日常回は案外飛ばされがちだけど、しっかりと書いてはいかないと世界観を伝えるのって、やっぱり大事だと思う
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「・・・・・・ハッ!」
善朗はロウソクをジッと見て、ここぞと言う時に声を上げて、気合を飛ばす。
〔フッ〕
善朗の気合の声に反応するかのようにロウソクの火が揺らめいて消えた。
「・・・よし、次はあの石を動かしてみな・・・。」
佐乃が正座した姿勢でピンと背中を伸ばし、左手で善朗の脇にある少し大きなバスケットボール代の石を指し示した。
善朗は佐乃に言われた通りに、ロウソクから視線を石の方へと移す。
「すううううっ・・・んんんん~~~・・・。」
善朗は深呼吸をすると拳に力を込めて、石をグッと睨んだ。
〔ズッ・・・ズズズズッ・・・〕
善朗の動けと言う思いに突き動かされるように石がゆっくりとその位置をずらして行く。
「おうおうっ、さすが主ッ!」
大前が善朗の横で扇子で自分を扇ぎながら胸を張って、善朗の頑張りを見ている。
金太との組み手から3日。
善朗はあれからコツを掴んだように佐乃からの課題をこなしていった。金太との組み手はあれから行われていないが、『近々また来る』と秦右衛門が伝えに来たのはつい最近だった。金太との闘いの後では、最早十郎汰ですら、組み手の相手としては危ないと判断した佐乃が基礎だけに集中して行っている。それでも、善朗は淡々とした面白みのない訓練でも、腐る事無く続けている。佐乃はそんな善朗を見て、感心するほどだった。
善朗がそんな基礎錬をしているときだった。
「たのもおおおおおおおおおおおおっ!!」
玄関先から誰かの大きな声が佐乃道場中に響き渡った。
「・・・なんだい?」
佐乃が声のする方向を眠そうな目を擦りながら見る。
佐乃が声のする方向に視線を送ると、佐乃の視界に伝重郎の大きな身体が映り込んだ。
「ちょっと、あなたなんなんですかっ?!」
伝重郎はどうやら玄関の方にいる誰かに大きな声で何かを言っているようだった。
「うっせぃうっせいっ!ちーと挨拶しに来ただけやって、ゆーとるやろっ!」
先ほどの叫び声と似た声がまた聞こえる。
「困りますよッ!・・・・・・なっ・・・なんて力・・・。」
誰かの声が大きくなるにつれて、伝重郎の声が悲痛になっていく。
「伝重郎ッ、何してんだいッ?!」
佐乃が近付いてくる伝重郎の声に心配して、怒鳴った。
「師匠ッ、すみませんッ・・・この方・・・が・・・っ。」
そうこうしていると伝重郎と一緒に見知らぬ人物が善朗達の視線にも入ってきた。
立派なリーゼントに長い黒い学ラン。
時代錯誤のヤンキーの出で立ちの青年が伝重郎を引きずりながら、それを物ともせずに肩で風を切って現れた。
「分かるで分かるで、俺には分かる・・・ここの番はあんたやなッ!」
ヤンキーは伝重郎の巨体を引きずりつつ、佐乃を睨みつけながら佐乃に近付き、息が掛かるぐらいにその顔を近づけた。
「・・・なんだい、あんたは?」
佐乃は腕組みをした状態で一歩も引かずにヤンキーを睨み返す。
「・・・俺の名は辰区、△□寺組、特攻隊長『雅嶺 賢太』様やっ!」
そのヤンキーは胸を大きく張って、佐乃の近くにも関わらず、威嚇をするように大声で名乗りを上げる。
「・・・・・・で・・・その隊長さんがうちに何のようだい?」
ヤンキーの威嚇に対して、佐乃は欠伸をかみ殺すようにヤレヤレと呆れながら尋ねた。
自分の威嚇にあくびで返す佐乃に対して、雅嶺は漫画のように分かり易く頭の血管が浮かび上がった。
「・・・てっ・・・てめぇ・・・まぁええわ、先日の騒音騒ぎ・・・ご近所として、詫びがないっちゅうのもおかしくねぇか・・・あぁっ?」
一歩も怯むことなく、オラオラと顔を近付けて、佐乃を睨みに睨み込む雅嶺。
「・・・それはすまなかったね・・・これでいいかい?」
佐乃は全く微動だにせず、雅嶺に一言であっさりと対応する。
そんな佐乃と雅嶺がにらみ合う中で、張本人が居た堪れなくなり、イソイソと二人に歩み寄ってきた。
「・・・・・・あのっ・・・その節は・・・すいませんでした・・・。」
雅嶺が佐乃道場に乗り込んできた事情を知った元凶の善朗が、雅嶺に対して深々と頭を下げる。
「・・・えっ?!」
善朗の言葉に固まったのは雅嶺。
「・・・原因のこいつも謝ってるんだ・・・ここは収めてくれないかい?」
佐乃が少しニヤケながら腕組みをし、胸を張ったまま雅嶺に改めて詫びる。
「・・・・・・てめぇ、何もんや?」
視線を善朗に奪われたまま雅嶺が善朗にそう尋ねた。
「・・・あっ・・・あの、善湖善朗って言います・・・最近、こちらにお世話になってて・・・。」
リアルヤンキーに善朗は完全にビビッて、身を縮めている。
そんな身を縮こめる善朗に助け舟を出すように佐乃が口を開いた。
「○△霊園の菊の助って言えば、お前も知ってるだろ?そこの新入りさ。」
善朗の自己紹介に優しく付け足して、雅嶺に教える佐乃。
「・・・あの・・・菊の助のところか・・・。」
佐乃の言葉に反応して、雅嶺は佐乃に視線を戻し、その言葉に目を丸くする。
「・・・今はこっちも立て込んでてね・・・静かにしてもらえるとうれしいんだけど・・・。」
何か含みを持たせた物言いで佐乃が雅嶺にそう願い出た。
雅嶺は佐乃の言葉を聞いているのか定かではないが、何やら顔を伏せて、両手をズボンのポケットに入れ、ワナワナ震え出し、
「・・・・・・なるほどなぁ・・・。」
そう一言呟いて、雅嶺は動きを止めた。
一息の時間、動きを止めていた雅嶺は突然、何かを閃いた様に顔を上げて、善朗に向けて、声を張り上げる。
「おもろいやないけっ・・・ホンマは何しとるんかなんて、どうでもええねん・・・あの騒音がこんなガキとはなっ。」
「お前もそんなにかわらんだろ?」
ニヤリと口角を上げて高らかに笑う雅嶺に佐乃が透かさずツッコむ。
「やかましいわっ!俺はこれでも中堅やぞっ、外見の年齢はかわらへんねんからしょうがないやろっ。」
雅嶺が手をポケットに突っ込んだままオラオラと佐乃の顔に再び顔を近付けて、佐乃のツッコみに対して怒鳴った。
「・・・なんだ、若くして死んだのか・・・それはすまなかったね・・・。」
雅嶺のオラオラというより、飛んでくる唾を嫌った佐乃が少し上半身を引く。
「情けを受ける筋合いはあらへんっ!俺はこれで、なめた奴を片っ端からしばきまわしてるだけやからなッ!」
右手を佐乃の顔に近付けて、雅嶺がさらに怒鳴り散らす。
「・・・あの・・・佐乃さんは何も悪くないので・・・俺が謝りますからっ。」
善朗がオラつく雅嶺の様子を見かねて、さらに一歩近付いて、佐乃を庇うように深々と頭を下げる。
「・・・主よ、そんなやかましいやつ、たたっ斬ってやれば、よかろう。」
ずっと善朗の隣で黙って様子を見ていた大前が胸を張って一歩前に出て、スッパリとそう言って、雅嶺を斬り捨てた。
「ちょっちょっ、ちょっと大前・・・やめてよっ!」
(こんなヤンキーに目をつけられたら、何されるか分かったもんじゃないだろ!)
大前の啖呵に思わず焦る善朗。善朗は心の中で号泣している。
善朗が大前を止める中、雅嶺は大前の言葉に反応し、ユラリと視線を大前へと向けた。
「・・・ほぉ~~~っ、おもろいことゆうやないか・・・。」
雅嶺のターゲットが完全に佐乃から大前へと変わった瞬間だった。
「・・・雅嶺とか言ったね・・・やめときな、そいつは付喪神だよ。」
「なっ?!」
佐乃が大前に近付こうとする雅嶺に大前の事を簡潔に説明した。
大前の事を聞いて、目を丸くして驚く雅嶺。
「・・・なんだ、怖気づいたか若人よっ。」
雅嶺の反応を見て、さらに挑発する大前。
「・・・チッ・・・なめられるんもシャクやが、今回は勘弁しとく・・・挨拶だけっちゅうたしな・・・オジキにも今は手を出すなって言われとんねん・・・。」
大前の挑発に舌打ちをしたが、雅嶺は挑発に乗らずに悠然と姿勢を正す。
雅嶺の態度に佐乃は目を細めて、思わずニヤケていた。
「・・・へぇ~~・・・あの虎丞がね・・・感心感心・・・。」
佐乃はそう素直に雅嶺に対して、賛辞を送る。
「・・・佐乃さんよ・・・今はっちゅう事を忘れんなや・・・時がくれば、うちが辰区をしめるっ。」
雅嶺はそう静かに言いながら、懲りずに佐乃のアゴに右拳を近づけて、挑発した。
「・・・楽しみにしておくよ・・・。」
佐乃は雅嶺の挑発にニヤリと笑って、軽い口調でそう答える。
雅嶺が背筋を正して、少し身長の低い善朗を見下ろす。
「・・・善朗とかゆうたなっ。」
「はっ、はいっ!」
善朗はリアルヤンキーにビビッて、 雅嶺の言葉に反射的には背筋を正してしまう。
完全に自分にビビっている善朗に、眉をひそめる雅嶺だったが、
「・・・名前覚えとくで・・・今度会うんが楽しみやっ。」
ニヤリと口角を最大限に上げて、雅嶺は善朗を改めて品定めするように見た。
(ええええええええっ・・・そんなぁぁぁ・・・絶対、大前のせいじゃん・・・。)
大量に汗を掻きながら心の中で悲鳴をあげる善朗。まさに鏡を見せられて脂汗を流す蛙のようだった。
雅嶺はひとしきり善朗を見た後、あっさりと玄関の方に歩き出し、
「・・・おっさん、悪かったな・・・邪魔したで・・・。」
迷惑をかけた伝重郎に謝り、アッサリと帰っていった。
「・・・なっ・・・なんだったんだ・・・。」
雅嶺の消えた方向をジッと見つつ善朗が言葉をもらす。
「・・・△□寺っていってね・・・うちとは近所のお寺で納骨堂があるんだよ。」
腕組みをしたまま、雅嶺の消えた方向を善朗と同じように見つつ、佐乃がそう説明する。
佐乃は空に目線を移して、遠い目をしながらさらに話を続けていった。
「・・・あたしらはね、この場所に住みたくて住んでるんじゃないんだよ善朗・・・あたしらの骨が埋葬されてる・・・あたしらなら○△霊園っていう場所に縛られてるんだよ・・・ここにいる無縁仏の連中も霊園にある無縁仏のお墓がそこにあるから、ここにいる・・・。」
佐乃はそう丁寧に自分達がなぜ、ここにいるかの理由を善朗に優しく教えた。
そして、 佐乃がどこか切なそうな目に変わって空を見つつ、
「・・・・・・死んでも人間って言うのは悲しいもんでね・・・どこまで行っても欲に縛られてるんだよ・・・その一つが縄張り争いっていうのがあるんだ・・・無縁仏の連中は自分達で自動的に金が生み出せるわけじゃないから大変なんだ・・・一ヶ月に一回しかない貴重な現世への切符も遊びになんていけない・・・怖い中でも悪霊に立ち向かって除霊して、エンを得るためだけに使うんだ・・・。」
佐乃がそう言葉を搾り出すように善朗に話す。その表情は悲痛なものだった。
「・・・・・・。」
善朗は死んで間もない右も左も分からない状況で、自分の事ばかり考えていたことが、ここにきて、佐乃の表情を見て、どうしようもなく申し訳なくなった。
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