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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第2幕 ネオ大江戸辰区縄張り激闘編
54/171

~~エピローグ~~ 強敵と書いてトモと呼ぶ途中、ライバルと書いて相棒と読む道すがら

 



 辰区縄張り戦争から数日後の早朝。

「・・・・・・。」

 誰もまだいない、本堂で佐乃を上座に善朗と賢太が佐乃を正面に置き、二人並んで正座していた。



「・・・・・・。」

 賢太は今日もばっちり決まったリーゼントに、道着という違和感満点の格好で腕組みをしながら、横にいる善朗をにらみつけていた。


(・・・どういうこと・・・。)

 善朗は善朗で決して、賢太と目を合わさずに目を泳がして、正座をしている。


 佐乃が右拳を口に近づけて咳払いをする。

「オホンッ・・・それで、賢太はなんであたし達をここに呼び出したんだい?」

「ッ?!」

 佐乃に呼び出されたと思っていた善朗は大いに驚いた。


「・・・・・・。」

 賢太は佐乃の言葉を聞いて、なにやら俯いてモジモジしている。


「・・・賢太、あたしらも暇じゃないんだよ?」

 佐乃が腕組みをして、やれやれと呆れて賢太を促す。


「・・・なっ、納得いかんけど・・・後に入ったんやから・・・善朗は・・・兄弟子と言う事やけど・・・。」

 相変わらず俯いたままの賢太が頑張って言葉を搾り出す。


「・・・・・・ハッハッハッハッ。」

 最初は賢太の言葉に唖然としていた佐乃が突然笑い出す。


「しっ、師匠っ!・・・いくらなんでも笑いすぎやでっ。」

 賢太は顔を真っ赤にして、佐乃に抗議した。


「はははっ・・・いやいや、悪い悪い・・・あんたが変な気を使ってるがおかしくてねっ。」

 涙を流しながら大笑いして、やっと落ち着く佐乃。


「・・・・・・。」

 善朗はまったく意味が分からず、戸惑っている。


「賢太・・・あんた、勘違いしてるよ・・・善朗はここで確かにあたしが教えてはいるけど、弟子じゃない・・・外部から来てる言わば、客みたいなもんだよ。」

 佐乃がニヤニヤしながら、善朗と賢太の関係について説明した。


「ホンマですかっ・・・なんやぁ・・・こいつに敬語つかわなあかん、おもとったわ・・・。」

 賢太は佐乃の言葉にパッと明るくなって、身を乗り出す。


 身を乗り出した賢太の頭目掛けて、佐乃の拳骨が飛ぶ。

 〔ポカッ。〕

「アイテッ。」

 無防備なリーゼントの頭に見事に拳骨が命中して、賢太は尻餅をついて頭を抑えた。


「バカいうんじゃないよっ、客人ならなおさら敬語だろうがッ。」

 佐乃がさらに拳を振り上げて、賢太をしつけする。


「さささっ、佐乃さん・・・僕も賢太さんに敬語とか使われると困るんでっ。」

 善朗がここぞとばかりに佐乃に詰め寄り、賢太を庇うように手を広げた。


「・・・そうかい?・・・あたしとしてはどっちでも良いんだけど・・・善朗自身がそう言うなら好きにすると良いよ・・・そこまで年齢も違わないしね。」

「えっ?!」

 佐乃が素直に善朗の申し出を受け入れて許可を出すが、混じっていた言葉に善朗が驚いて、思わず賢太の方を見てしまう。


「・・・・・・。」

 賢太は罰が悪いように善朗から目線を外した。




「なんじゃ、おヌシ・・・まだ死んで日が浅かったのか。」

 大前が歩きながら、横にいる未だにばつが悪そうにしている賢太に言葉で刺す。


「・・・最初が肝心やからなっ・・・。」

 賢太は目線を外しながらも強がって話す。


「でも、10年違えば、相当違うような気がしますけど・・・。」

 大前を挟んで、横にいる善朗が素直にそう話す。


「ワシは何百年も違うぞっ。」

 大前が自信満々に胸を張る。


「大前はそもそも付喪神だから違うんじゃ・・・。」

 善朗が苦笑いで大前にツッコむ。


「・・・・・・とにかくや・・・俺はまだ、お前に勝つ事をあきらめてへんぞっ・・・師匠から稽古つけてもろうてたなんて、ずっこじゃっ・・・今度こそ、正々堂々男の勝負せいっ!」

 賢太がガニマタで善朗を指差しながら怒鳴りつける。



「せこいかどうかは、あなたが過ごした10年間にもよるんじゃないですか?」

「ッ?!」

 賢太が善朗に因縁をつけていると、賢太の背後からヌルリと乃華が口を挟んできた。賢太も驚いたが、善朗も驚く。


「ななななっ、なんじゃっ、姉ちゃん・・・どっから出てきとんねんっ!」

 賢太はすごい汗をかきながら、自分が驚いた事を隠すように乃華に怒鳴る。


「あらあら、案外怖がりですか?」

 乃華がホホホッと言わんばかりに右の手の平を口に当てて、賢太をあおる。


 からかわれた賢太は負けじと乃華に詰め寄り、

「なんや、姉ちゃんっ!喧嘩うっとんのかっ!?」

「師匠にいってやろうかしら・・・。」

「うっ?!」

 賢太は乃華に殴りかかりそうな勢いで迫るが、佐乃のことを乃華の口から出されると途端に固まった。


 賢太は賢太なりに、どうしたら善朗に勝てるかを真剣に考えていた。そのことを佐乃に相談した所、賢太の素行の悪さを指摘され、無闇やたらに喧嘩しないようにと言われていた。佐乃の元に来てからというもの、賢太も牙を抜かれた虎のように、猫が威嚇するような可愛さになってしまっていた。



「ところで、乃華さんは何か用事が?」

 善朗がタイミングを見計らって、乃華に尋ねる。



「そうそう・・・ちゃんと調べてきましたよ・・・オジキさんのこと。」

 乃華がカバンから紙の束を出して、賢太の前でビラビラと動かす。


 賢太がその資料目掛けて、手を伸ばす。

「キャッ!」

「・・・ッ・・・。」

 賢太は乃華から紙の束をかっぱらうと、その資料を隅々まで読み出した。


 資料には、虎丞の罪状が詳しくのっており、どのぐらいの地獄に行って、今後どうなるかまでかかれていた。虎丞はあの後、全ての罪の首謀者として、カムラと共に背負い、騒動の中で佐乃道場の門下生を消滅させた実行犯以外は、殆どの組員の地獄行きを査定の上下にまで留めた。そのかわり、虎丞達は第3地獄にまで落とされて、今も刑罰を受けている。


「・・・第3地獄は少し温情も入ってます・・・佐乃さん達の方からも情状酌量の申し出もありましたので・・・佐乃さんのお弟子さん達は何人か滅消されてますから、その方達の方は、転生先の優遇等で話が進んでいます。」

 乃華が賢太をけげんそうな目で見ながらも、ちゃんと説明する。


「・・・・・・。」

 賢太は必死に資料に目を通す。


「乃華さん、わざわざありがとうございました。」

 善朗も虎丞の事は知らない関係ではなかったので、ちゃんと調べてくれた乃華に頭を下げた。


「いえいえ、いいんですよ・・・ちゃ・ん・と・お礼を言ってもらえれば・・・。」

 乃華が善朗には微笑み、賢太には嫌味を言いながらにらんだ。


「・・・・・・ねえちゃん、すまんかったな・・・おおきに・・・。」

 賢太が資料から視線を乃華に向けて、真剣な目でお礼を言う。


「・・・うぅっ・・・別に・・・構いませんよ・・・善朗さんの頼みでもありましたから・・・。」

「ッ?!」

 乃華が恥ずかしさから言葉を滑らす。賢太はその言葉にハッとなり、善朗を見る。


「・・・いやぁ~・・・僕も気になってたんで・・・今日はたまたま賢太さんがいたからちょうどよかったというか・・・。」

 未だにリアルヤンキーの姿にビビッている善朗が目を泳がせながら頭をかく。


「・・・これもっ・・・強さってっ・・・やつなんかっ・・・。」

 賢太は資料をグシャリと握り締めながら、歯を食いしばる。


「善朗さんは式霊でもありますからねぇ。」

 乃華が善朗の背中に隠れてボソリと呟く。


「ッ?!・・・そうやっ・・・われっ、霊能力者とも契約して、実戦経験もつんどるんやろっ・・・ずっこじゃっ、俺にも紹介せいやっ!」

 賢太がまたガニマタで地団駄を踏みながら善朗を指差す。


(もう~~・・・乃華さん余計な事を・・・。)

 苦笑いを浮かべる善朗。

「いやいや・・・僕も式霊になった経緯は複雑でして・・・紹介も何も・・・。」

 善朗はそう言いながら両手を胸の前に出して振って、ジェスチャーする。


「いいやっ・・・ずっこいずっこい・・・今度、現世に行く時は俺もつれてけやっ!」

 賢太は善朗と、おでこを合わせて、脅迫に近い要求をする。


 善朗は必死に賢太から目線をずらしながら対応する。

「かかかかっ、構いませんけど・・・賢太さんは貴重な一日じゃ・・・。」

「お前が、その時に霊能力者用意すれば、ええんやないかいっ!」

 最早、無理難題を通り越している要求が善朗に振りかかる。


(もうどうにかしてよぉ~~~。)

 善朗は余りの賢太の攻めに隣にいた大前を見る。


「・・・・・・ハッハッハッハッ、いいことじゃいいことじゃ・・・切磋琢磨する相手がいるのは主が成長する上で、この上ないっ。」

 善朗に見られて、少し考える大前だったが、善朗の望んだような言葉が出てこない。


 あまりにも善朗を攻め立てる賢太に乃華が救援に入る。

「ちょっと、賢太さんっ・・・式霊って、どうやってなるかご存知なんですか?」

「しらんわっ、そんなもんっ。ちゃちゃっとしてくれたら、ええやろっ!」

「そんなわけないでしょっ!」

 が、賢太の横暴に見事に言い合いになる二人。



(もう誰か助けてええええええええエエエエエエエエエエッ)

 善朗の心の叫びが霊界中に木霊す。ような気がした。




お手数でなければ、創作の励みになりますので

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