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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
第5幕 霊界武術大会編
109/171

単勝はダントツ!!そう思った事は多々ありました・・・私はデータ・調教・パドック・総合で考えてあなたを信じている・・・それはそうと、今日も紙は舞う

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 佐乃道場に併設されている屋敷の縁側。

「・・・・・・。」

 善朗は何をするわけでもなく、ただただボ~ッと流れる雲を眺めていた。


 善朗は冥との面会の後、菊の助の武家屋敷から足が遠のいてしまい、気をんだ佐乃の誘いから、ここでただただ時間を潰していた。道場で稽古をするわけでもなく、幽霊だけあって、食事をするわけでもない。寝る必要さえないことが、今の善朗にとっては地獄のような苛酷かこくな環境だった。流石の賢太さえも無神経に話しかけることも出来ず、いつしか、善朗のいる縁側は聖域のように誰も近付かなくなっていた。ただ、それだけでは余りにも毒だと、たまに佐乃が外出させるように街に茶菓子を買いに行かせていた。



「正味な話・・・辛気臭くて敵なわんでぇ・・・。」

 縁側の善朗が見える廊下の影から善朗を見て、賢太が目を細める。



「しかし、事情が事情だけに皆も声を掛け辛いのだろう?・・・あんなに固執していた賢太ですら、何もしないとは・・・拙僧せっそうとしては賢太の成長を感じるぞ。」

 賢太の足元で舌を出しながら、太郎が善朗を見て、そう話す。


「・・・・・・おいっ、それはどういぅ~意味じゃっ?」

 賢太は不意に太郎に馬鹿にされたことに気付いて、太郎を睨む。



 賢太と太郎がじゃれあっていると、ふと後ろから賢太の後ろの襟を掴んで引っ張る者がいた。

「あんた達、何してんだいっ!?・・・賢太っ、あんたはしっかり稽古しなっ・・・い組を倒したからって、調子に乗るんじゃないよっ。」

 もちろん、そんな事を賢太に出来るのは佐乃だけだろう。佐乃は賢太の後ろの襟をムンズと掴むと善朗から見えなくなるように自分の顔の方に引っ張り込んで、善朗の様子を伺っていた賢太をしかりつけた。


「いやいや、師匠・・・さぼってへんよっ・・・俺は俺なりに強ぉ~なろうって、善朗を観察しとるんやっ。」

 首根っこを掴まれて、身を縮ませながら賢太が弁明をする。


「なんだって?」

 賢太の弁明に眉を細める佐乃。


「確かに俺もい組の悪霊を知らんまにぶっとばしとったわ・・・でも、善朗はい組を2匹っ・・・しかも、聞いた話やと一匹は妖怪化っちゅぅ~えらい強いやつやったんやろ?・・しかもしかもやでっ、なんかようわからん必殺技も使っとったちゅうやないかっ!・・・俺はくやしゅぅ~てくやしゅぅ~てたまらんよっ!」

 賢太は子供が玩具をせがむ様に悔しさを表現して、佐乃に抗議する。


「・・・あんたまた、そんな変な事考えてたのかい・・・。」

 佐乃は賢太の主張に呆れかけて頭を抱える。


「師匠っ!何が変な事なんやっ・・・俺にとっては重要なことなんやぞっ!」

「ばっ、ばかっ!あんたっ、声でかいよっ!」

「拙僧には二人とも声がでかいように思えるが・・・。」

 佐乃の言葉に賢太は感情を露わにして、善朗の事など忘れて、大声で佐乃を怒鳴ると、佐乃も佐乃で対抗して大声で賢太を叱る。そんな様子をせせら笑う様に太郎が現状を淡々と話した。






「・・・・・・。」

 佐乃は善朗から死角になっている廊下の端の壁際からソッと善朗の様子を伺う。


 善朗は佐乃達の騒がしい声も聞こえていないのか、最早、気もならないのか、相変わらず空の流れる雲を見ながらボ~~ッとしていた。


「ふ~~~っ・・・こっちにきな・・・。」

「あいててっ・・・師匠っ、ひっぱらんといてっ!」

 佐乃はこれ以上善朗をわずらわせないように更に賢太の首根っこを引っ張って、縁側から遠ざけていった。






 佐乃は賢太達を善朗から遠ざけて、落ち着いて話せる屋敷の別の場所まで移動した。

「賢太・・・あんたは大会のメンバーにも選ばれたんだろ。何をそんなに焦ってるんだい?」

 佐乃は頭を左手で軽く掻きながら駄々をこねる子供をあやすように優しく賢太に尋ねる。


「メンバーに選ばれたかて・・・肝心の善朗と決着つけれるわけでもあらへんっ・・・変なおっさんに聞いたんや・・・公然と善朗と全力で戦えるのは今回だけやろって・・・。」

 賢太は武道大会に選ばれた事よりも、武城から聞いた善朗と全力で戦えるチャンスが消えた事の方に憤りを感じていた。


「・・・確かにあんたの言うとおり、武闘大会は年に一度、誰もが何の制限もなく全力で戦える場所だよ・・・だからこそ、今では娯楽が溢れ返ってる霊界でも昔から盛り上がるお祭りなんだ。あんたが全力で善朗と戦いたいっていうのもわかる・・・道場であんた達を全力で戦わせてやれりゃいいんだろうけど、流石に今のあんた達を制限無しで戦わせたら、ここら一帯が更地になっちまう・・・善朗と全力で闘える最後のチャンスか・・・正直、そうかもしれないね・・・。」

 佐乃は駄々をこねる賢太の本音を聞いて、思わず微笑ましくなり、賢太の頭をそう話しながら撫でる。


「ちょっ、なんやねんっ!・・・師匠っ、やめてぇーなっ!!」

 賢太は太郎もいる手前、佐乃から撫でられるのが恥ずかしくなり、佐乃の自分の頭を撫でる手を強めに跳ね除ける。



 佐乃は手をどけられると両脇に両手をそれぞれ置き、仁王立ちで微笑む。

「あと、善朗みたいに技だのなんだと、あんたがこだわるんじゃないよっ・・・。」

 佐乃は右手の人差し指を賢太の顔の前に近づけて振りながら、さらに賢太をあやす。


「・・・なっ・・・なんでやっ?」

 佐乃の突然の物言いに賢太は素直に尋ねる。


「いつも口酸っぱく言ってるだろ・・・霊の戦いは思いの強さをその拳に乗せる事だって・・・あんたの良さはその素直さだよ・・・善朗の使う技って言うのは、思いの形を変えて、状況に応じて使え分けたりすることで、威力を増したりするもんさ・・・それに霊力の性質変換は一朝一夕で出来るもんじゃないんだよっ・・・あの秦右衛門ですら、使いこなせないモノをあんたが出来るわけないだろ?」

 佐乃は賢太の言い分も分からんでもないと思うも、それにとらわれる賢太に呆れて、優しく諭す。


「おっ、俺も桃源郷っちゅうところで、稽古つけてもらえればっ!」

「場所の問題じゃないよっ!」

 佐乃の諭す言葉を跳ね除けるように賢太が叫ぶとそれを打ち消す佐乃の大きな声が響く。


 佐乃の言葉に怯む(すご)賢太を見て佐乃が優しい顔で見る。

「さっきも言ったけど・・・あんたは深く考えずに、そのあんたの拳に思いを乗せて、思いっきり相手を殴りなっ!・・・それがあんたの最強の技だよ。」

 佐乃は大きな声ながらも優しさをにじませる口調で賢太に言葉を送る。


「・・・最強の・・・技・・・。」

 賢太は自分の両手の手の平をジッと見ながらそう呟く。



 賢太は自分の拳をジッと見た後、ふと真剣な目で佐乃を見て、

「・・・・・・師匠、桃源郷に連れて行くのがめんどくさいだけちゃうんか?」

「違うよっ!」

 賢太の的を得たような検討外れの言葉に思わず佐乃が怒鳴る。



 賢太のオオボケともいえる言葉にあきれ果てた佐乃が賢太に背を向けて、その場を離れていく。

「まったく・・・あんたってやつは・・・とにかく、善朗と戦えなくても、強い奴はまだまだいるよ・・・大会のメンバーに選ばれたなら、しっかり恥をかかないようにしなっ。」

 そう言葉を残していく佐乃。そして、最後に・・・。




「・・・・・・あんたには言わなくても、大丈夫だろうと思うけど・・・ササツキには気をつけな・・・。」

 佐乃は賢太ではない虚空を睨むように重い言葉を賢太に発する。




(・・・・・・忘れとったわ・・・善朗よりもどつきたい顔をっ・・・。)

 賢太は佐乃の言葉で、メンバー発表の際にいた因縁の男の顔を思い出して、右拳を今日一力強く握りこんだ。









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