表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第1幕 異世界転生失敗?!悪霊 縄破螺編
33/171

夢や理想を描く僕ら、ちっとも掴める気がしない毎日だけど、望んだ明日に少しでも近づけるように僕らは今日も歩いていく

お手数でなければ、創作の励みになりますので

ブックマーク登録、いいね、評価等よろしくお願いします。

 


「・・・・・・。」

 ひとしきり泣いた善朗は佐乃から離れて、善文の寝顔をジッと見ていた。



 縄破螺から解放された子供たちを救えなかった善朗だったが、一番守りたいと思ったものは守れた。そのことだけが、壊れそうな魂を繋ぎとめている。


「・・・善朗君、善文君は私が責任持って家に連れて帰るから安心してくれ。」

 空柾が寝ている善文を抱きかかえて、善朗にそう伝えた。


「・・・お願いします・・・。」

 軽く会釈をして、空柾の腕の中の善文をジッと見る善朗。


「・・・・・・。」

 菊の助と佐乃はそんな善朗の様子を黙って見ていた。


「・・・あっ・・・あの・・・。」

 乃華が落ち込む善朗にどう言葉をかければいいか思案する。


 乃華が善朗にどう声を掛けようと迷っている中、口を開いたのは冥だった。

「・・・善朗君・・・結果はどうあれ、貴方が守ろうとしたものは守れたんだから・・・今は無理でも、胸を張りなさい・・・あなたは私の式霊なのよ・・・まさか、これで終わりじゃないよね?」

 手当てを終えた冥が善朗の隣に立ち、善朗の横顔をジッと見て、少し強い口調でそう話す。


「・・・・・・ッ。」

 善朗は冥の言葉にビクンッと僅かに反応して、視線を冥に向ける。


「・・・なっ・・・ナニッ?!」

 突然、善朗にマジマジと見られて、少し照れる冥。




 冥をマジマジと見ていたかと思った善朗が突然、佐乃の方に身体全体を向けて、大きな声で叫んだ。

「・・・・・・師匠ッ!」

「ッ?!」

 その叫び声にその場にいた全員が驚く。




「・・・ん?・・・どうした、善朗・・・突然大きな声を出して・・・。」

 腕組みをしたまま少し身を引いて、佐乃が答える。


「・・・俺をもっと鍛えて下さいッ!」

 善朗は突然走り出して、佐乃の目の前まで来て、深々と頭を下げて、そう言って頼み込んだ。


「・・・・・・。」

 善朗の突然の願いに目を丸くする佐乃。


「・・・佐乃・・・どうする?」

 菊の助が善朗の願いを聞いて、うれしくなったのか、扇子を広げてニヤケル口元を隠しながら佐乃に尋ねた。


「・・・あんた、弟はもう助けただろ?・・・これ以上、強くなって何をするんだい?」

 佐乃が腕組みをして、口角を上げて善朗に尋ねた。




「・・・誰よりも強くなりたいっ・・・強くなって、守りたいんですっ!」

 善朗は頭を深々と下げたまま大きな声で佐乃に自分の本心を包み隠さず伝える。




「・・・何を守るんだい?」

 佐乃がさらに善朗に尋ねる。


「・・・生きている人たちの未来を守りたい・・・縄破螺みたいな奴が一杯いるんですよね?・・・今回、俺は縄破螺に勝てなかった・・・師匠達が来なかったら・・・・・・だから、俺に強くなる可能性があるなら、もっと強くなりたい・・・強くなって、あんな思いをする子供達を・・・生きてる人間でも、霊でも・・・一人でも多く守りたいんですっ!」

 善朗は深々と頭を下げたまま、己が信念を言葉に乗せて、佐乃に向けて大きな声でぶつけた。


「・・・・・・。」

 善朗の言葉を聞いて、菊の助と顔を見合わせる佐乃。


「・・・クックックックッ・・・おもしれぇじゃねぇ~か・・・。」

 扇子で顔を隠して、菊の助が笑う。


「・・・菊っ・・・高くつくぞっ。」

 菊の助を見ながら佐乃がニヤリと笑う。


「・・・金なら、いくらでも貢いでやるぜっ・・・先行投資ってやつだ・・・なぁっ、善朗っ。」

 菊の助はピョンピョンと跳ねながら善朗に近付き、バンバンと背中を叩いて、笑顔を善朗に向ける。


「・・・はっ・・・はっ、はいっ・・・ありがとうっ・・・ございますっ・・・殿っ。」

 背中を叩かれながらも、声を必死に出して、菊の助に顔を向けながら、お礼を言う善朗。


「ガッハッハッハッハッ、こりゃぁ・・・今日は宴会だぜっ!」

 大きく口を開けて笑う菊の助が扇子で顔を仰ぎながら、部屋を出て行く。


「・・・善朗・・・こっからの修行はこれまでとは違うよ・・・覚悟しなっ。」

 佐乃はそう言うと、右拳を握り込み、善朗の顔の前に突き出し、パッと開いた。


「・・・・・・あっ・・・ありがとうございますっ!」

 善朗は交渉成立と理解して、佐乃から出された手を両手で強く握り締めて、また深々と頭を下げる。


「・・・冥ちゃん・・・いい子を見つけてきたわねっ。」

 ヒヒロが冥の隣にスッと飛んで行き、微笑みながら両肩を抱いた。


「・・・・・・うんっ。」

 冥はヒヒロに笑顔と共に一言そう答えた。




「・・・・・・・・・おいおいおいおい、マテマテマテマテっ・・・冥っ!・・・お前、あの子といつ契約したんだっ!」

 霊能者として、式霊と契約する事はリスキーな事を一番知っている空柾がよくよく考えて、衝撃的な事実に気付いて、冥に叫んで詰め寄る。




「善朗君っ・・・今度、また何かあったらスマホで連絡するからねっ!」

 冥は兄に詰め寄られる前に逃げ出すように、一目散に部屋から出て行った。


「おいっ、冥っ!待ちなさいっ!!」

 衝撃のサプライズに寝ている善文に配慮する事無く叫びながら冥を追いかける空柾。


「お兄ちゃん、美々子はっ!」

 学校を抜け出して来ていた美々子の隣を、冥を追いかける余りスルーしようとした空柾に美々子が大きな声で忘れないでと告げる。


「・・・みっ・・・美々子っ・・・そうだ、お前も学校はどうしたんだっ!?」

 たくさんの事で、頭がパンクしそうになっていた空柾がまた一つ重要な事に気付く。


「・・・えへへへっ。」

 鼻を人差し指で擦って笑う美々子。


「・・・あぁ~~~っ、もうっ・・・とりあえず、一緒に善文君の家に行くぞっ・・・善朗君、今度、君とはちゃんと話したいことがあるっ・・・また、会おうっ!」

 空柾は頭の中で一つ一つ優先順位をつけて整理し、タスクをこなしていく。


「・・・・・・。」

 空柾が部屋から出て行くと、トコさんが善朗に静かに深くお辞儀をして、一緒に出て行った。それはトコさんが本来の守護霊としての仕事を全うしようという表れだった。


「・・・ふふふっ・・・悪い人ではないのよ?・・・・・・じゃぁねぇ、佐乃ちゃんっ。」

 ヒヒロが置いていかれまいと空柾を飛びながら追いかけ、善朗とすれ違いざまにウィンクをして、空柾の事を善朗に伝える。そして、最後に佐乃に挨拶をして、部屋を出て行った。


「・・・また、お会いしましょうっ。」

 佐乃がヒヒロに手を振って挨拶をする。


 部屋に残るは、善朗と佐乃・・・そして、乃華だった。

「・・・あぁ~~っ・・・善朗君・・・弟さん守れて、よかったですね。」

 左手の人差し指で頬をかきつつ、目線をあさっての方向に向けて、乃華が善朗に言葉を投げる。


「・・・・・・乃華さんっ!」

「えっ?!」

 佐乃の元から今度は乃華の元へ走って、突然、乃華の右手を掴んで両手で握手をする善朗。その行動に、恥ずかしくなって顔を真っ赤にする乃華。


「・・・・・・ほんっっっっっとうにっ・・・ありがとうございましたっ!」

 乃華の右手を掴んだまま、深々と頭を下げて、大声でお礼を叫ぶ善朗。


「・・・えっ・・えっ・・・。」

 突然のお礼に戸惑いを隠せない乃華。


「・・・乃華さんがここまで連れてきてくれなかったら・・・俺、トコさんも善文も助けられなかったっ・・・乃華さんっ、何から何まで、本当にありがとうございました。」

 善朗はそう言いながら、上体を起こして、精一杯の微笑を乃華に向ける。その目には涙がたまっており、笑った拍子に一粒零れ落ちた。


「・・・・・・いえっ・・・そのっ・・・管理官としての仕事を全うしただけですから・・・。」

 乃華は戸惑いながらもそう言葉を並べて、無意識に両手で善朗の手を握り返していた。そして、


「アッ!?・・・ごっ・・・ごめんなさい・・・わっ・・・私、伊予の事、忘れてましてっ・・・まっ、また会いましょうッ。」

 乃華は無意識に両手で善朗の手を握っている事に驚き、慌てて善朗から離れて、三途の川に置いてきた悪友の伊予を使って、その場から逃げ出す口実を作り、部屋からそそくさと飛んで出て行った。


「・・・・・・。」

 そんな乃華を見送ると、佐乃と顔を合わせて、二人して微笑む善朗。


「・・・さぁ、帰るかい?」

「はいっ!」

 佐乃がそう促すと、善朗が元気一杯に返事をした。






 ある建物の一室。

「・・・それで・・・なんで、こんなことしたの?・・・他にも、お仲間がいたよね?」

 伊予と机を挟んで対面に渋い顔をしている制服をピシッと着こなす男性が伊予にあれこれ詰めている。


「ひ~~~~~んっ・・・乃華ちゃ~~~~~~~~ん・・・早く迎えに来てえええええっ!」

 もう何時間も同じ質問を繰り返し受けているのだろう。伊予は、制服の男性の質問を無視して、天に向かって乃華に助けを求めた。


「・・・それで、その乃華さんと、もう一人いたよね?」

 伊予の突然の叫びにも淡々と質問をぶつけ続ける制服姿の男性。


「ワアアアアアアアアアアンッ!」

 伊予は余りの責め苦に泣き出す始末。


「・・・はいはい、泣いても無駄だからね・・・それで・・・。」

 男性の質問詰めはこの後、乃華が来るまで延々と続いたという。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ