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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
幕間2 JK霊能力者 冥
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お盆の親戚一同の顔合わせというか、集団面接はいつになってもなれません・・・御小遣いはしっかり貰います、はい

 

 〔ギャハハハハッ!〕

 〔ワハハハハハッ!〕



 善文が仏壇の前で手を合わせている。

(・・・兄ちゃん・・・初盆だね・・・お空で元気にしてますか?)

 善文は血色のいい顔で、丁寧に死んだ兄と向き合い、兄の冥福を祈っていた。


 そんな善文の隣で善朗が正座しながら

(善文・・・ありがとう・・・兄ちゃんは頑張ってるよ・・・。)

 ハンカチで涙を拭きながら善文に感謝していた。


 そんなしみじみと兄弟愛を感じている善朗に金太が、

「おいおいおいおいっ、しけた面してんなっ、善朗っ!」

 相変わらず料理を頬張りながら、痛絡みしてくる。


「なになに~、善朗君・・・お盆初めて?楽しくしてないと、生きてる人は報われないよ?」

 相変わらず酔っ払っている秦右衛門が金太と挟むように善朗に悪絡みしてくる。


 ここは、霊界ではない・・・8月15日、現世では向かい盆ということで、生きている親戚一同と共に、見えない脈々と連なっている親戚一同も人知れず、大集会を行っている。そう、ここは初盆と言う事で、いつもとは違い、善朗の実家に全員が集まっていた。


(生きている時は、ただでさえ、親戚の多さに引いてたけど・・・死んでから更に大人数になるなんて思いも寄らなかった・・・。)

 秦右衛門と金太に絡まれ、俯きながらも、仏壇の周りで騒いでいる人に見えない方々の大盛り上がりにドン引きしていた。


「ギャハハハハッ、こう言っちゃわりぃが、初盆っていうのは子孫は、いつも以上に気前が良くて、いいやねっ!」

 少年菊の助が上半身裸で、両手に扇子を持ちながら陽気に踊っている。(もちろん、酔っている)


「エンも入りますし、しっかり供養してもらって、嬉しい限りですなっ!」

 菊の助と一緒に軍服の男性が、服を脱ぎながらニコニコしている。


 居間では、現世の人達が、集まって騒ぎ。

 仏壇の前では、死んだ人達が騒いでいる。

 霊となったからこそ善朗には見えるが、想像を絶する狂喜乱舞が繰り広げられている。



(・・・・・・これが、後3日も続くの?・・・。)

 善朗は周囲の様子を見ながら、その想像を絶する大騒ぎにどう対応していいか苦慮していた。






「すいませんっ、大江戸出前便でーーすっ!ご注文頂いた、たい焼きアンコ、カスタード、白アン20個ずつ、ハムタマゴ、お好み焼き風10個お持ちしました!」

 家の天井からヌルリと現れたのは、霊界で配達のバイトをしている霊で、両手にどっさりとたい焼きの入った袋を持って、元気な声で現れた。


「おうおう、待っておったぞっ!」

 もちろん、たい焼きをこんなに頼んだのは他でもない大前だった。


 大前は付喪神と言う事で、お盆の帰郷は関係ないのだが、今は善朗の所有物ということで、それをネタに現世に来て、菊の助達と同様に大騒ぎしていた。


「兄ちゃん、兄ちゃん。後は酒と料理も配達頼むわっ!」

 出前を終えた配達のお兄さんに吾朗が、追加注文を出す。


「毎度ありッ!」

 配達のお兄さんは追加注文に笑顔で答えて、また天井を抜けて帰っていった。


 さすがに霊は現世では料理は出来ないので、こういうときは霊界から配達してもらうしかなかった。無縁仏の霊にとっては、現世で大騒ぎしている家族霊の注文などで、数少ない稼ぎ時なのだ。(お盆の時期は、霊不足なので、仕事につき、フリーパスが3日間配布される。)


「ちょっと、秦右衛門さん、毎年こうなんですかっ?」

 善朗は余りの大騒ぎに、さすがに見えない人にもばれるんじゃないかと変にヒヤヒヤして、秦右衛門に尋ねる。


「はははっ、善朗君は初めてだからねっ。毎年こんなもんだよっ・・・君が小さい頃からずっと変わらないよ。確かに今年は善朗君の家って言うのが違うけど。」

 秦右衛門は通い徳利で酒を煽りながら、ニヤニヤと上機嫌に善朗に答える。


「今年は特に懐具合もいいからなっ、善坊のおかげよっ!」

 金太が大皿を一つからにして、善朗の肩を抱く。


「主ッ、主はさっきからなんも食べておらんがいいのかっ?」

 大前がたい焼きを口いっぱに頬張りながら善朗に近付いてくる。


「・・・霊って、そんなに食べなくてもいいんでしょ?俺は稽古後以外で、飲み食いにそんな惹かれないから・・・。」

 霊は基本的にお腹は空かない。善朗にとっての飲み食いは、霊力の回復という一つの行動でしか、捉えられていなかった。菊の助達のように娯楽としての捉え方をしていないので、善朗は律儀にお酒も未だに飲んでいない。


「善朗君は真面目だねぇ~・・・こんなに娯楽がたくさんあるのに、おじさん達は残念だよぉ~。」

 秦右衛門が隙あらばとお酒を勧めてくる。


「俺、ちょっと散歩してきますっ!」

 秦右衛門の誘いを巧みに交わして、親戚の雑踏から逃げるように家を出る善朗。


「あっ、おい、善朗君っ!・・・外は気をつけるんだよっ!悪霊なんかも活発だからねっ!」

 秦右衛門は自分を交わして、外に出て行く善朗に現世での行動について注意するように教えた。


「はいっ、気をつけます!」

 善朗は頭だけを秦右衛門の方に向けて、ちゃんと返事をして、外に出て行った。







「主は騒がしいのが、嫌いなのか?」

 善朗を心配してついてきていた大前が、善朗の横を歩きながら、しっかりたい焼きを食べつつ、善朗に問いかける。


「・・・あんまり、人付き合いが得意な方じゃなかったからね・・・里帰りも、できればそんなにしたくなかったし・・・。」

 善朗がどこか俯き加減で大前に言葉だけで答える。


「縁と言うのは大事だぞっ・・・こうやって、たい焼きを腹いっぱい食べれるのも、子孫のおかげだ。」

 大前がたい焼きを食べながらニコニコしている。


「そうだね・・・生きてる時には本当にそんなこと考えた事もなかったよ・・・死んでから分かるって言うのも変な話だけどね・・・。」

 善朗が大前の幸せそうな顔を見ながら微笑んで答える。



 漠然と歩いていた善朗だったが、突然聞き覚えのある少女の声が響く。

「善朗君?」

「ッ?!」

 気がつくと善朗の目の前に冥が居て、冥に声を掛けられて驚く善朗。



「善朗君、初盆でしょ?こんな夜に出歩いて、家はいいの?」

 冥が腕組みをしながら、困惑顔を善朗に向ける。


「あっ、冥さん・・・冥さんこそ、こんな所で何を?」

 お盆とはいえ、もうだいぶいい時間の夜に女性一人で出歩いている事を心配する善朗。


「何って、パトロールに決まってるじゃないっ・・・お盆は悪霊達も活発になるから人が襲われないように霊能者達が見回りしてるのよっ。」

 冥が善朗の問いにさも当然のように答える。


 冥の答えに善朗の頭の中で、

(善朗君っ!・・・外は気をつけるんだよっ!悪霊なんかも活発だからねっ!)

 秦右衛門が出る時、善朗に忠告してくれた話を思い出した。


「・・・本当は式霊がいる霊能者は式霊と一緒に行動して、特に危険なポイントを見回りするだけど、善朗君は初盆だから、いつも通り、式霊が居ない霊能力者がやる比較的安全な見回りしてたのよ。」

 どこか不満げに冥が善朗に説明する。


「・・・そうだったんですね・・・なんだか、気を使ってもらって、すいません。」

 善朗は素直に冥の気遣いに恥ずかしそうに頭をかきながら、感謝する。


「いいのよ・・・善朗君が思ってるより、初盆って大事なのよ・・・新入りが死んだ事をちゃんと受け入れられるように周りも気を使ってるんだから・・・。」

 冥がニコリと微笑みながらそう善朗に話す。


「・・・ッ・・・。」

 善朗は冥のその言葉にハッとなる。


 菊の助達が騒いでいるのはいつもの事だとしても、初盆の善朗が死んだ事を気にしないように配慮していたんじゃないかと・・・。


「・・・善朗君、帰る?」

 冥が善朗の心を見透かすように微笑みながら尋ねる。


「・・・・・・いや、まだ今日を除いても2日あるから、今日はせっかくだし、お盆の見回りの仕方を教えてください・・・。」

 善朗は少し考えた後、冥に微笑みながら、お盆についてのご指導を申し入れる。


「・・・・・・しょうがないわね・・・比較的安全なパトロールだから退屈かもよ?」

 腕組みをして、冥がニコリと善朗に答える。


「初盆ですから・・・ねっ、だいぜっ・・・あれ?」

 冥の言葉に苦笑いしながら答え、隣居たはずの大前に声を掛けるが・・・。


 善朗が何処を見回しても、大前の姿はなかった。

「えっ?!・・・大前っ!」

 善朗は心配になってあたりをキョロキョロと見ながら大前を探す。


 しばらく大前を冥と二人で探した後、付喪神だから心配はいらないと言う冥の言葉に、パトロールに戻り、大前の事を頭の中で心配しながらも、冥に一通りパトロールの仕方を教えてもらった後、善朗が塞ぎこんで、家に帰ると大前はちゃんとドンチャン騒ぎの輪の中に居て、ホッとした善朗だった。



 大前曰く、

 たい焼きがなくなったので、冥とも会ったし、善朗は冥に任せて、早々に帰ったのだと言う。


 その言葉にどっと疲れがさらにたまった善朗。


 そんな善朗の方をジッと見ている者がいる。

 〔チリンッ〕

 その者の首から小さく鈴の音がする。


 その者とは、善朗が結果的に命を懸けて、助けたあの子猫だった。子猫は鈴付きの首輪をしており、善湖家で正式に飼われているのだろう。首輪のネームプレートには『ミィ』と書かれている。ミィはしっぽをゆっくりとパタパタさせながら、善朗の方向を見ている。


 たまたまなのか?

 猫の特異な感覚なのか?

 それは猫に聞かなければ、分からないだろう。


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