エピローグ ~賽の河原~
pixivにて、挿絵有
「・・・・・・。」
善朗は佐乃道場の縁側でボ~ッと日向ぼっこをしていた。
縄破螺の件から数週間後、善朗は佐乃道場に入り浸って、霊力の引き出し方、使い方の修行を続けていた。今は丁度、修行の合間の休憩時間で、縁側で英気を養っていた。霊界の空は今日も澄み渡り、雲が気持ちよく流れに身を任せている。
「・・・善朗さんっ。」
「・・・あっ?!」
縁側で日向ぼっこをしていた善朗に乃華が声をかける。
突然の乃華の訪問に意表をつかれた善朗が目を丸くして驚いた。
「・・・どうしたんですか、乃華さん?」
善朗は失礼の無いように縁側から立ち上がって、きちんと乃華に向き合う。
「・・・今日は案内したい所がありまして・・・。」
手を後ろで組み、乃華が笑顔を善朗に向けた。
「・・・えっ・・・でも・・・。」
善朗は乃華の申し出に少し困惑する。
今は休んでいる時間だから良いものの、これからまた佐乃から稽古をつけてもらう予定だったからだ。
「佐乃さんには許可を貰っていますので・・・是非にとっ。」
乃華が先回りをして、佐乃に根回ししていた事を善朗に告げる。
「・・・はっ・・・はぁ・・・。」
善朗は佐乃の許可が出たのならと、頭をかきながら乃華に軽く会釈をして、了承した。すると、善は急げといわんばかりに乃華が善朗の手を引いて、空へと浮かぶ。二人はさっそく飛んで、佐乃道場から離れた。
「善朗さん、ずっと佐乃道場にいるんですか?」
乃華が善朗の隣を飛びながら善朗に顔だけを向けて尋ねる。
「・・・えぇっ・・・屋敷とは近いんですけど・・・なんていうか・・・。」
乃華の質問に少し言葉を濁して、右頬を指で掻きながら視線を外す善朗。
「・・・まさか・・・。」
なんとなく察しがつく乃華。
「・・・えぇっ・・・あれからずっと屋敷で殿達が宴会し続けてて・・・年齢は関係ないからって、お酒を飲まされそうになったりしてて・・・鍛えてもらうのに・・・あまり良い環境じゃないかなって・・・。」
善朗はウツムキながら苦笑いをする。
「・・・まったくっ・・・そのお金だって、善朗君が稼いだんでしょ?・・・言ってやればいいじゃないですかっ。」
乃華は菊の助達の顔を思い浮かべながら、言葉に怒りを乗せて、善朗にそう提案する。
「・・・いえっ・・・縄破螺を倒したのは師匠ですし・・・殿達が助けてくれなかったら、俺一人では善文守れなかったから・・・今はそんなお金なんて・・・霊界に留まれさえすればいいかなって・・・。」
乃華に笑顔を向けて、そう納得する善朗。
結果的に縄破螺を倒したのは佐乃だったが、佐乃の申し出により、正式に冥と善朗が縄破螺の除霊をした事が認められ、ろ組の悪霊を除霊したという謝礼金が菊の助が管理する善朗の口座に振り込まれる事になった。そのお金は裏で等分されて、善朗の稽古代として、佐乃の手元に行く事になるのだが、それでも余りあるお金を使って、善朗の凱旋祝いと称して、毎日菊の助達は宴会を続けていた。
「・・・ほんっっっとっ・・・人はちゃんと選んで下さいねっ。」
腕組みをして、身体を善朗の方に向け、乃華が善朗を睨み、そう言い聞かせる。
「あはははっ。」
乃華の言葉に苦笑いしか返せない善朗。
「・・・・・・ところで・・・今から、何処に行くんですか?」
ひとしきり、家のことを話した後に善朗は乃華に今日の目的の事を尋ねた。
「・・・今から行く所は・・・賽の河原です・・・。」
乃華が身体の向きを直し、前方を真剣な目で見つつ、そう善朗に神妙に答える。
「・・・・・・。」
善朗はその言葉に少し胸がズキンッと痛んだ。
善朗も『賽の河原』と聞けば、そこがどんな場所かは分かった。
賽の河原とは、幼くして亡くなった子供が、親を悲しませた罪を償うべく、河原に落ちている石を積み重ねて、仏塔を完成させる罰を受ける場所。しかし、そう簡単に仏塔を完成させては罰にはならない。
賽の河原にも鬼がいる。
鬼は子供たちが積んだ仏塔をあらゆる方法を使って、壊し、邪魔をして、完成させないように延々と子供達をいじめ抜く。
そうやって、自分達が犯した罰を魂に刻み、罪を清める・・・それが賽の河原。
と、思った時期も・・・・・・ありました。
「わあああああああっ、にげろーーーーっ!」
「まてまて~~~っ!」
「鬼さんこちらっ、手の鳴る方へっ!」
「捕まえて、食ってやるぞぉ~~~っ!」
「あははははははっ!」
「・・・・・・。」
乃華に案内されてきた賽の河原の現状を目の辺りにして善朗は固まった。
そこは自分の知る非道の限りを尽くす鬼など一人もおらず、
「ほら~~っ、捕まえたっ。」
「わははははっ、くすぐったいよっ!」
笑顔で子供達を追いかける鬼と笑顔で逃げ回る子供たちが河原で楽しそうに遊んでいた。
「・・・こっ・・・これは・・・。」
余りの光景に鬼と子供達を指して、乃華に尋ねる善朗。
「・・・・・・すごくないですか?・・・リアルの鬼が追いかけてくる鬼ごっこ?」
真剣な顔で善朗にそう話す乃華。
「いやっ、そう言うことを聞いてるんじゃないですよっ!」
思わず乃華にツッコまずには居られない善朗。
「ほら、善朗さんっ・・・あっち・・・リアル鬼がする色鬼ですよっ・・・赤青黄色・・・緑まで居ますっ。」
さらに真剣に善朗に話す乃華。
「ここっ、本当に賽の河原なんですかっ?!」
立て続けにボケ倒す乃華に大声で叫ぶ善朗。
「あっ、お兄ちゃんっ!」
「おにいさんっ!」
「おにいたんだっ!」
善朗の大きな声に気付いたあの子供たちが元気一杯に善朗の元へと走って集まってくる。
「こらこら、そんなに走っちゃあぶないよっ!」
その後ろから裸にエプロン?姿の赤鬼がそのイカツイ顔からは想像できない母性の微笑みを放ちながら心配そうに子供たちの後を追ってくる。それはある意味、ホラーだった。
「・・・・・・。」
余りの異常な光景にドン引きする善朗。
「おにいちゃんっ!」
「おにいさんっ!」
「にいたんっ!」
「・・・うわっ・・・みんな元気にしてたっ?」
鬼に引き気味だった善朗だったが、走って集まってきた子どもたちを全身で受け止めて、子供達を笑顔で迎える。
「・・・あっ・・・これはこれは、乃華様・・・今日は?」
子供たちについてきた裸にエプロンの赤鬼が乃華を見つけて、丁寧にお辞儀をした。
「・・・邪魔してごめんなさい・・・パッ・・・オホンッ・・・ナナシ様に頼まれてね。」
乃華は事情を裸にエプロンの赤鬼に説明する。
「あぁっ・・・ということは、あれが例の少年ですか・・・。」
乃華の説明に善朗を見て納得する裸にエプロンの赤鬼。
「・・・そう・・・喉に引っかかった骨は、ちゃんと抜いておかないとねって・・・。」
善朗と子供達の姿を見て、微笑む乃華。
「・・・今日はありがとうございました・・・。」
善朗がひとしきり子供たちと遊んだ後、賽の河原で座り込んだ形で、子供達の姿を見ながら乃華にお礼を言う。
「もっと早くお連れしたかったんですが・・・色々手続きがありまして・・・。」
同じように子供達の様子を見て、苦笑いする乃華。
「てっきり、もっとひどい目に遭ってるものかと・・・。」
善朗が乃華の方を見て、素直に思っていたことを話す。
「・・・・・・特例です。」
乃華が人差し指を口元に持って行き、善朗に向かってウィンクする。
「・・・えっ・・・でも?」
乃華の言葉にナナシの話を思い出す善朗。
「縄破螺のせいと言っても自殺は自殺ですから・・・地獄に行くことは変えられません・・・でも、地獄に来てからの待遇については、決定権はこちらにあるので・・・色々考慮してという・・・特例です。」
乃華が詳しい事情を善朗に話しつつ、胸を張る。そして、
「・・・色々、上ともめたらしいですけど・・・あの人、口だけはうまいから・・・。」
と言葉を続けて、おもむろに腕組みをして、微笑を善朗に送る乃華。
「・・・そっ・・・そうだったんですね・・・。」
乃華の顔に何故か見とれる善朗。善朗はその優しい乃華の微笑から目が離せなくなった。
「これから、あの子達はここで毎日、仏塔っていう石を積んで出来る塔を作るんです・・・本来なら朝に6時間、夜に6時間・・・河原で石を拾い集めて、一つ積んで父を思い、二つ積んで母を思う・・・まぁ、特例だからそんな苦労もないし、鬼も邪魔しない・・・ここは本来の賽の河原とはちょっと違うんです・・・。」
乃華が遠い目で風景を見ながら賽の河原について話す。
「・・・・・・。」
善朗は乃華の横顔を見ながら、その話に静かに耳を傾ける。
「本来の賽の河原は別の離れた所にあるんですけど・・・ここはどうしようもない理由で幼くして亡くなった子供たちが来る賽の河原なんです・・・鬼達のリフレッシュもかねて・・・意外かもしれませんが、優しい心根の鬼も多いですよ。」
そういって、少し苦笑いする乃華。
続けて、乃華は善朗に視線を戻して話していく。
「毎日毎日、河原で鬼たちと一緒に石を集めて、その石で仏塔を作って、少しずつけがれを洗い、持て余した時間で、本来過ごすはずだった時間を取り戻すように鬼たちと遊ぶ・・・そして、あの子達は転生を待つ・・・これが私達が最大限出来る・・・あの子達に対しての罪滅ぼし・・・かな・・・。」
乃華はそう意味深な事を口にして、視線を善朗から空に流し、悲しい笑顔を作る。
「・・・・・・。」
最後に見せた乃華の悲しい笑顔が深く魂に刻まれる善朗。
「・・・どうですか?・・・骨っ、取れました?」
乃華は座り込んで、善朗と目線を合わせ、頭を少し傾けて、そう善朗に尋ねた。
「・・・はいっ。」
善朗は憑き物が取れたように、晴れ晴れとした気持ちで乃華に精一杯の笑顔で返答した。
「・・・・・・んっ?・・・そういえば、佐乃・・・主はどこだ?」
道場で大福を食いながら門弟達の練習を見ていた大前が横にいる佐乃に、ふと姿のみえない善朗の事を尋ねる。
「・・・・・・さぁなっ・・・デートでもしてるんじゃないか?」
佐乃はそういって目を閉じて、鼻で笑った。
「ナニィィィィィーーーーッ?!・・・・・・ウッ?!!」
主の一大事に勢い良く立ち上がり、大前が大声で驚いて、大福を喉に詰まらせて悶絶した。
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