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「交代、だって」


 そうぶーたれながら戻ってきたオードちゃんは、プリンだけは私のお手製だよとにこりと笑う。

 その笑顔にドキリと胸が高鳴らせつつも、プリン楽しみだよと返した。

 いや、本当に。お世辞じゃなくてすごく楽しみだ。

「ところでお父さんと何話してたの? 最後に意味のわからないこと言ってたけど」

「え。あ、いや……ちょ、ちょっとした世間話を……」

 あなたの外堀を埋めてましたとは言えず、適当にごまかしてみる。

 目は泳いでいるだろうしどもっているけども、それでもごまかした。

「ふーん……」

 疑ってますと言わんばかりの目でこちらを見てくるオードちゃんだけれども、その顔も可愛くて正直困る。

 なにかごまかす方法はないかとあれこれ考えて見るんだけれども、話題……って、あ、そうだ。

「今日、初めてさっきキョウちゃんに会ったよ。美人な子でびっくりした」

 って、出す話題がそれか自分ー! と盛大に自分にツッコミを入れたい。特に美人のくだりとかいらなかったはずだ。なんで付け足した!

「あ、キョウとあったんだ! あの子、いい子だよ。何かあったら頼ってあげると良いよ。頼られるの、大好きな子だから」

「え、でも店番を逃げ出そうとしてたよ?」

「ああ。それ、海に行こうとしてたんでしょ? あの子、貝殻やサンゴで絵を書くのが趣味なんだ。だから素材が足らなくなると、他のことが全部見えなくなっちゃうみたい」

 そうしてくすくすと笑うオードちゃん。

 そんなオードちゃんにぼくはぽんやりと見惚れてしまって、黙り込んでしまう。

「ノルドくん?」

「え、あ、いや! 玉子料理がオードちゃんはそんなに好きなのかなって思って!」

「え、急に話題とんだね!?」

 しまった、思考がそのまま口に出た!

 けれども今更戻すわけにもいかず、そのまま会話を続行する。

「いや、だってなんかオードちゃんって卵にすごく詳しいし……」

「んー、すごくってほどでもないけど……勉強はしてるんだ、これでも。だからノルドくんのところの卵を見た時にこれだ! ってなちゃってね。突撃しちゃったよ」

「僕のところの? そんなにすごい育て方をしてるわけじゃないんだけどなぁ」

「それでもわかるよ、すぐに。だってノルドくんの手、働き者の手だもの」

「働かずに今ここに来てるけど」

「それでもきっと色々と終わらせてきたんでしょ? ほら、ほっぺに泥が付いてるの、誰にも言われなかった?」

 そう言ってくすくすと笑いながらオードちゃんは僕の左の頬辺りを撫で、泥を取ってくれる。

「……うん」

 その行動にあんまりぼんやりしすぎて、生返事が出た。

 近くて、近すぎて、それなのにぱっと離れていってしまうのが嫌で。

 その手をそのまま撮ってしまいたくなるけれども、そんな勇気は僕にはなくて。

「はい、とれた」

 そうしてその手をそのままぐりぐりとオーバーオールに拭いつけて汚れを取るところとか、そんなところも可愛くて。

「あの……」


「おーい、出来たぞー。オード、持っていってくれ」


 何かを言おうとしたその時に、テッドさんのそんな声が聞こえてきて。


「はーい! ごめんね、ちょっと行ってくるね」

「あ、うん。ありがとう」


 自分でも何を言おうとしたのかよくわからないまま、その日はおいしい玉子料理のフルコースをいただいて家に戻る。


「あ」


 そして思い出す。

 価格交渉やら納品数やら、そういうのを話すのをすっかり忘れていたことを。

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