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好きな人が、出来ました。
はじめての好きな人でした。
最初はなんとも思っていなかったけれども、私の思いを肯定してくれて。
私の思いを、優しさで包んでくれる人でした。
「待って!」
けれども、その好きな人が好きな人は別にいて。
最初からバレバレなくらい、その人のことだけを思っていて。
だから少しだけ、背中を押してあげようって、そう決めたんです。
「い、今嬉しいって。キョウ、もしかしてもう……」
「うん。受け取ってもらえたよ。私の気持ち」
私の好きな人の好きな人は、私の大親友で。
恋愛に臆病で、自信がなくて、動けないような子で。
だからその子の背も押してあげることにしたんです。
「そんな……だって――」
「だって? 最初から私は言ったよね? 今日渡すことにするって。オードはどうするのって、きちんと聞いたよ、私」
「あ、あのぅ……何の話で――」
「ノルズくんは黙ってて!」
「はい!」
気をつけの姿勢で背筋をぴんと張る、私の言いなりのこの人。
この人が私の好きな人です。とってもとっても、優しい人です。
「オードはさ、遅すぎたんだよ。自分にもっと自信を持って、ちゃんとあたってあげればよかったんだよ。そしたらこんな風にはならなかったのに」
「でも……」
「でももだってもいらないよ、オード」
そう、でもでもだっても、もしかしたらも何も要らない。
もしかしたら先に私がこの人に会っていたら、なんて考える自分も、いらないんだ。
「じゃあ私、先に戻ってるから。あ、ノルズくんはそれ、大事にしてね」
「え。あ、うん、ありがとう」
そうして、二人をお置き去りにして私は二人の待つ場所へ戻る。
涙は家に帰ってからって、そう思ってたけど、大丈夫かな。
マリンにあったら泣いちゃいそうで、怖いけど。
私はこの前、初めて大好きな町以外の絵を書きました。
それは私の大好きな人の絵で、小さな小さな絵だったけれども。
それを渡せてよかったと、今は心から思います。




