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カノン農場の主の家のドアを開けると、きぃっと音をたてた後に続くカランカランというベルの音が鳴り響く。
それに気づいて農場主であるカノンさんが、玄関に簡易的に設置されたカウンター越しにこちらを向いた。
「あら、ノルズちゃんじゃないか。今日はどうしたんだい?」
「こ、こんにちは……!」
そうして気さくに声をかけてくれるカノンさんは、恰幅のいいおばさんである。
初めてここを訪れたのは町長から農場に案内してもらった初日だったけれども、カノンさんはおどおどする僕に対してもこうやって対応してくれた。
そんな出会いだったからか、僕の方もそこまで気負わずにこうしてここに来れるわけだけれども……。
「あ、あの……きょ、今日はお聞きしたいことがありまして!」
「聞きたいこと? なんだい、なにか作物に問題でもあったのかい?」
「い、いえ! 作物のことじゃなくて、その、この町のことと言いますか、なんと言いますか」
「町のこと? はて、私に答えられることなら良いけどねぇ」
そう、僕は知っていた。
この町の外れに、僕やカノンさんの農場はある。
つまり、あまり人付き合いがないのだ。というか、人が来ないのである。
だが、頼れるとしたらここかあとは町長しか僕には頼れる人がいない。まずは近くのここから訪ねてみたのだが、やはり、望みは薄いのかも……。
「きょ、今日お店に直接納品をして欲しいって方がいらっしゃって……。僕と同じ年頃の女の子だったんだけど、カノンさん、知りませんか?」
「同じ年頃の女の子? ノルズちゃんと同じ年頃の子は何人か知っているけれども……お店の子と言ったら雑貨屋のキョウちゃんか酒場のオードちゃんかね? どっちだったんだい?」
「そ、それが名前も聞くのを忘れちゃって……」
そう、名前も聞かなかったのだ。
恋をした、なんて言っても結局会話らしい会話なんて全然していない。ダメダメである。わかってる……。
「あぁ。だとオードちゃんかもしれないね。あの子、しっかりしているようで少し抜けているところがあるから……。というか、ノルズちゃんは酒場に行ったことはないのかい? 雑貨屋は行ったことがあるだろう?」
「ざ、雑貨屋なら……。酒場は人が多そうで、少しその……怖くて」
「ははっ! なるほど、そういうことかい。控えめなノルズちゃんらしいねぇ」
そう言って笑うカノンさんにはははと自分も苦笑を返す。
わかってる、うん。控えめって言うよりもただ人見知りが激しいだけなんです、はい……。
「ノルズちゃん、私が言えたもんでもないけど、もう少し人付き合いしないとね」
そう言ってカノンさんはポンと僕の肩を叩くと、採れたてのはちみつの瓶をいくつかかごに詰めて手渡してきた。
「これ、ちょうど雑貨屋に納品をお願いされててね。丁度いいからキョウちゃんにも会っておいでよ。それで違う人だったら、次は酒場に行ってみればいいさ」