祓う祓えって簡単に言うけれど、本当にそんなに簡単に悪霊を祓えるのか?きっと、知られざる苦労を抱えているんじゃないですか?
「・・・・・・。」
冥は雨の中、傘も差さずに無防備に雨に打たれながら縄破螺に受けた頬の傷を抑えつつ、ヨロヨロと歩いている。
自分のあまりにも不甲斐無い結果に打ちのめされて、身体よりも心がボロボロになっていた。
(・・・自惚れてた・・・もっと出来ると思ってた・・・。)
冥は自分をしっかりと見つめ直して、反省する。
〔ピロピロピロピロピロッ、ピロピロピロピロピロッ〕
冥のスカートのポケットに入れているスマホがバイブレーションと共に着信を報せる。
「・・・・・・もしもし・・・。」
冥は気だるさの中、着信先も見ずに電話を取った。
「冥か・・・今日、学校はどうした?・・・さっき、担任から電話が掛かってきていたぞ。」
通話先から若い男の声が聞こえる。
「・・・ごめん・・・兄さん・・・ちょっと・・・。」
冥は兄の声を聞くとさらに脱力感に襲われて、近くにあったブロック塀にもたれ掛りながら座り込んだ。
「・・・・・・どうした、冥?・・・まさか・・・この前、お前が話していた悪霊の件にまだ首を突っ込んでるんじゃないだろうなっ。」
察しの良い兄が冥の元気の無さから当たりをつける。
「・・・・・・。」
冥は図星をつかれて黙り込む。
「・・・今どこにいる?・・・美々子の学校の近くか?」
兄が少し強い口調で冥の居場所を尋ねた。
「・・・学校近くの公園・・・。」
冥が精一杯の声を絞り出して、兄に自分の居場所を告げる。
「待っていろ・・・すぐいくっ。」
兄はそういうと通話を切った。
冥は兄からの電話が切れると、スマホを気だるそうにスカートのポケットへと入れて、降りしきる雨を受けながら空を虚ろな目で見上げた。
〔ザァァァァァーーーーーッ〕
冥の顔に少し雨足が強まった雨が容赦なく降り注ぐ。
「・・・・・・まったく・・・。」
炊事場にある椅子に座らせた冥の濡れた髪を荒っぽさもありながら優しくタオルで拭く兄。
「・・・・・・。」
冥は兄にされるがまま、スマホを握り締めてウツムキ座っている。
「・・・縄破螺は『いろは番付ろ組』の悪霊だから手を出すなとあれほど言っただろ?・・・美々子の同級生だからなのは分かるが、残念ながら目を付けられたのが運の尽きだと思うしかない・・・。」
兄は冷静に判断した結果を再度、冥に告げる。
「・・・・・・。」
冥は尚も黙って答えない。
「・・・すぅ~~っ・・・ふぅ~~~っ。」
冥の変わらぬ様子に、鼻から勢い良く息を吸い込み、鼻から勢い良く息を出す兄。俗に言う、諦めから来るため息だ。
「ボクとしても、最大限救える方法を考えているし、動いている・・・しかし、如何せん相手はろ組だ・・・式霊でギリギリの相手だからな・・・お前も強いと思うが・・・。」
「全然駄目だった・・・兄さんの言うとおりだった・・・。」
兄がフォローをしようとした瞬間、冥がやっと口を開いた。
「・・・・・・まったくっ・・・ろ組の悪霊と対峙して、生きているのは幸運だ・・・霊能者が束になっても敵わない相手だからな・・・。」
兄はさらにフォローするように優しく話す。
「・・・自分ひとりでも・・・もっと出来ると思ってたのに・・・。」
冥の太ももに大粒の水滴が落ちる。
「・・・空柾・・・私達でもどうにかならないの?」
その時、突然誰もいない虚空から澄み切った女性の声が聞こえた。
「ヒヒロ・・・君を危険にさらすわけには行かない・・・我々二人でも勝算は低いんだ・・・。」
冥を拭くタオルを止めて、冥の頭を見ながら兄、空柾がヒヒロの声に答える。
「・・・低くても、勝算があるなら・・・。」
空柾の言葉を借りて、ヒヒロが再び空柾にそう提案する。
すると、空柾の背後にヒヒロと思われる女性の姿が現れた。
薄い青色のロングヘアーを風も無い中、揺らめかせ、雪のように白い肌が美しく特徴的だった。服装は戦国時代のモノと思われる紅い甲冑を着込み、身長は女性にしては大きく、170cmぐらいあった。髪は非常に手入れされており、光沢を放つほどに艶やかで、伸びる髪は腰までサラリと流されていた。前に流すモミアゲもお腹の辺りまで長く流されており、甲冑のゴツゴツした雰囲気が完全に中和されるほどの柔らかな雰囲気をまとっている。
「妹のためだ・・・無理をしたいのは山々だが・・・君まで巻き込むような判断はしたくない・・・選択肢としては捨ててはいないが・・・今の段階では、賛同は出来ないよ・・・。」
空柾はそう言いながらヒヒロの方に視線を移し、ソッと左手をヒヒロの方に差し出した。
「・・・・・・。」
ヒヒロは浮いている身体を下ろすためのように空柾の手を取って、床にゆっくりと着地する。
「下手に向こうを刺激して、悪霊たちが騒ぎ出すのも得策じゃないんだ・・・分かってくれヒヒロ・・・。」
ヒヒロの目を真っ直ぐ見て、空柾が丁寧に説明する。
「・・・ごめんなさい、空柾・・・貴方なら色々考えているものね・・・。」
空柾の手を少し握って、ヒヒロがそう納得した。
「・・・・・・ごめん、兄さん・・・今度は言うとおりにするから・・・。」
冥はスッと椅子から立ち上がるとタオルを頭から首に降ろして弱弱しく歩き出した。
「・・・冥っ・・・出来る限りの事はする・・・だから、大人しく学校に行くんだぞっ。」
冥の背中に空柾は優しくも少し強い口調でそう諭した。
「・・・・・・。」
冥は振り返る事無く、炊事場から出て、自分の部屋へと直行した。
〔ギィッ、バタンッ・・・バフンッ〕
部屋に入るなり冥はベッドに全身を埋めた。
(・・・あのバカ兄・・・落ち込んでる妹の前で、よくイチャイチャ出来るわね・・・。)
冥は落ち込んでいた気持ちが、イライラに侵食されるのを受け入れた。
「・・・善朗君・・・ごめんね・・・。」
冥はそう言いながら、自分の無力感から流れ出した一筋の涙を止める事が出来ず、ベッドに落とすしかなかった。
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