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冬。
かじかむ手をこすりながらシュニップの世話をする。
ハァッと吐く息は白く、ちらつく雪は頭を濡らす。
自分の誕生日から二週間が過ぎ、本格的な冬がやってきた。
目の前に迫るのは犬ぞり大会で、オードちゃんから貰った犬笛でチーかまと訓練する毎日を過ごしていた。
収穫物は少なく、冬は主に酪農の季節になる。
秋にやってきた羊もこの牧場に慣れ、厩舎には牛、羊、馬。
秋に増設してもらった鶏小屋のおかげで、鶏も五十羽までに増えていた。
「ノルズくーん!」
お昼になり、寒さで頬を赤くしたオードちゃんがやってくる。
昼のお弁当タイムは屋内に場所を移し、二人きりでの昼食は続いていた。
お互いの胸に光るのは、満月を斜め半分に割ったようなシルバーネックレス。
初めてきちんとキスをした日に渡したそれは、今もお互いの首にぶら下がっている。
「今日も寒いねぇ。大丈夫風邪引いてない?」
「僕は大丈夫だよ。防寒着も雑貨屋さんでキョウちゃんが揃えてくれたし、動物たちも暖かいしね」
「そっか。ならよかった」
僕らのお付き合いが始まって、それなりに時間がたった。
今ではすっかりお互いに慣れ、普通に接することが出来るようになってきている。
「あ、そうだ。これ」
「うん?」
そう言って手渡された中身は手袋で。
農作業にも酪農業にも向いていそうな、頑丈な作りをしていたそれではなく、普通の毛糸の手袋だった。
「こういうの、ノルズくん持って来てなかったでしょ? ちょっと出かける時に便利だから、どうかなって。……本当は手編みのをあげたかったんだけど、どうにもそういうのは苦手で」
そう言ってたははと笑うオードちゃんに笑みを返して、それをはめてみればぴったりで。
僕が好きな色もしっかり抑えていて、ますます嬉しくなるプレゼントだった。
「ありがとう。じゃあ、今日は早速これをして酒場まで行こうかな」
「え、別に今日すぐに使わなくても……」
「だってこれなら、オードちゃんの手の温かさが伝わるでしょ? いままでのはごわごわして物足りなかったから」
そう言えば、オードちゃんは嬉しそうにニッコリと笑ってくれる。
相変わらず僕らが一緒にいられる時間は少なくて。
午後のデートは欠かさず毎日行う、唯一のふれあいの時間だった。
「じゃあ、そろそろ出かけようか」
昼食を食べ終えて、卵のかごを持ってそういうと、オードちゃんは空になったバスケットを持つ。
当たり前になったこのやり取りをして、僕らは牧場を出て、午後のデートへ向かうのだった。




