プロローグ
花屋が爆発した。シクラメンが宙を舞った。花弁と茎は断罪され、そのすべてが赤く染まった。通りの人間たちは痛い目を見、爆破された者の残骸を見た。
虫けらのようではないか! 何が命、何が尊さだ。ここには薄暗い血と暴力しかない。少なくとも俺は行動を起こした。だからこそ俺は今、しこたま血と暴力の雨に打たれているのだ。
顔面を打ちつける水。俺は腫れ上がった瞼を持ち上げる。するとイボまみれの顔が現れた。
「起きやがったぜ、この野郎」イボ男が言った。
「ひでえ顔だ、2時間噛んだガムみてえ」知らないバカが言った。
暗い部屋だ。打ちっぱなしコンクリートルームの真ん中で地べたに座らされている。首は回らないし腕も脚も動かないが、それぐらいは分かる。絶望的な状況だということも。
「それじゃあ、切って終いにするか」イボが言った。
「何を、なにを、ナニを?」バカが言った。
イボが懐からナイフを取り出し、バカが手拍子する。
信じられないことに、拘束は一切されていない。もっとも、ぶちのめされた身体は微動だにせず、健康的な部位は一つも見あたらない。逃走不可能、反撃不能。おまけに今から勃起不能にも陥るらしい。
イボが俺の太ももに手をつける。やつは手慣れているようだった。途端に現実味がなくなる。増えるものはたくさんあるものだ。ムダ毛、腫瘍、面倒。しかし無くなってしまうものは……いや、こちらもたくさんあるな。忘れてくれ。
「永遠におさらばだ」イボは刀身をぎらつかせた。
「さらば青春の光」バカはバカを言った。
俺は最期に何か言おうとした。懇願だろうが悪態だろうが何でもいい。この空気に、社会に、人間の愚かさに、杭のような言葉を。くそったれ資本主義。すべての弱者に女神を。パソコンのフォルダにあるエロ画像を削除してくれ!
「うぉべべっ」俺は呻いた。血が喉に詰まったせいだ。言葉にならないなんて、これ以上ない表現じゃないか。
俺はそこで、行方不明者リストの新規メンバーになる予定だった。しかし、最悪の闖入者がそうはさせてくれなかった。それでも、その時の俺には、死ぬよりマシだと思ったんだ。