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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第2幕 ネオ大江戸辰区縄張り激闘編
46/171

もしも、川で溺れている人がいて、助けたいと思うが、素人は手を出してはいけない・・・ちゃんとライフジャケットを着て・・・次回に続く。



(ホントにもうっ・・・融通の利かない人なんだからっ!)

乃華は長官室から出ると床をドスドスと歩きながら心で悪態をつく。




そんな乃華が廊下を歩いていると、向こうから聞きなれた声が聞こえてくる。


「乃華ちゃーーーーーんっ!大変だよおおおおおおおおおっ!!」

廊下の向こうから乃華に大声を出して、走ってくるのは他の誰でもない伊予だ。


「・・・伊予ッ?・・・どうしたの?!」

乃華は伊予に気付くと、立ち止まって伊予に大きな声をかけた。


「大変大変ッ、いよいよいよいよ始まったよッ!」

伊予は乃華のところまで来ると今度は乃華の周りをピョンピョン跳ねながら手をバタバタしている。


「ちょちょっ、全然わかんないわよっ!何が始まったの?」

自分の周りを跳ね回る伊予を捕まえて、真相を詳しく聞こうとする乃華。


「虎丞組が佐乃道場に殴り込みを仕掛けたのっ!善朗君の所にも人が集まってるって情報がっ・・・。」

「それを早く言いなさいッ!」

「あいたっ、乃華ちゃんッ!置いてかないでよおおおおおおおおおおおっ!」

伊予が騒いでいた理由をしゃべると乃華は即座に反応して、伊予を投げ捨てて走り出した。

せっかく大事な事を伝えに来た伊予は乃華に床に叩きつけられて尻餅をつく。

走り去っていく乃華に手を伸ばす伊予だったが、あっという間に乃華は走り去っていった。



「乃華ちゃんっ、ひどいよおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

伊予は姿を消した乃華に手を必死に伸ばして、滝のような涙を流して、両側に虹を作って悲痛に叫んだ。



(・・・どうして、善朗君の所まで・・・何をしようとしているの?)

乃華はネオ大江戸庁を飛び出して、菊の助の武家屋敷に猛スピードで飛んでいく。

霊界の空は飛んでいる人はそこそこにいるので、ぶつかるのではないかと心配するだろうが、そこは幽霊なので、どれだけ人にぶつかろうともすり抜けていけるのが利点だ。


「バカヤロウッ!あぶねぇじゃねーかっ!!」

「ちょっとっ!」

乃華は進行方向を遮って飛んでいる人達をお構い無しにすり抜けていく。

たしかに幽霊だから関係ないのだが、気持ちよく飛んでいる横ではなく、自分の身体の中を抜けていかれると気持ちいいものではないので、実害がなくても怒る人は怒るものである。



「うるさいっ!私は管理官よっ!どきなさいっ!邪魔するなら地獄に落とすわよっ!」

乃華は一々害もないのに騒ぎ立てる一般人に暴言を吐いて行く。



〔うわああああああああああああっ!!〕

乃華の本気とも言える暴言に霊界の一部の空は大混乱になった。




「・・・・・・それって・・・どういうことですか?」

カムラの不可思議な言葉に善朗の心がざわつく。




「・・・なんのことかな?」

カムラは分かっていながら善朗に質問を返す。


「・・・殿達がなぜ外出したかも知ってるって事ですか?」

善朗は掃除に使っていたホウキを持つ手に力を込める。


「・・・君の名前を聞いても?」

カムラは異様な少年にふと気になって名前を尋ねる。


「・・・善湖善朗です・・・。」

善朗はカムラをジッと見ながら素直に答える。


「・・・なるほど、君があの善朗君か・・・こちらに帰ってきているなら好都合かもしれないな・・・。」

腕組みをしてカムラがニヤリと口角を上げる。




「善朗くううううううううううんっ!!!」

善朗がカムラと睨み合う中、上空から乃華の声が一帯に響き渡る。




「乃華さんっ?!」

善朗は頭上を見上げて、乃華の姿を捉えると乃華の名を呼んだ。


(・・・あれは・・・虎丞組の・・・それに、善朗君の隣にいるのは・・・カムラッ?!)

さすが管理官というところか。

乃華は武家屋敷の周辺に集まっている人間を見て、即座に所属を言い当て、善朗の隣に立っている人物が誰であるかも瞬時に導き出した。


「おいっ、こらっ、じゃっ・・・。」

「うるさいっ!地獄に落ちたいのっ!!」

「ひっ?!すいませんっ!」

乃華が突っ込んでくるのを制止しようとした虎丞組の組員だったが、乃華の一喝で逆に謝って道を開ける。


「善朗君っ、これはどういうことなの?」

乃華は善朗の隣まで来るとカムラを見ながら善朗に尋ねる。


「俺にも何がなんだかさっぱりで・・・ただ、このカムラさんが殿達に何かしたみたいで・・・。」

善朗もカムラから目を離さずに乃華からの問いに答える。


「・・・君は・・・管理官の乃華さんか・・・。

「ッ?!」

カムラが乃華のスーツの左胸にある名札を見て、乃華の名を読み上げる。

乃華はバッと名札を隠すが時既に遅し。


「いやいや、管理官・・・我々はただ、ここでお話しをしているだけですよ・・・善朗君もそんなに警戒しないでくれ・・・君たちが外に出なければ我々としても、それ以外をとがめるようなことはしないよ・・・。」

カムラは両腕を大きく横に開いて、ニコニコと笑う。


「・・・外に出ようとしたら・・・どうするんですか?」

善朗が恐る恐るカムラが気にしている事を聞く。



「・・・・・・どうなるか、試してみるかい?」

ニコニコとしていた表情を一瞬で変えて、カムラが善朗の顔の近くまで、自分の顔を近づける。



「ちょっと離れなさいっ!・・・それに、こんなに集まって迷惑です!すぐに解散して下さいっ!!」

乃華が善朗に近付くカムラを押しのけて、周囲の組員に叫ぶ。


「・・・何の理由で?」

「えっ?」

カムラは乃華の力によって、素直に善朗から離れると、静かに乃華に問う。

カムラの問いに乃華は固まる。


「管理官が何の権限で、公道で集まっているだけの我々を排除しようと?」

カムラが再び大きく両腕を広げて、乃華にさらに問う。


「・・・・・・。」

乃華は次の言葉が出てこない。

霊界には現世のような法律はない。

基本的に自由が尊重されているので、人に迷惑をかけてもエンの査定が下がると言うだけなのだから、カムラ達がここでタムロして、善朗達に迷惑をかけたとしても、エンの査定に響くだけだった。


「・・・来月の査定は下がるでしょうが・・・なんなら、さっき、うちの組員に怒鳴ったみたいに地獄に落とす権限でもあるんですか?」

カムラは狡猾に乃華を攻め立てる。

乃華にそんな権限などないことも知ったうえで詰め寄っていく。


「・・・ぐっ・・・うぅっ・・・。」

乃華はカムラを睨むしかできなかった。




「どうかしたのか、主?」

善朗とカムラが睨み合うその場所に、おはぎを頬張りながら颯爽と現れたのは大前だった。




「・・・大前・・・。」

さすがのカムラも少し怯む。

大前は付喪神。

大前自身が暴れると言う事はないが、大前を使って暴れられたら、カムラとしても厄介だった。


「おうおう、どうした・・・客人か?」

大前がニヤニヤしながら、虎丞組の連中を品定めしている。




「・・・佐乃道場に行かせたくないんだろ?」

「ッ?!」

虎丞組に大前の登場で緊張感が走る中、善朗達を囲む外側から男の声が聞こえる。

その声に一番驚いたのは他でもないカムラだった。





お手数でなければ、創作の励みになりますので

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