ライフジャケットはちゃんと着て、落ち着いて救助者に背後から近付こう・・・冷静に川に逆らわず横に流されながら出来たら大丈夫だ・・・しらんけど
「・・・秦右衛門・・・なぜ、ここに?」
カムラはいるはずのない秦右衛門の姿を見て、汗を一筋頬に流す。
「ワシらをそう簡単に欺けると思うとは舐められたもんじゃっ。」
秦右衛門の隣で、少年菊の助がニヤニヤしながら腕組みをしている。
「・・・菊の助・・・。」
秦右衛門に続いて、菊の助の出現にカムラは焦りを隠せない。
「・・・ワシらが生きてきた時代はお主ぐらいの策は誰でも考えるっ・・・戦国の世をなめるなよっ、ワッパがっ!」
菊の助が大いに胸を張って、カムラに一喝する。
「・・・チッ・・・。」
カムラは菊の助の一喝に舌打ちするしかなかった。
「殿っ、どういうことですかっ?」
状況がいまひとつ掴めない善朗が菊の助に尋ねる。
「・・・こやつらは佐乃道場を潰そうとしておるのじゃっ・・・数日前、辰区で揉め事の中で虎丞組の人間が佐乃道場の門下生に刺されて消えた・・・佐乃側の完全な正当防衛じゃが、メンツだなんだという逆恨みの弔い合戦じゃろ?ワシらが騒いだ所で、ここまでくれば、こやつらはもう止まらん・・・なら、こやつらの策に乗って、動き出すのを待ったまでっ。」
ニヤリと笑って、菊の助がカムラを見る。
「・・・・・・。」
カムラは自分達がはめたと思っていた相手の手の平で踊っていた事に苦虫を潰す。
「・・・予想以上に準備されていたね・・・カムラ君もなかなか用意周到だ・・・ちゃんと善朗君のことも抑えていたんだろ?」
秦右衛門が着物の中で腕を組みをしながら、右手を着物から出してあごを触ってニヤける。
「・・・・・・。」
カムラの雰囲気を見て、虎丞組の組員達が臨戦態勢に入る。
菊の助は臨戦態勢に入ったそんな組員達を一睨みする。
「ワッパ共がっ。」
「ッ?!」
すると、驚く事に菊の助に一喝された組員達は突然金縛りにあって、身動き取れなくなる。
金縛りあって、動けない組員達をぐるりと見る菊の助。
「・・・これがおぬし達とワシとの力の差じゃ・・・小突いただけで消し飛びそうな奴は端から舞台にもあがれんっ。」
菊の助の霊力の圧だけで組員達は戦闘不能になった。
これが幽霊の戦い方の一つ。(実力者が一睨みするだけで、敵が気を失うという覇っ・・・あっ)
「善朗君、ここは僕達に任せて、君と大前は佐乃道場に行きなさいっ。」
腕組みをして、組員達を掻き分けて、カムラの目の前に陣取る秦右衛門。
「・・・・・・。」
カムラは金縛りにあったわけではないが、秦右衛門の出方を伺って、下手に動けない。
「はっ、はいっ!」
善朗は門のところにほうきを置いて、秦右衛門や菊の助に一礼して、佐乃道場へと向かう。
「喧嘩じゃっ、喧嘩じゃッ!」
大前は皿にあったおはぎを一瞬で平らげて、皿をちゃんと置いて、善朗に万歳しながらついていく。
「ちょっ・・・ちょっと待ってくださいっ!」
乃華が止めなければいけない立場で困惑する。
「乃華ちゃん・・・殿が言ったように、ここまで来たら、もう行く所まで行かないとお互い止まれないんだよ・・・心配なら善朗の事、頼むね・・・。」
秦右衛門は腕組みをして、ウィンクしながら乃華にそう告げる。
「・・・・・・。」
乃華は秦右衛門の言葉を渋々ながらも飲み込み、善朗の後を追った。
「・・・あの少年が行った所で、どうかなるとでも?・・・行かせるべきじゃないんじゃないか?」
カムラが精一杯の言葉で秦右衛門を責める。
「確かに、君の言う事ももっともだけど・・・善朗君を舐めすぎだな・・・。」
ニヤリとした顔をしながらも、目の奥をギラつかせて、秦右衛門が腕組みをしたまま臨戦態勢に入る。
「・・・少々、動ける者も残っておるな・・・どうじゃ、消える覚悟がある奴は居るかっ?」
青年菊の助が無手の構えで、虎丞組の組員を恫喝する。
「・・・・・・。」
なんとか動ける組員達はお互いの顔を見合わせてみるが、別の意味で動けない。
「殿ッ!どうかなされましたかっ?」
そうこうしていると、流石に武家屋敷の中で宴会をしていた面々が酒ビンを持ったり、バットを持ってきたりとワラワラと集まってきた。
「・・・んっ?吾朗っ、金太はどうしたっ?」
菊の助はワラワラと集まる面々の中に金太の目立つ姿がないことが気になった。
「・・・・・・出て行ったまま帰ってきておりませんが?」
「あのバカモンがアアアアアアアアアアアアアアッ!」
吾朗が素直に答えると、菊の助が地団駄を踏んで怒鳴る。
「・・・あらあら・・・金太の奴、あれほど注意しとけよって言ったのに・・・。」
秦右衛門は金太の失態に流石に頭を抱える。
「吾朗ッ!今すぐ、探して、ケツひっぱたいて来いっ!」
「御意ッ!」
菊の助がカムラにかっこつけた手前、金太がまんまと罠にはまっている事が恥ずかしくなって、吾朗にすぐさまつれてくるように怒鳴り散らす。
吾朗はとんだとばっちりだが、殿の逆鱗に触れないように即座に街へと走っていった。
「・・・・・・。」
緊張感の削がれる場面にカムラが唖然とする。
「・・・申し訳ないね・・・君もなかなかの策士だったよ・・・。」
苦笑いでカムラを改めざるを得なくなった秦右衛門だった。
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