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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第1幕 異世界転生失敗?!悪霊 縄破螺編
24/171

野良猫だって、生きる為に必死に縄張りを威嚇して戦って守っている。人間だって、自分の家という縄張りを守る為に必死なわけで

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「・・・無縁仏を霊界に留めるにも金がいる。金がいるなら金を稼がないとね・・・。」

 佐乃はそう言って、善朗に悲しい笑顔を向けた。






「・・・どうした、主よ?元気が無いな?」

 頭の後ろで手を組んだ状態の大前がウツムキながら歩く善朗に気楽な声で話しかける。


「・・・・・・。」

 善朗は黙って答えない。


 大前もあの場所にいて、佐乃から無縁仏の人達の事と縄張り争いのことを聞いたはずなのだが、そこは歴史を知っている付喪神つくもがみとして、当然の事だと割り切っているのだろう。


 善朗達は気分転換にと、佐乃から頼まれた買い物をこなす為に久々にネオ大江戸の街へと繰り出していた。そこですれ違う人達は、現世と変わらないように思えるが、抱えているものが人それぞれ違うのだろうという裏側が分かってしまうと、善朗から見る世界は複雑な風景に変わってしまったようで、忙しくしている人達は霊界に留まる為に必死にお金を稼いでいるんじゃないかとか考えて、善朗は胸がざわめいて仕方がなかった。それとは別方向に視線を流すと、そこにはデートしているカップルがいたり、買い物を楽しむ人々がいたり、同じ霊界という世界にいるはずなのに現世とは比べものにならないくらいにシビアで、個々の留まっている世界がまるで違っている。



(・・・俺は本当に恵まれているんだな・・・。)

 ほんの少し違う環境で、こうも世界がちがうのかと善朗は打ちのめされる。



 それと同時に、ちゃんと葬式を出してくれた両親達に感謝せずにはいられなかった。善朗が、霊界に留まる事に気を留めずに、善文を救う事だけに集中出来るのも、そんな何気ない人との縁からだと思うと頭が自然と下がった。




「・・・主よ・・・主は優しいが、余計な物まで背負い込む必要はないぞ・・・人は神ではない・・・全ての人間に好かれるわけでもないし・・・全ての人間を救えるわけでもない・・・神とてそうだ・・・限界があるのだ・・・神にできぬことを人がしようとしても仕方がないぞ。」

 大前は優しい微笑で善朗を見て、そう柔らかな口調で・・・しかし、中身はしっかりとしたモノを善朗に伝える。




「・・・うん・・・。」

 大前の優しい言葉に善朗は真剣な眼差しを向けて、静かに一言だけ答えた。



「おっ、あれは善朗ではないか?!」

「おぉっ、確かに善坊っ!」

 大前と深いやり取りをしていると、そこに少し酔った秦右衛門とまた何かを食べながら歩いている金太が善朗を見つけて声をかけてきた。



「・・・おぬしらは幸せ者じゃな・・・。」

 二人の様子を見て、大前が呆れて言葉をこぼす。


「ん?」

 秦右衛門達は二人顔を見合わせて、少し落ち込んでいる善朗を見た。






「・・・なるほどねぇ~・・・虎丞組が乗り込んできてたのかい・・・。」

 通い徳利でいつものように酒を飲みながら秦右衛門が大前から事情を聞いて、自分の中で善朗が落ち込んでいた理由を納得する。


「・・・ほっとけほっとけ、善坊はまだまだ若いんだ・・・今は弟の事だけ考えろっ。」

 あいかわらずモノを食べながら金太が腹を突き出して、そう善朗を励ます。


「・・・・・・。」

 善朗は佐乃から頼まれた茶菓子が入った袋を黙って抱えて、公園のベンチに座っている。


 そんな未だに納得いかない善朗に対して、秦右衛門がヤレヤレと肩をすぼめながら口を開いた。

「・・・無縁仏の連中は、確かに望んでそれを選んだ者も多い・・・そいつらはとっとと霊界から去って転生してる・・・覚悟があるってことだな・・・別に十郎汰達に覚悟がないってことじゃないよ・・・あいつらはあいつらで、佐乃から受けた恩に報いようと必死なんだ・・・。」

 兄のような大きな背中で秦右衛門が善朗に優しく話す。


「・・・佐乃は若いながら、しっかりしてるというかお人好しというか・・・。」

 秦右衛門に続いて、金太が佐乃について話しだす。


「・・・佐乃は生前も道場の娘だったりしてな・・・町の顔役として、色々抱え込んでたらしい・・・旦那さんもいたらしいが、佐乃より先に死んで、佐乃が霊界に来た頃にはもう転生してしまって、すれ違いになったみたいでな・・・佐乃も転生して、旦那さんの後を追おうとしたんだが・・・。」

 金太はそこまで話すと口をつぐんだ。


「幸か不幸か・・・一人の無縁仏の女性に出会っちまったんだなぁ・・・。」

 金太が話をやめると秦右衛門が話を受け取り、佐乃の過去について話し出した。


「・・・佐乃には子供もいなくてな・・・無縁仏っちゃ無縁仏なんだが、生前の行いもあって、そりゃぁ恵まれた転生先も用意されてたんだよ・・・でも、その女性は違った・・・天涯孤独で一人で身を粉にして頑張って・・・結婚もしたが、戦争で旦那を亡くして・・・不運だったんだろうねぇ・・・その後は若くして病気で亡くなるはで・・・佐乃はそんな女性の生い立ちを聞いたら、面倒見の良い元顔役として、黙ってられなかったんだろうよ・・・自分の蓄えをその子のために使って、転生させてやったんだ・・・。」

 秦右衛門が地面を見ながら淡々と話す。


「・・・そっからだ・・・無縁仏を見つけちゃ、話を聞いてやって、弟子という名目で転生を手伝ってる・・・佐乃は腕っ節も強いから金を稼ぐ事には困らないがねぇ・・・。」

 そこまで言うと秦右衛門は善朗を見て、苦笑いを向けた。




 善朗は秦右衛門のその表情で子供ながら何かを察する。

(・・・佐乃さんもいくら強いからって人間なんだ・・・色々抱えて、がんばってるんだな・・・。)

 善朗は秦右衛門から目線を茶菓子に落として、そう考え込む。




 金太が考え込む善朗の肩に優しく触れて、視線を善朗に合わせて話す。

「・・・縄張り争いに居合わせたから話したが・・・善坊は気にするな・・・さっきも言ったように善文を助ける事だけに集中するんだぞ。」

 金太なりに一族の兄貴分として、善朗を元気付けようとした言葉だった。


「・・・善朗君・・・まずは弟さんだ・・・君ならきっと出来る・・・これで佐乃さんの修行にも、より一層身が入るだろ?」

 秦右衛門がニヤリと笑って、善朗に軽く発破をかけた。


「・・・はいっ。」

 善朗は二人の言葉に元気付けられ、考え込むのをやめ、しっかりとした言葉で秦右衛門に一言そう答えた。


「さぁさぁ、そうとなれば、帰った帰った・・・あんまり遅いと佐乃が怒り出すぞっ。」

 ガハハッと笑って、金太が話し込んだ善朗を急かす。


「あぁっ!そうだ、急がないと・・・秦右衛門さん、金太さん・・・ありがとうございましたっ。」

 金太の言葉にハッとして、ベンチから勢い良く立ちあがると善朗は深々と二人に頭を下げて帰路を急いだ。


「・・・あぁ、善朗君・・・くれぐれも今の話は内緒だよ。」

 走り去ろうとする善朗に人差し指を口元に運んで、秦右衛門が善朗に頼む。


「ハイッ!」

 善朗は大きな声で返事をして、茶菓子の袋を大事そうに抱えて走り出し、秦右衛門に再度会釈して去って行った。




「・・・・・・ところで、大前は何してんの?」

 走り去った善朗を見送る中で、ずっと動かず、一緒に善朗を見送っている大前に秦右衛門がそう声をかけた。




「・・・な~~~にぃ・・・いい話を聞いたと思ってな・・・。」

 わざとらしく目頭を押さえながら大前が答える。


「・・・・・・。」

 大前の言葉に顔を見合う秦右衛門と金太。


「・・・いやはや・・・真相がどうであるか確かめんといかん・・・。」

「ちょっ?!」

 とんでもない事を言い出す大前に思わず大声が出したのは秦右衛門。


「・・・いやいや、大前・・・あんたも知ってただろッ!」

 秦右衛門と同じく焦り出す金太。


「・・・ワシが善朗に話したわけではあるまい・・・。」

 堂々と胸を張って、白々しく答える大前。


(・・・コノアマ・・・。)

 秦右衛門は頬をピクつかせて、大前に対して悪態を心の中で吐く。


「クックックックッ・・・ワシに貸しを作ると・・・・・・高くつくぞ。」

 悪魔的な笑顔で二人を見る大前。


「・・・・・・。」

 そんな大前の表情を見て、秦右衛門達二人は覚悟を決めるしかなかった。






「師匠ッ!俺、何だって頑張りますッ!!お願いしますッ!!!」

 善朗は道場に帰ってくるなり、佐乃の元に子犬のように走り寄り、佐乃に近付くや否や深々と頭を下げて、やる気を最大限にアピールした。


 佐乃は道場でいつもどおり、弟子達に稽古をつけている所だったが、

「・・・おぅ・・・おっ・・・おう・・・いい心掛けだね・・・。」

 善朗の圧倒的なやる気に気圧されして、何も分からずにたじろぐ佐乃。

(・・・ちょっと張り切りすぎだが・・・いい気分転換にはなったみたいだね・・・。)

 佐乃は全く要領を得ないながらも善朗の代わり映えにドン引きしつつ、結果的には善朗の気分転換にはなったと自分なりに納得し、目標を達成できた事を素直に喜ぶ事にした。


 そんな師弟の忙しい様子を隣で大前が優雅に見ている。

「ピュ~~ッ、ピュピュ~~~ッ・・・。」

 何故だか機嫌の良い大前が口笛を吹いていたのだが、その理由を知るものはその場にはいなかった。








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