ライバルとの壮絶なバトルで、切磋琢磨する姿は見てて熱いもので、そう言った話は避けては通れないと思うのですが
「・・・私は・・・私はなんてことを・・・。」
とある殺風景な一室。
一つの机と二つの椅子が置かれた一室で上座に座っている胴着の男がうな垂れていた。
「・・・貴方の行為は正当防衛ですから、心配いりませんよ・・・ここにつれてきたのは、安全確保と冷静に事情を聞くためですから・・・。」
座ってうな垂れている男の隣で、腕組みをして乃華が男に声をかける。
「あのまま、あそこにいたら、チンピラ達になにされるか分からなかったもんねっ。」
男の向かいの椅子に座って、頭の後ろで手を組んでにやけている伊予が続く。
(・・・いったい辰区で何が起ころうとしてるんだろう・・・善朗さんは大丈夫かしら・・・。)
乃華はうな垂れる男を見下ろしながら、今回の事件について考えていた。
乃華達はまだ新人だった為に虎丞組と佐乃道場の関係をそこまで詳しくなかったのが、初動が遅れたのはその為だった。もし、もう少し知っていたのならば、対策も立てられたのだろうが、そこは仕方のない面もあった。
「タノモオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
賢太が佐乃道場の門の前で、仁王立ちに腕組みをして大きな声で中にいる人間に声を張り上げている。
(・・・あれって、確か・・・賢太さんだったような・・・。)
賢太の姿を見て、善朗が思い出す。
「・・・何々ぃ~・・・面白そうな子だね。」
ニヤけて他人事のように言葉を吐く秦右衛門。
「・・・・・・オッ?!・・・お前、探しとったぞっ!」
「えっ?!!」
反応の無い佐乃道場にイライラした賢太がキョロキョロ周囲に目をやると、丁度善朗と目が合う。突然、賢太に声を掛けられて驚いたのは善朗だった。
「・・・見た目で騙されとったが、なかなかの男やないかっ!・・・俺と勝負せいっ!」
ズカズカと善朗の方に歩いてくる賢太。
「えええええええええっ?!・・・なななななっ、なんでですかっ?」
善朗は完全にヤンキー姿にビビり、腰が引ける。
「大声で人のこと呼びつけておいて、何処に行くんだいっ!」
賢太が善朗の方に近付いていくと、佐乃道場から佐乃が出てきて、賢太に叫んだ。
「なっ?!・・・いやっ・・・たしかにそうやけど・・・このガキはあんたんとこの門弟なんやろっ!」
賢太は後ろから佐乃に声をかけられて驚くが、気を落ち着かせて、佐乃に善朗の事を尋ねる。
「・・・・・・正確には言えば違うが・・・善朗がどうかしたのかい?・・・勝負させろ!なんていってたねぇ・・・。」
佐乃が腕組みをして賢太を睨みつけて答える。
「・・・この男にでかい顔させるわけにはいかんねんっ!どっちが強いか分からせな収まらんのやっ!」
賢太が佐乃の方にしっかりと身体を向けて、睨み返す。
「・・・・・・あんた達は本当に小さい男達だねぇ・・・体裁や強い弱いに敏感で、怯えて・・・。」
「なんやとっ!」
佐乃が賢太の言葉を鼻で笑うと、賢太は激昂する。
「なんじゃっ、喧嘩か?!」
佐乃が賢太と言い合いをしていると佐乃の後ろから大福を食べながら大前が姿を見せた。
「・・・・・・まぁっ、いいだろう・・・本当はこんなしょうもないことで、果し合いは認めないんだが・・・善朗の良い稽古になる・・・。」
佐乃が怒り狂っている賢太をニヤリとみて、その後ろの善朗を見る。
「なんとっ!おもしろそうじゃなっ!」
大前が佐乃の横で腕まくりをして、やる気満々だ。
「・・・大前、あんたはだめだよっ・・・善朗っ!さっさと支度しなっ!」
「なんじゃとおおおおおおおおおおおおっ?!」
やる気満々の大前の鼻をへし折ると、佐乃は善朗に声をかけて、門を潜っていった。
大前は愕然と肩を落として残念がる。
(ええええええええええええええええっ・・・どうなってんの?!!!)
賢太に声をかけられて固まっていた善朗がそのままの状態で心の中で叫ぶ。
「・・・なんや分からんがっ・・・勝負はできるみたいやな・・・楽しみやっ。」
賢太は善朗をイチベツするとニヤリと笑って、佐乃の後に続いて中に入っていった。
「これはこれは・・・おもしろそうだねぇ・・・殿にも連絡しようかなぁ。」
秦右衛門はそう言いながら道場の方へと歩き、スマホを取り出してどこかにかけてる。
「・・・・・・。」
当の本人を置いてけぼりにして進んでいく話に固まったまま思考も働かなくなる善朗。
「・・・なんじゃ、主っ・・・どした?」
大前が善朗の周りをうろうろしながら善朗に声をかける。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
善朗が飛んだ意識を戻すと、そこには道場の中央で立ち会う賢太がいた。
流石に道場の中で、立ち会うとあって、賢太も黙って善朗を見ている。
善朗は呆けた顔を戻して、賢太の眼光に背筋を伸ばした。
「・・・いいかい?勝負は一度・・・どちらも素手だ・・・勝敗は私が決める・・・。」
佐乃が道場の一番奥で正座して二人の立会いを見ている。
「・・・・・・。」
佐乃の横には秦右衛門から連絡を受けた菊の助が大前と一緒に並んで黙って座って様子をみていた。
「善朗君~~っ、大丈夫だよぉ~~・・・リラックスリラックスぅ~~。」
通い徳利を肘置きに秦右衛門が気軽に善朗に声をかける。
「・・・善朗とか言ったな・・・お前の事は会った時からウズウズしとったんや・・・前哨戦やが、全力でいかせてもらうでっ・・・。」
賢太なりの我流のファイティングポーズを取り、善朗を見据える。
(・・・・・・どうしてこんなことに・・・。)
善朗は善朗で、稽古で身に付けた構えを納得しないながらもして、一応臨戦態勢を取る。
「・・・・・・善朗っ!」
「はいっ?!」
善朗の身のないっていないことに気付いた佐乃の一喝が善朗に飛ぶ。
善朗は条件反射で、背筋をピンと伸ばして佐乃の方を向き、驚きながらも元気に返事をした。
「・・・善朗・・・火の粉はいつだって突然降りかかってくるもんだよっ・・・だからと言って、油断していたら、護れるものも護れない・・・勝負は勝負・・・しっかりと向き合いなっ!・・・あんたには護りたいものがあるんだろっ!」
佐乃が腑抜けた善朗にカツをいれるようにしっかりと善朗の目をみて、しっかりと言葉を届ける。
「・・・・・・。」
善朗は佐乃の目と言葉を受け取って、深々と黙って挨拶をした後に、賢太の方に向き直って、今度はしっかりと構えた。
(・・・なんや・・・さっきまでとは全然違うやないか・・・おもろい・・・。)
しっかりと構えた善朗の全体を見て、賢太がニヤリと笑みを浮かべる。
「始めッ!!」
佐乃の大きな開始の合図が道場内に響き渡る。」
〔ビュンッ!〕
最初に仕掛けたのは賢太だった。
賢太の鋭い左のストレートのようなジャブが善朗の顔面目掛けて飛ぶ。
善朗は後ろに上体を引いてその左を交わす。
〔シュバンッ!〕
左を交わしたところで、賢太が左を出す際に一緒に前に出していた左足を軸に右のハイキックを繰り出す。
善朗はそれを屈んで交わした。
(もろたっ!)
屈んだ善朗を見て、賢太が今度はタックルの体勢に入る。
「ッ?!」
タックルをしようと善朗に飛び掛った賢太だったが、そのことを予測していたのか、空中に飛び上がる善朗。その姿を見て、驚く賢太。
「なめんなやっ!」
空中に飛ぶ善朗目掛けて、賢太も飛んで襲い掛かる。
〔ビュンッ、ビュビュッ、ビシュンッ!〕
空中で賢太の猛攻が善朗に襲い掛かる。
その猛攻を余裕を持った距離で交わす事に専念する善朗。
「なんやっ!ビビっとんかっ、撃ってこんかいっ!!」
交わす事だけしかしない善朗に口撃をしかける賢太。
「・・・・・・。」
賢太の口撃も全く気にせず、真剣な目で賢太全体を見ている善朗。
「・・・なかなか様になってきたな・・・。」
善朗の様子を見て、菊の助が言葉をこぼす。
「佐乃よ、なぜワシはここに居るのじゃっ!」
菊の助の隣でジッと座っていた大前だったが、善朗の戦いを見て、身体をウズウズと小刻みに震わせている。
「・・・いやいやぁ~・・・なかなか、どうして・・・末恐ろしい・・・。」
お酒を一切飲まずに徳利を肘掛けにしたままニヤニヤしながら秦右衛門がみている。
「・・・・・・。」
佐乃は大前の言葉など全く届いていないように真剣に善朗を見据えていた。
(・・・チィッ・・・ちょこまかちょこまか動きよってからにぃっ・・・。)
猛攻で善朗を襲うも全く相手を捕らえられない賢太が苛立つ。
〔ビュッ、ピシィッ〕
その時だった・・・賢太がリズムで出していた右に善朗が左のフックを合わせて来た。
あわやと言う所で、賢太は野生の勘で被弾を回避するも左頬をかする。
(・・・ええ左やないかっ・・・。)
賢太は素直に善朗の攻撃を褒めて笑う。
「・・・・・・。」
善朗は黙って、賢太を見据えている。
「・・・・・・。」
善朗のカウンターに賢太も闇雲に責めるのをやめて睨み合う。
〔・・・・・・・・・・ビュオッ〕
ほんの数十秒にらみ合った後、やはり最初に動き出したのは賢太だった。
早い左で善朗の顔面狙うも、その賢太の左は空を切る。
「・・・・・・。」
「ッ?!」
賢太の左に善朗の手も動くが、それを見て、賢太が口角を上げた。
賢太の顔を見て、善朗は一瞬動きが止まる。が、
「・・・もろたで・・・。」
賢太が笑う。早い左と同時に半歩深く身体を近付けていた賢太。
善朗のカウンターを誘い、肉を切って骨を絶つ動きをする。
善朗も賢太の動きに気付くが、動きが鈍った事が、場数の経験の差を感じさせた。
賢太がスルリと善朗をフォールドして、勢いをつけて道場の床へと善朗共々落ちていく。
〔ドーーーンッ!〕
賢太は善朗を下にして、善朗を床に叩きつけるが、自分もただではすまなかった。
「・・・ぐぅっ・・・。」
身体の状態は大丈夫だが、ダメージを受けた事に少しひるむ善朗。
「・・・ここからやでっ・・・。」
ダメージを自分も受けながらも賢太は笑っている。
そこからは撃ち合いになる。
喧嘩の場数の圧倒的な差で、賢太から繰り出されるフェイントに翻弄される善朗。
数発食らうと、善朗も踏ん切りをつけて、フェイントもろとも賢太に攻撃を繰り出し、互いにダメージ交換をしていく。
霊体は疲れやダメージによる減退が遅い分、お互いの攻撃が重く相手を抉る。
しかし、ある一定を超えると削られた霊力のダメージが身体を鈍らせた。
「・・・ッ?!」
さきに動きが鈍ったのは、善朗だった。
善朗の膝が少し落ちる。
「決まりやなっ・・・おっ?!・・・。」
勝利を確信した賢太が笑うが、足も同時に笑った。
「・・・・・・ッ。」
賢太の集中力が切れた瞬間を善朗は逃さず襲い掛かる。
(甘いでっ、ガキがッ!)
善朗の行動に賢太は迎え撃つ気満々で歯を食いしばる。
下段から向かってくる善朗に賢太が右を振り下ろす。
賢太の右に合わせて、善朗の右が一直線に伸びる。
寸前のところで、善朗の右を右頬にかすめながら賢太が左フックを放つ。
「オラッ!!!」
渾身の狙った一撃を善朗の右のこめかみに放つ賢太。
「・・・・・・。」
賢太の一撃を受ける善朗。
勝負はついた。
賢太はそう確信した。が、
そこから、一瞬世界がとまったかのように見え出す。
(・・・なん・・・や?・・・。)
賢太は勝利を確信した次の瞬間、善朗を見上げていた。
善朗は賢太の一撃を受けたものの、ダメージを床に流して踏ん張り、素早く体勢を立て直した。
これは賢太と善朗の覚悟の差だった。
その覚悟の差が、賢太には途方もなく善朗を大きく見せた。
そこからゆっくりと世界が動き出す。
迫り来る善朗の左拳。
分かっていても、自分すらゆっくりと動く世界で賢太にはどうしようもなかった。
善朗の左フックが賢太の顔面を捉えて、賢太の身体ごと吹っ飛ばした。
「・・・・・・。」
賢太は吹っ飛ばされて、そのまま気を失う。
「そこまでッ!!」
佐乃が勝負が終了した事を告げる。
「・・・ふぅ~~~っ・・・。」〔ドサッ〕
善朗は緊張の糸が完全に切れて、尻餅をついた。
「・・・まだまだだね・・・。」
「・・・・・・すいません・・・。」
ゆっくりと佐乃が尻餅をついて疲れ果てている善朗に近付いて一言感想を言う。
善朗は師のその感想を真摯に受け止めて、謝った後に大の字に倒れこんだ。
お手数でなければ、創作の励みになりますので
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