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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第2幕 ネオ大江戸辰区縄張り激闘編
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神様は一体どういう視点で人間を見て言うのか?良く、どうして、神様は助けてくれないのかと言うが・・・神様は薄情なのか?



「ナナシ様ッ!ご存知なんですよね?・・・犯人を知っているなら教えてくださいっ。」

乃華が自分に背中を向けて、窓の外を見ているナナシに強い口調で何かを尋ねている。

乃華の手には、あの悲劇の物証であるドスがビニールに入れられた状態で持たれ、ナナシの方に突き出されている。




「・・・・・・。」

ナナシは乃華の方を未だ見ずにネオ大江戸の風景を楽しんでいる。


ここはネオ大江戸の中心に位置する大江戸庁の長官室。

綺麗に掃除された広い一室に客人用の大きなソファーがテーブルを囲んで置かれ、上座には大きなテーブルがあり、テーブルの上には長官の名札だけが置かれている。

部屋を入って、左側は一面のガラス張りで、そこから見るネオ大江戸の風景は圧巻だった。

ナナシは先ほどからそのガラス張りの窓から街を見下ろしている。



「・・・どうして、何も答えてくれないんですかっ?」

乃華はさっきからずっと無視を決め込んでいるナナシにご立腹で、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。


「・・・乃華は、神様のことをどう思う?」

「えっ?」

ずっと無言だったナナシが突然哲学的な質問を乃華に投げかける。

その唐突で難解な質問に驚く乃華。


「・・・神様っていうのはね・・・簡単に言うと、試験官なんだよね・・・。」

ナナシがそう言いながら身体を乃華のほうにやっと向けて、微笑む。


「・・・試験官?」

要領を得ない答えに乃華が困惑する。


「・・・神様はテストという人生を受けている人達をジッと見守っているんだ・・・カンニングをしている人も、えんぴつを転がして答を導き出そうとしている子も・・・。」

後ろでに手を組んでニコニコと話すナナシ。


「・・・そのドスも確かに誰がどういう思惑で用意して、どういう経緯で使われたかも知っているよ。」

ナナシは乃華の話の核心的な部分に触れる。


「じゃぁっ!・・・。」」

「それでも、僕の口からは何もいえない・・・。」

乃華がそれなら答を教えてくれとせがもうとしたが、食い気味にナナシが拒否する。


「・・・テスト中に試験官に「答を教えてくれ」なんて誰も言わないだろ?」

ナナシが腕組みをして、乃華を見る。


「・・・神様っていうのは、試験官であり、採点者だよ・・・人間がどう生きて、どう死んでいくか・・・そして、審判を受けるまでどう過ごすか・・・それをすべて包み隠さず、知っている・・・知っているからこそ、その者の本質が全て分かる。」

ナナシはそう話しながら乃華にゆっくりと近付く。


「・・・奇跡を神様の気まぐれだと言う人もいるけれど・・・神は決して、人の人生に手を出さない・・・その難問をどう乗り切るかを見て、ちゃんと点数をつける・・・ちゃんとがんばった人にはちゃんと点数をつけて、ズルをすれば、ちゃんと減点をする・・・それが神様の立場であり、本質なんだよ。」

ナナシは乃華の前に立ってニコリと微笑む。


「・・・・・・。」

乃華はそこまで聞くと、ドスを持つ手を下げて俯く。


「・・・分かってくれて、ありがとう乃華・・・。」

乃華の様子を見て、ナナシが背を向けて、自分の机の方に歩き出す。


「・・・神は決して人間に干渉しない・・・この世界の絶対的ルールですよね・・・。」

乃華が俯いたまま言葉を搾り出す。


「・・・そうだね・・・。」

ナナシは椅子まで歩いて、背もたれを左手で掴んで机から離す。


「・・・ササツキ組に対しての罰は・・・ちゃんと行われるんでしょうか?」

乃華が悔しそうな表情を向けて、ナナシに質問する。


「・・・霊界では常に毎月評価は下される。エンと力の上下でね・・・。」

ナナシはゆっくりとフカフカの皮製の椅子に座る。


「・・・闇で笑ってる悪党がずっとのさばるって事ですか?・・・。」

乃華が問題の本質をナナシに尋ねた。


「・・・霊界ではエンがあれば、どんな人物でも滞在できるね・・・それがルールだ・・・。」

ナナシが椅子を机に近付けて、両肘を突いて、手を組む。


「・・・・・・。」

乃華が不条理な世界に口を真一文字に閉じる。


霊界では、エンが全てを支えているが、その本質が霊界のけがれを助長している原因にもなっている。霊界には確かに『自殺者・悪霊・怨霊』という類は入れないが・・・。


入ってからなった場合はどうだろうか?


答えは、排除できない。

ルールとしては、エンがあれば、霊界での滞在は認められて、どんなに魂がけがれていようとも一度霊界に入ってしまえば、それを排除する事は管理側には出来ない。


しかし、だからと言って、霊界に悪霊などが蔓延してるかと言えば、NOだ。


それは各区に自警団と言われるものが存在していたり、区内での自浄作用があるからであり、霊界内では神聖な力の影響が強すぎて、悪霊はそこまで力を発揮する事が出来ない事も大きい。

だが、それなら乃華が心配する必要はないと言えるが、


力が発揮できないだけで、頭が回る狡猾な悪党ならどうだろうか?


それこそが、乃華が危惧していたササツキの存在ともいえる。

ササツキは狡猾に人を使い、今回も虎丞組と佐乃道場を混沌へと陥れた。

その処分は、エンの上下と、霊力の上下でしか裁かれない。

ササツキには力は要らない。

ササツキが滞在するためのエンがないのなら、別の人間が集めればいい。

ササツキは絶妙なコントロールで力を上下させ、力と金で組を維持し、エンを集めて、勢力を伸ばして行き、今回さらに伸ばそうとしている。



「・・・分かりました・・・失礼します・・・。」

これ以上の問答は時間の無駄だと乃華がきちんと会釈をしてナナシに背を向けて、部屋から出ようとする。



「・・・乃華・・・全部知ってるけど・・・僕はそこまで心配はしてないよ・・・。」

ナナシは出て行く乃華に言葉をかける。


「・・・?・・・」

乃華は部屋を出ようとしたが、ナナシの言葉に振り返る。


「・・・神は決して、人には干渉しない・・・でも、ひた向きに頑張ってる人間は大好きなんだ。」

ナナシはそう言うとニッコリと笑った。




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