~エンドロール~ 神様はサイコロを振らない。その先の答えがわかっているから・・・だけど、サイコロを振るのは神ではなく、人。道を選ぶのもまた人だから・・・
〔パチンッ〕
畳張りの広い和室。碁盤に石を置く気持ちのいい清んだ音が部屋に響き渡った。
その部屋には、4人の人影が見える。
一人は艶やかだが、控えめな赤と白を基調にした着物を着た女性。
一人はタキシードに身を包み、シルクハットを正座した膝枕の上に置く男性。
一人は碁盤に視線を落とす囲碁には似つかわしくない無骨な大男。
最後の一人は、碁盤を挟んで大男の反対側で静かに目を閉じている着物をきちんと来た男性。
「ああああああっ、負けだ負けだっ・・・ツクヨミには勝てんわっ!」
大男がその巨躯を畳に預けて、大の字になる。
「ふふふっ、スサノオちゃんは相変わらず負けず嫌いね。」
ニコニコと笑顔を振りまく女性が、スサノオをそう笑い飛ばす。
「・・・スサノオは手が単調すぎる・・・囲碁に力任せでは私や死神には、いつまで経っても勝てませんよ?」
ツクヨミはそういって、静かに目を開けて、スサノオに囲碁を説いた。
「・・・それで、ツクヨミ様・・・此度の成果でございますが・・・。」
ナナシが機を見計らって、口を開いた。
ツクヨミは腕組みをして、ナナシの話に耳を傾けて、口を開く。
「うむ・・・今回の百鬼夜行の規模から考えれば思いの他、成果を上げれなかったが、まずまずの転生者を出した・・・彼の少年の働きもあって、今世紀の目標は全盛期の貯金を少し崩す事になるが、それでも達成は出来そうだ。」
ツクヨミは目を閉じて、そう思い返し、今回の成り行きの成果に満足気だった。
「・・・それにしても、乃華ちゃんが一緒について行くのは少し寂しかったわ・・・まぁ、微笑ましくもあったけれど・・・。」
アマテラスは乃華の選択について満足気にそう話す。
「乃華は正しい選択をしたと思います・・・また、新たな死神候補を創造せねばなりませんが、致し方ありません。」
ナナシもニコニコと事の経緯について、自分の意見を話した。
「オホン・・・。」
にこやかな面々をいさめる様にツクヨミが咳払いを一つする。
「・・・・・・。」
表情を変えずとも、少し雰囲気が締まる面々。
ツクヨミは静まり返る場を見計らって、ゆっくりと口を開いた。
「・・・なにやら、不穏な動きもありますな・・・たとえば、霊界を追放された者が、何者かの手引きによって侵入したと・・・。」
ツクヨミは誰とは見ずに上を見上げて、そう誰かに向けて言葉を発する。
「あら、誰かしたら?・・・何かあったの、ナナシ?」
アマテラスがニコニコしながらナナシに尋ねる。
「さて、存じませんが・・・・霊界で起こったのであれば、私の監督不行き届き・・・ツクヨミ様、もうしわけございません・・・。」
ナナシは面目ないように表情をしかめて、深々とツクヨミに対して頭を下げた。
全く白々しい、という表情をするツクヨミだが、
「・・・まぁいいでしょう・・・その面々についてはどうなんですか?」
ツクヨミは話を脇に置き、本題についてナナシに尋ねた。
賢太は善朗との別れに区切りをつけかのように、改めて霊界のあの丘に来て寝転がっている。
「・・・ほな、いこか?」
賢太はそういうとスッと立ち上がり、健太の後方に控えていた面々に向かって、そう言葉をかけた。
賢太の後に続くのは、ゴウチ、流、ネヤ、武城、ガカクの5名。
総勢6人は霊界の奥深い森に消え、霊界で彼らのその後を知るモノはしばらくはいなかった。
「雅嶺賢太を筆頭にした集団はその後、裏霊界に姿を現し、勢力を拡大しております。これはわたしめよりもスサノオ様の方がくわしいかと・・・。」
ナナシがニコニコと賢太達のその後をツクヨミに伝える。
ナナシに話を振られたスサノオが畳に横になりながら尻をかく。
「あぁ、存外頑張っておるぞ・・・ツクヨミ、最早、お主にも見通せぬのであろう?儂としては面白くなってきたわいっ。」
スサノオは賢太達の様子を笑いながらそう伝えた。
「あっ・・・後っ。」
ナナシはスサノオの話が終わるのを見計らって、ツクヨミに視線をしっかり向け、再び口を開く。
「なんですか?」
ツクヨミはナナシの話を姿勢を正して聞く。
「善朗にはこれ以上関わるな・・・関われば、高天原を消す・・・冗談かどうかはお前次第だ・・・との事です。」
ナナシがそうにこやかに賢太の《《捨て台詞》》をツクヨミに淡々と伝える。
「あら、怖いっ・・・ツクヨミ、どうします?」
アマテラスがナナシの話に身を縮めて、ツクヨミの方に視線を送る。
ツクヨミはため息を一つついて、腕組みをした。
「・・・善湖善朗に関しては、転生した以上、我々がこれ以上関わることはありません・・・・・・なら、その無粋なやからも、ここに来る事はないでしょう。」
ツクヨミがただ淡々とそう賢太を切り捨てた。
「どうだかな?・・・お前、相当にらまれとるぞっ・・・囲碁の仕方といい、現世で少しやりすぎたんじゃないか?」
スサノオが鼻をほじりながら、ツクヨミを言葉で刺す。
「やりすぎもなにも、『成長する神』というあってはならない存在を封じたのです・・・神とは元来定められた力が変わらないもの・・・それが、誕生した経緯とは言え、徳を積む事で膨れ上がっていくのは看過し難い・・・当然の帰結です。」
ツクヨミは善朗の存在を簡単なれど、如何に脅威があったかをそう力説した。
「・・・そうね・・・確かに悪巧みする人たちにとっては善朗ちゃんは脅威よね・・・でも、善朗ちゃんは私の味方だから、心配ないわっ。」
アマテラスは善朗の名を聞いて、ウキウキを隠さずに、今後の事を考えて、ワクワクしているような気さえ思えた。
「・・・私が前に出るのも構いませんが・・・雅嶺賢太の件はスサノオが適任かと思いましたが?」
ツクヨミは大局を見ない、自分勝手な面々に呆れるようにそう言葉で、スサノオを刺し返す。
「ふはははっ・・・あやつ達はどうやら、《《諸悪の根源》》である母上の元へ今は向いておる・・・禍津神を倒せば、こちらに向かってくるだろう・・・その時は、儂がなしつけてやるから安心せいっ・・・大事な姉上や兄上を守らねばのぅ~・・・。」
スサノオはアグラをかいて、ニヤニヤとツクヨミを見る。
「その時は頼みますよ・・・それで、霊界はどうですか?」
ツクヨミはスサノオの悪態を肩ですかすとナナシに霊界の現状について尋ねた。
「はい・・・霊界は曹兵衛とサユミを中心とする新たな12人衆の下、前ほどではありませんが力をつけております・・・今後とも、霊界は安定する事と思います。」
ナナシはにこやかにツクヨミにそう伝えた。
「宜しい・・地上については分かりますか?」
ツクヨミは霊界の話に納得し、次に地上について尋ねた。
「はっ・・・地上につきましては、鼓條冥が筆頭となり、救霊会の力は以前より格段に増しております・・・が、雅嶺賢太の裏霊界の働きにより、地上に悪霊や怨霊がそもそも減っておりますゆえ、人の世も今後は穏やかかと思われます・・・。」
ナナシはニコニコと地上の現状もツクヨミに話す。
「あらあらっ、それは立派ですねっ・・・ツクヨミ、よかったですねっ。」
アマテラスはツクヨミに見せ付けるようにナナシの話に晴れやかに反応した。
「そうでございますな・・・で、あの者は?」
ツクヨミはアマテラスのからかいも肩ですかして、肝心なものをナナシに尋ねた。
「・・・善朗君の転生は順調であります・・・乃華とは1歳違いではありますが、仲睦ましくお隣同士として、今は小学校に通っている様子・・・成長した鼓條姉妹も影ながら見守っておりますので、安心でございますっ・・・《《ツクヨミ様の配慮の賜物》》でございます・・・な。」
ナナシはニコニコとツクヨミをマジマジと見て、そう言葉を並べる。
「あらあらあらあらっ、ツクヨミはお優しいっ・・・私は姉として誇らしいですっ・・・ねっ、スゥーチャンっ!」
アマテラスは嘘泣きをして、袖で顔を隠しながらツクヨミを褒め称える。
「おうおうっ、それはそれは温かみのある兄上の対応・・・弟としてもこれほど涙が出る事はありませんなっ。」
スサノオはそういってあくびをして、涙を拭いた。
「もうよろしいですっ・・・今後の高天原について、お話いたしましょうっ。」
「あっ、そろそろ霊界の様子を見てこようかしら?」
「姉上っ、今日は逃がしませんよっ。」
ツクヨミが真面目な話を切り出すと、アマテラスは透かさず席を立とうとするが、ツクヨミに阻止されてしまう。4人はそうして、今後の高天原について、席を設けた。続々と八百万の神々が呼ばれる中、スサノオは脇で宴会を始めた。その中でも、ツクヨミはアマテラスをしっかりと捕まえて、神々と対等に意見を交わしていく。
ベベンベンベンベンッ
流行り廃りはあるけれど、今も楽しい輪廻転生
霊界良いとこ、一度はおいで!
しかし、皆様、どうか長居はご勘弁
日は常に人々を照らし、見守り続け
一人の少年の長い旅路を
また新たに照らし出す
過去も未来も霊界も
今も昔も人の世も
お天道様は分け隔てなく照らし出す
現と幻の狭間の世界
きっと貴方も感じてる!
そんな霊界を旅した少年の
数奇な運命と物語
これにて、堂々完結でございますぅ~~~
また、ごエンがありましたら、お会いしましょう・・・
ベベンベンベンッ・・・ベベンッ!
おしまい




