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カノンさんから送り出されて数十分後。
僕は少し立派な門構えをした、この町唯一の雑貨屋の前まで来ていた。
すぅはぁと何度か深呼吸を繰り返して、カランカランとなるベルの音を聞きながら扉を開く。
「こ――」
――んにちはーと言う前に、ドタバタと聞こえる音。
「キョウ! あんた今日は店番って言ったじゃない! 何海に行く準備をしてるのよ!?」
「だって海が、貝殻たちが私を呼んでるの!だから今日は行かなきゃいけないのよ!」
「あんたはいつでもそうじゃないのー!」
そんな会話と共にドタバタと店内を走る音。
何事かと固まっていると、目の前に女の子が走り出してくる。
しかもこちらを見ていない。これはこのままではぶつかってしまう!
「こ、こんにちはー!」
ここに来てじ初めてくらいの大声を張り上げれば、ふたりはピタリとその場に固まった。よかった、ぶつからなかった。
「あ、あらいやだ。お客さん?」
そう言って女の子を追いかけていたらしい母親のほうが話しかけてくる。
「あ、いえ。カノン農場からはちみつの納品に参りました。その、ここであってます……よね……?」
「あってますあってます。よかった、待ってたのよ。カノンさんところのはちみつは人気でね。ほら、キョウ! ぼうっとしてないで納品伝票持ってきて!」
「はーい」
ぶーぶーと声に出そうなほどにぶーたれたその子は店の奥に戻ると、伝票を持ってきてそこにサインして渡してくれた。
とりあえずこれでカノンさんからのお使いは完了だと胸をなでおろす。
「……ん? 君、ここらへんでは見ない子だね?」
そうした後に、顔を覗き込まれて僕は焦る。
金髪ロング、碧眼の美少女に顔を覗き込まれるなんて誰だってドキドキするじゃないか。
「も、申し遅れました! 町の外れの農場に引っ越してきました、ノルズと申します」
「あ、君が噂のノルズくんか! はじめまして、私はキョウだよ。年も近いみたいだし、よろしくね! 何かあったら言ってくれると嬉しいな」
そう言って右手を差し出す彼女に、ふと既視感を覚える。
「よ、よろしく」
そうして僕も手を差し出して、ハッと既視感の正体に気づいた。
これ、イベントだ。
前世でやっていたゲームには恋愛要素があって、その町の女の子と結婚できるのだ。
そのゲームのメインヒロインがこの子、『キョウ』。
しかも自分が主人公位置。どうしてこうなった。
そしてついでに思い出した。
このゲームのヒロインには、どうやったって結婚できない子がいる。
そう、それが僕が恋をした『オード』なのだ、と。