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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
幕間3 賢太奮闘記! 皇峨輪編
83/171

ボス猿とは、一つの山に一頭だけ。ドンと睨みを利かせて、敵を眼光鋭く射抜くもの・・・ガンの飛ばし合いって、こういうことなのか

 美々子が家に昼ごはんを食べに返って、かれこれ数時間後、相変わらず山々をダラダラ眺めている賢太と太郎だった。が、そんな二人の耳に甲高い声が届く。


「来たよおおおおおおおおおっ!」

 美々子は当然のように普通の人には空しか見えないお寺の屋根の上にいる賢太と太郎に向けて手を振っている。


「おぉ~・・・来られましたな・・・お茶菓子を用意しておりますよ・・・。」

 賢太達が見えない和尚は当然、美々子が自分に対して手を振っていると思い、手を振りながら美々子達を歓迎する。


 美々子が元気に手を振る横で、二人の老人が並んで歩いている。


「あらあら、和尚様、わざわざ申し訳ございません・・・美々子ちゃんどうする?」

 美々子の手を握っていたアヤメが、和尚の申し出をどうするか、美々子に尋ねた。


「美々子ちゃんは外で遊びたいんだろう・・・せっかくだから我々はご馳走になるとしよう・・・。」

 アヤメの話に合わせる様に少し後ろを歩いていたムネナリが腰に手を当てながら話す。


「なら、美々子ちゃんは外で遊んでいらっしゃいな・・・余り遠くに行ってはだめよ・・・。」

 アヤメはそう言いながら美々子と繋いでいた手を優しく離して、美々子を送り出した。


 賢太達が見えない和尚に対しての素晴らしい夫婦の連携だった。

 こんな田舎でも、田舎だからこそ、不思議に見られることは極力避けるのが得策だと知っている年の功だろう。美々子が自然と賢太達と合流できるように配慮して、なおかつ、一般人の和尚にも自然と受け入れられるような雰囲気をしっかりと作った。


「それでは、お二人とも客間の方へどうぞ・・・お茶をご用意しております・・・。」

 和尚は久々の話し相手ができることを内心喜ぶように、二人を招きいれた。


 アヤメ達はそんな和尚に素直に従うように導かれていく。


「・・・・・・。」

 アヤメは最後に賢太に微笑を向けた。


(・・・ずる賢い生き方しとんのぉ~~・・・さすがやな・・・。)

 賢太は口角を少し上げてアヤメに答えると心の中で、賢太なりに二人を褒めた。


「・・・・・・。」

 美々子はさすがに本堂の屋根には上れずにジィーっと賢太達を見上げている。


 そんな美々子の目線を気にして、先に動いたのは太郎だった。

 太郎はサッと本堂の屋根から飛び降りて、尻尾を振りながら美々子の元にスッと近付く。


 そんな太郎を尻目に賢太はズボンに両手を突っ込みながらゆっくりと降りる。


(世話んかかるやっちゃで・・・。)

 太郎とは裏腹に、めんどくさそうに賢太が美々子の元に近付く。


「そろそろ、猿が降りて来る頃だが、どうするのだ?」

 賢太が美々子の傍に近付いてくるなり、太郎が賢太に今後について尋ねる。


「これだけ狙って来とるんや・・・大体、降りて来る場所も同じちゃうんか?」

 賢太はなかなか鋭い考えを元に、太郎に返答するように尋ねた。


「・・・たしかに・・・猿達は同じような道を通ってくるな・・・そこに先回りして待ち伏せると言うわけか?」

 太郎が賢太の考えを察して、話す。


「ここから遠いんか?」

 賢太がサッと尋ねた。


「いや、そこまで離れていない・・・。」

 太郎は賢太にそう答えるが、美々子のほうを静かに見た。


「・・・・・・。」

 美々子は二人の話をキョトンとしてみている。


「美々子、少し歩くがええやろ?」

「うんっ!」

 賢太が美々子に移動する事を告げると、美々子は満面の笑みを返す。


「・・・・・・。」

 そんな二人の様子を黙ってみている太郎。








 その場所に行くのに、そう時間は掛からなかった。

 寺から少し離れている茂みの中、山の方を見ながら3人は今か今かと猿達を待っていた。


 3人が物音を立てずに待っていると


 〔ガサガサッ、ガサッ、タタタタッ、ガサガサッ・・・。〕

 〔キキッ・・・キッ・・・。〕

 山間を駆け抜けながら、お互いに会話しながら猿達が降りて来る音が3人の耳に響いてくる。


「ッ?!」

 最初に気付いたのは太郎だった。


 太郎が目線を送る先に、賢太が続き、美々子が最後に視線を送る。

 3人の視線の先には、木の枝の上でギラギラした目をする猿が一頭、ジッと3人を見下ろしていた。今のところ、3人の視界には一匹の猿しか見えないが、賢太や太郎には、その奥に何十頭もの猿の気配を感じていた。


「・・・・・・。」

 猿が口を大きく開けて、牙をチラつかせながら尻を上げる。


 猿が賢太達を敵と判断して、威嚇してきた。


(・・・生身ならともかく・・・かわいいもんやな・・・。)

 猿の威嚇を賢太は微笑ましく眺める。


 そんな賢太とは対照的な行動に出たのは太郎だった。


 〔ザザッ〕

 猿の威嚇を見て、賢太が眺めている横で、太郎がサッと猿と美々子の間に入った。


 それは野生の猿と対峙してきた太郎の経験から来る適切な行動だった。

 猿は3人に威嚇しているが、最初に襲おうとしていたのはもちろん一番弱いと見えた美々子だった。そのことを察知した太郎が美々子を守るために先回りしたのだ。


 〔ザザザザッ・・・ガサガサガサガサッ・・・。〕

 太郎の行動に反応するように周りの草木が出す音が騒がしくなってくる。



「やかましいわっ!!!」

 騒ぎ出した周辺を一喝するように賢太は仁王立ちで怒鳴り上げる。



「・・・・・・。」

 周りを騒がしていた音がピタリと止み、木の枝の上で威嚇していた猿も動きを止めた。


「美々子・・・話したい事があるんちゃうんか?・・・今のうちやぞ・・・。」

 賢太は木の枝に居る猿をジッと見据えながら、美々子にそう指示した。


「お猿さん、どうしたの・・・何をそんなに怖がっているの?」

 美々子は賢太に促されると、太郎の横にスッと並んぶように移動して、猿を見上げて、優しく声をかけた。


 〔ガサガサガサガサッ・・・。〕

 美々子が優しい声で語りかけたのが合図になったのか。周りの林の間から猿達がゆっくりと姿を現し始めた。その数はザッと見ても30頭を超えている。


「・・・・・・。」

 賢太は仁王立ちしたまま、猿達をグルリと見回し、太郎は体勢を低くして、いつでも美々子を守れるようにする。


 〔ザッ〕

 猿達がジッとしていると、木の枝にいた猿が美々子の数m手前に降りてきた。


「キキキッ・・・。」

 猿は縮こまった体勢で美々子に弱弱しくそう鳴く。


「・・・そうだったの・・・。」

 美々子は当然かのようにその鳴き声を受け入れる。


(おいおい・・・マジですか?)

 美々子のそのぶっ飛んだ光景に賢太は心の中で、ドン引きする。


「・・・なるほどですな・・・。」

「えっ?」

 美々子が納得するようになぜか太郎も納得する。疎外感を覚えた賢太が思わず驚きの声を漏らす。


(あれ・・・俺だけ?・・・俺だけ、分からないの??・・・俺が異常なの???)

 あまりの置いてけぼり感に体勢が崩れる賢太。


「オヌシには分からなくて、当然だ・・・気に病む事はない・・・どうやら、後ろには悪霊がいるらしい・・・。」

 太郎がついて来れない賢太をフォローするように猿との間に入る。


(・・・なんや悔しいが・・・まぁ、ええか・・・。)

 太郎のフォローに少々苛立つも賢太は黙ってそれを受け入れる。


「お猿さん・・・悪霊にいじめられてるんだって・・・。」

 美々子が猿を悲しげな目で見ながらそう話す。


「なら、話は簡単やろ・・・その悪霊っちゅうやつをぶっ飛ばさせばええんやっ。」

 賢太は事情を理解すると右拳を握りこみ、ニヤリと笑う。


 そんな賢太に呆れ顔の太郎。


「早々簡単ではない・・・山奥にいるのだぞ・・・美々子殿やアヤメ殿では行けないだろう・・・他の若い霊能力者を呼ばねば・・・。」

 太郎が現実的な問題点と解決策を提示する。


「アホか・・・そないなことしてられへんやろ・・・猿がこうも焦ってるっちゅうことは、その悪霊も焦っとる・・・手段選ばんで、猿達に何するかわからへん・・・時間かけれんなら、方法は一つしかあらへんやろ・・・。」

 賢太は太郎をニヤニヤしながら見る。


「・・・どういうことだ?」

 太郎が未だピンと来ていない事を言葉で表す。


「美々子・・・猿達は悪霊になんて言われてるのか聞けるか?」

 賢太が視線を太郎から美々子に変えて、そう尋ねる。


「・・・うん・・・聞いてみる・・・・・・お猿さんは何で暴れているの?」

 美々子は賢太に言われた通りに、猿達に尋ねた。


「キキキッ・・・キキッ・・・キキキッ・・・。」

 ボル猿と見られる木の枝から降りてきた猿が代表して、美々子の問いに答えているようだった。


「・・・皇峨輪を盗んで、壊して来いって言われてるんだって。」

 美々子が猿から聞いたことを賢太に伝える。


「やっぱな・・・そうやろうと思ったわ・・・なら、やっぱり、これしかあらへん・・・。」

 賢太が美々子の話を聞いて、口角を上げて、太郎を見る。


「・・・・・・?」

 太郎は相変わらず理解できないで居る。



「おもろぅ~なってきたでぇ~・・・。」

 賢太はそう言葉を零しながら、山の奥に居るであろう悪霊をギラついた目で見据えた。






お手数でなければ、創作の励みになりますので

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