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「鉱石掘り? 僕と?」
「シー! 声が大きい。もっと静かに喋れ」
グロウとの酒場での夜の食事中、グロウが言い出したのはそんな事だった。
「何でも妖精の力が宿る鉱石が取れる場所があるらしいんだ」
「なにそれ? 聞いたことないよ?」
「山の八合目辺りに湖があるだろう? あそこが冬の間は凍って、そこを渡ると洞窟があるらしい」
「へー」
「で、だ。その妖精の力が宿る鉱石を使ったアクセサリーを意中の人にプレゼントすると、結ばれるって伝説があるらしいんだよ」
「結ばれるって……僕らもう恋人がいるけれど?」
「……絆が固くなるって話らしいんだ!」
「今作ったよね、それ」
「いや、案外嘘じゃねーぞ? 考えても見ろ? 結ばれるってのは結婚できるって意味でもあるかもしれないだろう?」
「ああ、なるほど」
「って、お前さっきからあんまり興味なさそうだな」
飲み物をちびちびやりながらそれを聞いていると、グロウが突っ込んできた。
うん、よくわかったね。実はあんまり興味がない。
「だってつるはしを使ってキンコンカンコンやるんでしょ? 僕には不得意な分野だよ」
「それが驚け! そこは実はクワで鉱石が掘れるらしいんだ」
「クワ!?」
それは一体どういうことなのか。鉱石と言えば鉱山で鉱石を掘るものであって、決して畑から出てくるようなもんじゃない。
「それがな、そこは妖精のいたずらではしごが隠してあって、それを土を耕して見つけて下に潜っていくらしいんだ。どうだ? 少しはやる気になったか?」
「う、うーん……でもまゆつばものだよね、それ」
「だが実際爺さんのところにその鉱石が持ち込まれるんだよ。だから俺はその鉱石の扱い方を知っている。 ぶっちゃけ俺はマリンとの絆を深めたい!」
「そりゃ僕だってオードちゃんとの絆は深めたいけど……」
ちらりと食事を運ぶオードちゃんを姿を見て、この間のキスを思い出して赤くなる。
こ、これ以上絆を深めるってどうなるんだろう? なんかそれ、やばい気がするんだけど。
「ぶっちゃけ俺はそろそろマリンとキス以上の関係いきたい」
ブーッと飲んでいた山ぶどうジュースを思い切り吹き出した。
考えることは同じか、親友よ。だけれどそれ、口に出していってほしくなかった。
「おま、きったねーな! おーい、オード! こっちに拭くものと山ぶどうジュース持ってきてくれ」
「はーい、ただいまー!」
そしてこういう話題の時にオードちゃんを呼ぶのも止めていただきたい。
そりゃ給仕してるのはオードちゃんしか居ないから仕方ないけど!
「ありゃりゃ、盛大にやっちゃったねノルズくん。グロウに何か悪いことでもされた?」
「い、いやなんでもないよ! ちょっと気管に詰まっちゃって!」
「そっか。まあ気をつけてね」
爽やかにそういうと、オードちゃんは上機嫌に去っていく。
それを二人で見送ってから、不老のにやけた顔に気づいた。
「……さてはお前も同じ事を考えたな?」
「考えてない考えてない! そういうのは結婚してからの話だよ!!!」
「まあそう言うな、親友よ。素直になれ。オードの素のままの姿が見たいってそう思うんだろう?」
「やーめーてー!」
想像しちゃうから! ていうか想像しちゃいたくないから止めてくれ!
「あ、ほら。やっぱりいじめられてるんじゃない。あんまりノルズくんのことからかわないでよ?」
「大丈夫だよ。お前の旦那はただ照れてるだけだから。な、ノルズよ」
「違うから! 断じて考えてないからぁ!」
「何を考えてないの?」
不思議そうな顔で会話に混ざってくるオードちゃんにもちろん何も言えるはずがなくて、僕は焦る。
それをみてニヤニヤと意地の悪い笑顔を貼り付けてこちらを見ているグロウは、本当にタチが悪い。
「こ、今度ちょっとグロウが遠出するって話を聞いてただけだよ。それでちょっと鉱石をって……」
「それってもしかして妖精の鉱石の事!? わー、いいな。あれのアクセサリーをもらうのって、女の子にとっての憧れなんだよねぇ」
「そ、そうなの?」
「うん! マリンは幸せものだなー……。あ、考えてないってノルズくんも行くかってこと!? そっか、あそこってクワ作業だって聞くし、ノルズくんならぴったりだよね」
「そ、そんなとこかな」
「そっかぁ……。ノルズくん、せっかくクワ作業上手なのに行かないのか、残念。まあお仕事もあるし仕方ないよね。 あ、はーい! 今行きまーす!」
ある種の爆弾を落として、オードちゃんは去っていく。
そうしてグロウは意地悪な顔を貼り付けたまま、僕に問うのだ。
「で、行くよな?」
「……うん」
あんな事言われたら、行かないなんてもう言えないじゃないか。




