丸、恐ろしい実力者ですね・・・周りには人も私の糸も念のため張り巡らせてもらってはいますが、万が一闘々丸に逃げられるような事は避けたいものです・・・が。)

 曹兵衛は隙のない態勢をとりながら二人を、特に闘々丸の動静を注意深く観察していた。


「曹兵衛、お前の心配性も治らねぇな・・・。」

 善朗達をジッと見ていた曹兵衛の隣に、腕組みをしながら頬を緩めて近付いてきたのは他でもない菊の助だった。


 曹兵衛は善朗達から目を離さないまま、隣に来た菊の助をチラリと横目で一目見る。


「自慢の御子孫みたいですが・・・私としては、あそこにいるのが貴方の方が何倍も安心できるんですけどね・・・。」

 曹兵衛は少し苦笑いをしながら、この状況でも気楽な菊の助に苦言を呈す。


「かっかっかっ・・・おりゃぁ、もう大前をあいつに渡しちまったからな・・・他の得物じゃぁ、今のあいつとの戦いには耐えられん・・・先に俺の得物が折れちまう・・・。」

 菊の助は扇子を取り出して、口を隠しながらそうニヤついて話す。


「ホントに昔から困ったお人ですね・・・あなたは・・・。」

 曹兵衛は目線を菊の助の方に一切向けないものの、なんだかんだと長い付き合いの二人。昔から菊の助の度重なる奇行に振り回されていた苦い記憶が曹兵衛の脳裏にヨミガエり、曹兵衛の苦笑いがさらに極まる。


 そんな曹兵衛をさらに止まらないニヤケ顔で見る菊の助。


「曹兵衛・・・安心しな、あいつにゃぁ出来る限りのことは教えた。見た目が頼りなかろうが、あそこに立ってるのは俺と思ってもらっても構わねぇよ・・・。」

 菊の助は憂う曹兵衛に口を扇子で隠しながらも、目の奥を輝かせてみせて、勇気付けた。


 そんな菊の助と曹兵衛が和気藹々《わきあいあい》?と話している間に割って入ってきたのは金太。


「・・・・・・殿っ、本当に全部善朗に教えたんですか?」

 金太は恐る恐るも驚きを隠せない様子で、善朗の事を菊の助に尋ねる。


「あぁ、教えたぜ・・・全部な・・・。」

 菊の助は善朗の方を見据えたまま、パンッと扇子を閉じて、扇子で肩を軽く叩きながら桃源郷での事を思い出しつつ、素直にそう話す。


「・・・・・・。」

 金太と菊の助の話を片耳で聞いていた秦右衛門は腕組みする両手に静かに力を入れて、善朗達。特に善朗を強い眼差しで黙ってみていた。







 周りの野次馬達が思い思いに自分達を見る中、最初に動いたのは、闘々丸だった。


「・・・姉上、何十年ぶりでしょうな・・・この日を私は指折り数えておりました。」

 闘々丸を握った若者は、その容姿からとは思いもしない妖艶な女性の声で静かにそうしゃべる。


「闘々丸よ・・・ワシはあの日を一日も忘れた事はない・・・お前をあの時、仕留め斬れなかった悔いはこの生の最後まで・・・いや、尽きようとも忘れる事はない・・・。」

 善朗が闘々丸に対して、その口で、善朗の声で話しているが、その口調は大前そのものだった。


〔ジャリンッ〕


 善朗が話し終わるのを見計らうように、闘々丸を持つ若者が大前を少し横に流しながら、後方へとスッと数m尋常ならざる距離を飛んで離れた。善朗は闘々丸が刀を流す瞬間に横に斬ろうとしたが、華麗に交わされる。




「がっ・・・ごがっ・・・ががああっ・・・。」

 若者は善朗から離れると途端に苦しみ出し、白目をむきながら、口から血を吹き出しつつ、足や手がボコボコと変形していく。そして、大きく若者の全体が風船のように膨らんだかと思うと、バンッと破裂した。




 若者が跡形もなく飛び散ったかと思われたが、若者が立っていたその場所には別の人物が、さも当然かのようにそこに立っていた。


「姉上もどうですか?」

 その声は先ほど、若者から発せられていた妖艶な声で、今度はその声に相応しい造形をしている。


 その者の容姿は、月の光に反射した美しい長い黒髪が柔らかな風にナビき、鋭く相手を見る眼光が闇に際どく光る。細く整えられたボディラインを紫を基調にした着物が覆い、怪しく手元で輝く闘々丸が次の獲物の品定めをしている。


 突然の相手の変化に驚き、目を丸くする善朗。


「・・・・・・あれは?」

 目の前にいた若者が全く違う容姿の人物に突然変わった事で、善朗の口から自然と言葉がこぼれる。


(受肉したようじゃ・・・若者の血と肉を使っての・・・。)

 善朗の疑問に言葉を搾り出すように大前が善朗の頭の中でそう答える。


 そうなってくると、善朗の頭の片隅に不安がよぎる。



〔姉上もどうですか?〕という恐怖の言葉。



 大前は何も言わないが、闘々丸が実際にして見せた『受肉』という方法を大前も使えるのではないかと善朗は自然と考えざるを得なかった。しかし、大前はそのような素振りも見せず、ちゃんと善朗の腕の中で、目の前の敵に備えているのが、善朗の杞憂である事を物語っている。




〔パンッ!〕

 敵を前にして、左手で自分の左頬を善朗が叩いた。




「・・・・・・。」

 闘々丸を含めた全員が目を丸くして、善朗の突然の奇行に目を奪われた。


(・・・・・・行こうか、主よっ。)

 大前以外の全員が善朗の行動を不思議がる中で、大前だけが善朗の真意を汲み取ったように見えた。


「すぅーーーーーーっ、ふーーーっ・・・行こうっ。」

 善朗は再び両手でしっかり大前を握り込むと、深呼吸をして大前に答える。




「・・・・・・何かと思えば、準備は宜しいようですね。」

 善朗を不思議そうに見ていた闘々丸が目を細めて、獲物を定めたように左手で服装を軽く正す。




〔ダッ!〕

 動き出したのは、善朗だった。

 善朗は地面を勢い良く蹴ると、闘々丸目掛けて、素早く迫る。最早、善朗の目には闘々丸しか目に入らなかった。




 闘々丸は距離を詰めてくる善朗を見て、ニヤケて自然と上がる口角を止められない。


 ずっとずっと狙っていた獲物が自ら迫ってくるのだから。


 闘々丸の頭の中には、ただただまだ味わった事がない善朗の甘美な血(魂)の味の想像が快楽となって駆け巡っていた。


「赤刀 活火激刀(かっかげきとう)!」〔ゴゴゴゴゴゴゴゴッ、ズバアアアアアアアアアンッ!〕

 善朗が握る大前が地獄のほむらをマトって、右から横一線に闘々丸を両断するように走る。


鬼炎絶斬きえんぜつざん」〔ゴゴゴゴゴワアアアアアアアアアアッ!〕

 迫り来る善朗の紅い炎の斬撃を予測していたかのように闘々丸も斬撃を放つ。その斬撃は善朗とは対照的に青く燃える。

 青い焔をマトった闘々丸が善朗目掛けて放たれた。




〔ボガアアアアアアアアアアアンッ!〕

 紅い大火と蒼い大火がぶつかり合うと、二つの炎が互いを喰らい合う様に混ざりつつ、二人を中心に大きく膨らみ大爆発を起こした。




 大火が大爆発を起こすと、そこを中心に突風が吹き荒れて、善朗達を取り囲んで様子を見ていた周りの人々を吹き飛ばさん限りに暴れまわる。


「きゃあああああああああああああああっ!」

「うわああああああああああああああああっ!」

 周囲の人々はその余りにも壮絶な突風に身を持って行かれまいと叫び声を上げながら必死に耐える。


 霊である曹兵衛達は、普段なら現世の風など、その身を透過して行くのだが、霊力で発生したその突風は霊すらもその影響を受けた。



(なっ・・・なんと言う一撃っ?!)

 曹兵衛は善朗達の戦いに度肝を抜かれ、思わず見たのは当の原因の善朗でなく、隣に立っていた菊の助の方だった。


「・・・・・・。」

 曹兵衛に見られているのもお構い無しに、突風を仁王立ちで耐えていた菊の助はただただ笑みを浮かべながら善朗をジッと見ている。







pixivにて、「紅蒼の炎舞」挿絵有

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