第54話・愚弟
年越しがありまして、少しバタバタしていたので遅れてしまいました。いやはやすいません
ミシアは、馬車のドアが開き、中へ入る。
空いたドア越しにミシアが言う。
「本当に乗らなくていいのですか?」
俺の後ろに控えていたエジルが俺の代わりに話す。
「馬車よりも速く移動する方法があるのですよ」
「そうなんですね!それはどんな?」
ミシアは、興味津々と言った感じでこちらを見る。
俺は正直に言う。
「転移魔法だよ。俺とエジルは使えるから、見送ったら先に帰らせてもらおうかなって」
転移魔法はこの世界では超高度な魔法技術がないと発動できない。
一応大きな国には【転移門】と呼ばれる、設置型刻印式魔法が設置してある。
四国の会談の為や、国家間の移動は転移門で行われる。
大陸を渡るとなるとこの世界では飛行機なんて便利なものは無いので、国を数ヶ月空けることになる。
だが、転移門を使えば一瞬で大陸の移動を可能とする。
まぁつまるところ、集団転移はこの世界ではとても大変なことなので、自力で発動できるということにしてある俺たちは、見送りという形に落ち着いたわけだ。
「そうなんですね!」
馬車の操縦士と言えばいいのか?その人が「そろそろ」という。
ミシアは馬車の周りに馬に騎乗して控えている護衛たちに「出立する!」と威厳のある声で言い、扉を閉めさせる。
馬車に付いた窓を開けて俺たちに言う。
「それでは、また学院で会いましょう!」
「あぁ、体調を崩さないようにな」
まぁ目は学院に戻る前に治す方法を考えないと。
そうして馬車は走り出した。
「トハン様」
「なんだ?」
エジルがミシアが乗った馬車に向かって小さく手を振りながら俺を呼ぶ。
「トハン様が同行しなくてよかったのでしょうか?」
「エジルはどこまで知っている?」
「トハン様がミシアの近衛をしているということは存じています」
情報収集能力がいいな。
今までそんな素振りはなかったが。
「よく知っているな。その通り、俺はミシアの近衛をしている」
「この際、理由は問いません。ですが、近衛になったのでしたら同行した方がよろしかったのではないですか?」
まぁそれはそうだ。
近衛兵という役職についている以上、責務は全うしなければならない。
「もちろん。今から近衛としての仕事をするのさ。着いてきてくれるな? 」
「仰せのままに」
俺はこの町の外へ、空間転移した。
◆
理由はわからない。
でも、多くの魔物がこの町に押し寄せてきているのはわかっていた。
「ミシアをこれ以上危険な目には合わせられない」
【推定、1000匹。危険度C~A】
「私が処理して参ります」
「お前がやると灰すら残らないじゃないか、この町にはあの魔物達が必要だ。恐怖を抱かせて街を襲わせない方針で行こう」
「御意」
ミシアがこの町を出るまであと数十分、その間に終わらせよう。
『能力・魔王の覇気』
多少減らすくらいなら大丈夫だろう。
俺は刀を抜き、数百m先の魔物たちへ走り出す。
魔物達から見たら、超怖いやつがこっちに向かって走ってきているように見えるな。
後ろでエジルも細剣を抜き、構える。
『武技・突槍』
トハンを遥かに超える速度でエジルは、前に剣を出しながら突進する。
確か、突進系の武技は直線限定で速く走れるんだっけな。
まぁエジルの場合能力を併用すれば光の速度を超える訳だが。
エジルが魔物の群れの中に入ると衝撃波で数十体の魔物が吹き飛んでいくのが見えた。
エジルの突進で魔物の動きが止まった。謎の突進攻撃に驚いているのだろうな。
「俺もやらないとな」
俺は刀を納刀し、1番前に立っている大型の魔物に向かって跳躍する。
首の近くまで来て武技を発動する。
『武技・一閃』
空中で抜刀し、首を切断、血が溢れ出て砂を赤色に染める。
俺の数倍の大きさのある鬼。危険度A相当の魔物だ。強い魔物が殺られて、魔物はさらに萎縮する。
俺は能力『飛翔』を使い空中に浮く。
【能力『万能語』を発動します】
「俺の言葉が聞こえるか!お前たちの生殺与奪は俺にかかっている!町への侵入は許さん!もしも侵入しようと試みた者がいたら即座にこいつと同じ目に合わせる!」
能力『念力』を使いオーガの首を引き寄せ魔物たちに見せる。
魔物たちは俺が強者だとわかったのだろう。
次々と周りに拡散して行った。
「意外とあっさり終わったな」
そこへ、エジルが瞬間移動かのように目の前に現れる。
「さすがトハン様、良い威圧でした。少しゾクゾクしましたよ」
頬を赤らめるエジルをみて、何故かちょっと怖くなった。
「そうか……それは良かった……ゲホッ」
血を吐きながら咳き込む俺を見てエジルは魔法をかける。
「すいません、無理をさせてしまいました。本当は私がやれば……」
「気にするな、別に死にやしないさ」
血を吐きながら言えたことではないが、笑ってエジルを心配させないようにする。
エジルは強い。しかし、器用なことができないのだ。
力をほぼ失った俺だが、エジルよりは器用なことが出来る。
お互いに支え合うのが、主と側近のいい関係なのではないだろうか?
うん、俺は何を言っているのだろう。
そうして俺は、転移魔法を準備するエジルに少しだけ捕まりながら少し休む。
先に王都に帰って少し休もうかと考えるトハン。
だが、そこで強大な力が迫っているのを感じた。
「なんですか!この力は!?」
エジルが目にも止まらぬ速さで転移魔法を練って数秒でできあがるはずが、謎の巨大な力により発動が解除された。
「やっと見つけた」
短髪で俺と同じ銀色の髪、目は両方赤色の瞳を持つ、クエター時代の頃の髪とおなじで顔つきも似ている少年を思わせる姿。
背中に生やす2対4枚の翼は黒く染まり、頭に廻す光輪も禍々しく紫色に染まっていた。
空中に浮かんで上から不遜な態度を取る姿を見て俺は絶句した。
俺は知らない。見たこともない。だが、俺はこいつを知っている。
これは、本当のこの体の持ち主の記憶。つまり、クエターの記憶だ。
「やっと見つけたって言われてもな」
俺は強がってエジルから手を離し少年を睨む。
こいつの名前は『リター』俺の弟にあたる。
数兆年前、世界の絶対法則を破り続け、全盛期時代の半分以下の能力になった。
しかもそれが、自分の世界を娯楽として扱ったという。世界の絶対法則『神の過度な世界干渉』に抵触し、堕ちた神となった。
世界の絶対法則を無視して堕ちた神は後にも先にもリターだけだった。
「僕は兄さんが嫌いだった」
「嫌われるようなことはしてないと思うが?」
これは本当だった。
クエターの記憶を探っても、リターに嫌われるようなことをした覚えはなかった。
しかし、あくまでそれは俺の主観である。
「兄さんは、僕たち神族の中でもずば抜けた創造の才能があった。しかもさらに癇に障るのが、兄さんはそれを自覚してないんだ」
そう言われて気づいた。こいつは嫉妬しているのだと言うことに。
でも、嫉妬心だけでこんな辺鄙なとこまで来るか?という感じだ。
「僕は堕神・リター。となったことで新しい力を手に入れた。それは、堕能力『七つの大罪』僕はこの力で前の僕よりも強くなった。まずは最初に1番嫌いだった兄さんを殺す」
その言葉を皮切りに、明らかな殺意を向けてくるリター
数百m後ろに見えるミシア達を巻き込むわけには行かなかった。
だが。
「無理です。転移魔法が使えません。戦場を変えることはできません」
エジルからそう言われると、ますます絶望を感じた。
転移阻害の魔法か、用意はバッチリという訳だ。
【警告、対象が戦闘態勢に入っています。神との戦闘はこちらが不利です。直ちに撤退を推奨】
奴の狙いは俺だ。ここに来るミシア達に危害を与えないとは思いたいが。
「エジル……俺を担いでなるべく離れろ」
小声で耳打ちし、エジルは無言で少し下がる。
「失礼します」
その言葉と同時に俺はお姫様抱っこをされて速度の世界に入った。
エジルの配慮だろうが、俺に風などの障害物が来なかったのは風魔法の応用で風のバリア的なのを張っていたのだろう。
まぁ、エジルが俺の事を担ぐ訳ないか。
数秒経つと知らない場所にいた。
見渡す限り平原で特に何も無い場所だった。
「ここなら思う存分戦えます」
そう言って俺の前に立つエジルはかっこよかった。
少し遅れて俺たちの前方に大きな力の塊が姿を現した。
「エジルだっけ?兄さんの天霊族は」
「あぁ、自慢の天霊族だよ」
エジルの口角が少し上がり、喜んでいるのが何となくわかった。
もしかしてエジルって結構ちょろい?
「天霊族が来るのは予想していた。僕たち神族の護衛。主との強い主従関係がある時、天霊族は神族を超越した力を手にする。そんな存在に対策もせず来るわけないだろう?」
そう言ってリターは収納系の能力だと思われる異空間から、水晶のようなものを取り出す。
しかし、リターのように異様な雰囲気を放つその水晶はいいものではないのは見てわかった。
「堕能力『七つの大罪』権能『強欲』」
そう唱えると同時に空が暗く閉ざされ、黒い雷のようなものが滞留しているのが見える。
それが一気に1箇所に集まったかと思うとリターに向かって……いや、水晶に向かって落ちる。
爆音と共に突風が吹き荒れる。目を開けるとそこには……
「これが力……今なら誰にも負ける気がしない!」
2対4枚だった翼は1対2枚となったが、先程よりも大きくなり、異様さを感じさせ、頭に廻っていた光輪は背中に移動し、輝いていたらとても美しかっただろうが、禍々しく背中を廻っていた。
『特異能力・神への忠誠』
エジルは腰の細剣を地面に突き刺し、前にも見せた姿勢をする。
リターとは反対に神々しい覇気をみせ、エジルの姿は天霊族になり、翼や光輪の輝きはいつもより増していた。
今のエジルは全盛期の頃の俺のステータス、世界能力以外の能力が共有され、最強と言っても過言ではない状態になっているが……不安はまだある。
相手が何をしてこようとしているのか検討が付かないからだ。
『闇属性魔法・暗闇槍』
『光属性魔法・光輝槍』
2人の魔法がぶつかり合い、相殺される。
相殺されたということは魔法の威力だとほぼ互角ということになる。
他にも無数の魔法が行使され、全てが相殺する。
「埒が明きませんね」
その瞬間、リターの後ろに回り込んだエジルが躊躇無く心臓にめがけて光速の突きを出すが、リターは消え、エジルの後ろへ移動していた。
「ッ……!」
エジルはどこからが現れたリターの武器によって刺されたが、急所を避けるように体を動かし、即死は免れた。
エジルが対応できなかったということは移動ではなく、空間転移な訳だが、にしても発動が早すぎる。
リターは勢いよく漆黒に染った剣を引き抜き、エジルからは血が一気に飛び出すが時が戻ったかのように全てがまた元に戻り、気づいたら俺の前に立っていた。
「エジル……それはもしかして」
「はい、私の特異能力『時空間支配』です」
そもそも時を戻すことが世界の絶対法則で禁止されている中。
合法的に世界の絶対法則から抜け出す方法はたった一つ。
自然発生の特異能力だけだ。
「この能力を持ってしても限界は10秒程ですが時間を遡ることができます」
「エジルはあいつに勝てるか?」
エジルは不安そうな表情を見せる。
「正直に言っていいぞ」
「えっ……と…………」
とてもいいにくそうだな。まぁ予想はできてるが。
「トハン様が亡くなられ、私1人生き残り、全力の出せる第九宇宙・神界でなら、種族能力『不束者への神罰』で倒すことができますが」
そう、俺が死ねば天霊族の能力であいつを倒すのも用意だろう。『不束者への神罰』という能力は天霊族が使えるべき主、エジルの場合俺が死んだ時に主を守れなかった天霊族が主の代わりに仇を取れる力を与えるという能力だ。
大きな力にば代償が要る。もちろん仇を倒したあと死ぬ。
「撃退はできる可能性はありますが、相手をこのまま一生戦闘不能状態にするとなると私の今出せる力ではほぼ0と同じ確率です」
まぁこの際、一時的に帰ってもらって早めに俺が力を取り戻して戦う方がいい。
今は俺が足を引っ張るだけだ。
「エジル。倒すことは強要しない。今は一旦この世界からリター追い出すのを目的にしよう」
「話し合いは終わったか?それじゃあ…………僕に殺されろ」
トハンの心臓はリターによって握り潰された───
どうでしたか?楽しんで行けたら幸いです。
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1つでもつけてくれたら私は嬉しくてどんどん作品を書いていこうと思います。
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