12星座、12ヶ月、12単、12指腸、12っていい並びの数字なようで、ということでネオ大江戸12区
「・・・ところで、乃華ちゃん・・・なんか用があったの?」
ササツキが残した雰囲気が一掃されたのを見計らって、乃華が区長室に来た理由を秦右衛門が尋ねた。
「・・・これと言って、用があったわけではないんですが・・・区長に善朗君が来るから、知り合いなら立ち会ってくれないかって言われたんですっ。」
秦右衛門の質問にぶっきら棒に答えながらも素直に話す乃華。
「・・・・・・。」
乃華を呼んだ事で、失礼があったのではないかと目がいわしのように泳ぎまくるタロさん。
「・・・そういえば、親友の伊予ちゃんは?いつも一緒なのに。」
乃華の辺りをキョロキョロと見回して、伊予の所在を尋ねる秦右衛門。
「親友なんかじゃありませんっ!・・・どうせ、サボってるんでしょっ。」
乃華は強い口調で否定をして、腕組みをした後に明後日の方向に目線を向けた。
「クシュンッ・・・あれ、風邪かな?・・・あっ、引くわけ無いか。」
何処かの喫茶店の中で、スマホでゲームをしていた伊予がくしゃみをした。
「・・・良く知らないんですが・・・うちや師匠、賢太さんの組以外にも、グループとかあるんですか?」
ササツキの件で思っていた事をこの際に、秦右衛門に質問する善朗。
「あぁっ・・・そうねぇ・・・賢太って子の組は知らないけど、辰区にはそりゃ何十も組があるよぉ~・・・組って言うか、霊園やお寺だよね。」
通い徳利でお酒を飲みながら、気分を軽くして秦右衛門が答える。
「賢太って虎丞組のヤンキーでしょっ。」
秦右衛門が忘れている事を乃華が教える。
「あぁっ!?虎丞の所の子か・・・あそこは大きいね・・・うちとササツキと対抗できるのはあそこぐらいかな・・・。」
乃華の説明で合点がいった秦右衛門がさらに詳しく説明する。
「ネオ大江戸は12区に分かれててね・・・12支を文字って名前が付けられてるんだよ・・・大体関東一帯の神社仏閣・霊園が振り分けられててさぁ・・・それぞれにタロさんみたいな区長が居てね・・・辰区は皆、我が強いというか、まとまりが昔から無いんだよねぇ~。」
ネオ大江戸の世界を簡潔にまとめて、善朗に話し、最後に愚痴を付け加える秦右衛門。
「・・・区長会議が、月一であるんですが・・・もう前日から胃が痛くて痛くて仕方ありませんよ・・・。」
タロさんがいやな事を思い出して、塞ぎ込む。
「あはははっ・・・僕たちもタロさんが心細いって言うから付き添っていくけど、あの会議は毎回重苦しくて、いやなんだよねぇ。」
完全に他人事で笑う秦右衛門。
「まぁ、会議はともかく・・・辰区もタロさんのおかげで、ダイブまとまってきたんだよぉ~・・・感謝感激、戦車突撃ってねぇ~。」
通い徳利で勢い良く酒を飲む秦右衛門。
「善朗さんは他の区にはまだ言った事無いんですか?」
乃華が善朗にそう尋ねる。
「・・・確かに・・・辰区でも結構広いですから・・・他の区なんて、あまり意識も無かったですね・・・。」
思い返せばというように乃華の方を見て、答える善朗。
「・・・色々な区に言ってみるのも勉強になるけど、寅区と午区に行く時は注意しなさいよぉ・・・あそこの連中は何かと誰々が強い弱いって事で頭が一杯だから・・・。」
少し悪戯なニヤケ顔で善朗を見て、秦右衛門が釘を刺す。
「・・・当分、辰区の中だけでいいです・・・。」
秦右衛門の脅しに素直に怯える善朗。
「他の区に行くなんて、他の人でも早々無いですから・・・娯楽も各区で似たり寄ったりですし、この区が特別と言うわけではないので・・・。」
秦右衛門の話を補足するように乃華が話す。
「・・・僕的には、未区なんておすすめだよぉ~~・・・。」
「・・・ッ?!・・・」
「・・・おっとっ・・・。」
秦右衛門が未区を善朗に薦めようとした途端、乃華の激昂が視線で飛ぶ。
その視線を受けて、秦右衛門が口を真一文字に閉じる。
「・・・未区って確か、有名な遊郭があるんですよねぇ~・・・。」
タロさんが、空気を読まずにニコニコと善朗に教える。
「・・・・・・。」
乃華の無言の圧力がタロさんに飛ぶ。
(ひええええええええええええっ・・・殺されるぅううううううううううっ!)
タロさんは乃華の圧に負けて、机の下に姿を隠した。
「・・・ゆうかく?・・・なんですか、それ?」
まだ高校生の善朗には馴染みの無い言葉を秦右衛門に素直な気持ちで尋ねた。
「・・・・・・。」
「・・・知らなくて、いいですっ。」
秦右衛門が善朗と視線を合わせないようにしていると、秦右衛門と善朗の間に仁王立ちで乃華が立ちはだかり、一喝する。
「・・・あぁっ・・・はいっ・・・。」
乃華の圧に善朗もタジタジとなり、それ以上は聞かないことにした。
「まぁまぁまぁっ、確かに乃華ちゃんの言うとおり、大雑把な部分で区には違いは無いけど、特別な施設は色々合ってね・・・寅区にはコロシアムがあったりするんだよ~・・・ねぇ~、乃華ちゃん・・・。」
秦右衛門が慎重に言葉を選びつつ、乃華のお伺いを立てて、善朗に寅区について説明する。
「・・・・・・オホンッ、確かにそれぞれに特徴的な施設はありますが、どちらにしても善朗さんにはまだまだ早いものですから・・・くれぐれも一人であちこち行かないようにお願いしますよっ。」
管理官にそこまでの権限があるかは定かではないが、善朗に首輪をつけるように乃華が念を押して顔を近付けながら言いつける。
「・・・わっ、わかりました・・・。」
完全に気圧されした善朗が有無も言わさない雰囲気にのまれる。
「・・・それじゃぁ、私はこれでっ。」
「・・・・・・。」
乃華は一通り言い終えると部屋を出ようとして、最後に秦右衛門を一にらみして出て行った。
秦右衛門は善朗に色々吹き込んで、乃華をこれ以上怒らせまいと心に誓う。
(・・・乃華さん、なんで今日あんなに機嫌が悪いんだろう・・・。)
善朗は乃華が出て行ってからも、怯える男共の中で、不思議にそう思っていた。




