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「うーん……」
僕は現在、酒場の扉の前で蹲っていた。
昨日はあれだけ盛り上がったのに一番大事な事を忘れるなんて……。
「じゃあいってくるわー!」
そんな声と共に、衝撃が来る。
「うわ、大丈夫か!?」
そう言って抱き起こされたのは灰色の髪をした短髪の男だった。
「だ、大丈夫です。僕が蹲ってたのが悪いので……」
そう言って顔をあげると、目の前の男が固まる。
そうして一言、
「……よっぴー?」
とだけ、呟いた。
僕の前世の名前はよしひこといった。
同学年にはよしひろという男の子がいて、そのこはよっしーと呼ばれていた。
その子はクラスでも目立つ方の男の子で、ぼくとは全然違っていて。
それなのになんでか馬が合って、ふたりで遊ぶ時だけはって「よっぴー」とその子は僕にあだ名を付けてくれたのだ。
つまり、目の前にいるこの人は。
「……よっしー?」
その言葉に見る見る間に顔を明るくした男は、ギューギューと僕のことを抱きしめてくる。
痛くて泣きそうになうほどの力で、さすがにギブギブと背中を叩いた。
「何事なの!? ってノルズくん!? グロウになんで抱きしめられてるの?」
そこにやってきたのはオードちゃんで、モップを振りかぶって今にもよっしーにぶつけそうな勢いだった。
「わぁー! 誤解です誤解です! 僕がここで蹲ってたのが行けなかったんですぅ!」
「そうそう、それで抱き起こしたら都会で友人だったこいつがここにいてさ。あんまり嬉しかったもんでついつい。悪いな、思わず強く抱擁しすぎた」
「……ノルズくん、本当に? こいつから悪いことされてない?」
「ないですないです! ぐろう?は僕の友人で、昔からの友達なんです! まさかこんなところで会うなんて思ってなくて、驚いただけで!」
「ふーん……それならいいけど。もう、グロウがまた何かやらかしたのかと思ったじゃない」
「おいおい、俺はそんなにやらかしたりしてねーよ?」
「嘘ばっかり。ほら、二人共きちんと立って。グロウは仕事でしょ? 早く行って来なよ。ノルズくんは怪我、しなかった?」
「あ、うん。卵も無事だよ。よかった」
「おい、なんで俺にはそんなに雑な扱いなんだよ!」
ブーブー言いながらも、グロウはそのまま道を歩いていく。
「のるず」
そして去り際に一言、
「またあとでな」
そう言って、去っていったのであった。