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 次の日の朝、僕はいつもと変わらず山の中腹まで来ていた。


 もうそこにはオードちゃんの姿があって、相変わらず川のせせらぎを見つめている。

「おはよう、オードちゃん」

「おっはよう、ノルズくん! 今日も一日、がんばろうね」

 何も変わらない、いつも通りの挨拶。

 僕は温泉に卵をつけて、温泉卵を作り始める。

 それからとりとめのない話をして、温泉卵が出来上がるのを待って。


 そう、何も変わらないのだ。

 グロウの言う通り、いつもと何も変わらない。

 僕が変えようと思わなければ、きっと変わらない日々。


「あ、そういえば」

「うん?」

「今日から何か宿屋に泊まるってことになったんだ。よろしくね」

「ああ。朝にお父さんから聞いたよ。なんか家の建て直しをするんだって」

 建て直し?! 聞いてないんだけど!?とは言えずに、それを肯定する。

「そ、そうなんだ。あんまりボロ家だからってグロウがしてくれるって」

「グロウが? え、何でも屋って家の建て直しまでできるの……?」

「さあ……?」

 正直、僕もとっても不安なところである。何でも屋って、大工仕事までできるっけ……?

「ま、まあどうせ毎日作物の世話には行くからね。それでまずそうだったらやめてもらうことにするよ、うん」

「そ、そうだね。それがいいと思うよ……」

 話しも目線もそらしたところで、そろそろ温泉卵が出来上がる時間だ。

 さて、と立ち上がったところで、オードちゃんが口を開いた。

「そうだ、ノルズくん」

「うん?」

「この二人の秘密、やめにしようか」

「……うん!?」

「いや、だってなんかキョウに悪いかなぁって」

「なんで!?」

「いや、だってふたりきりでここにくるのもあれだし、明日からはキョウも誘って……」

「嫌、それは嫌だよ!」

「へ?」

 きょとんとした顔でこちらを見るオードちゃん。

 いや、その顔をしたいのは僕のほうだよ。

 そうして、はっと思い出す。

 そうだ、ゲームではオードちゃんはキョウちゃんのサポートキャラなんだった。

 だからキョウちゃんのいい方向にって動くに決まってて、それを当然のようにしようとする。

 けれども。

「あのね、オードちゃん」

 ここでそれを受け入れたら、僕の大事な気持ちが伝わらなくなっちゃう気がする。

「僕、エスコートがそんなに大事な事だって知らなかったんだ」

「え、えぇ……」

「だから二人を誘えたし。むしろ僕がエスコートしたのはオードちゃん、君のことだと思ってる」

「え?」

「僕が踊ってくださいって言ったのは、オードちゃんにだよ」

「あ、そういえば……」

「だから、誘ったのはオードちゃん。キョウちゃんに特別な感情も持ってないし、それが悪かったとは……す、少しっていうか大分思ってるけど、でも風習を知らなかった僕が悪いんだ。だから、勘違いしないでほしい」

「そっか……。それもそうだよね。ごめん、私こそ早とちりした。でもその、キョウは……」

「キョウちゃんにも、同じ説明をするつもりだよ。だから、僕らはきっと今まで通り……とはキョウちゃんとはちょっと行かないかもだけどさ。でも、僕の気持ちを勝手に考えるのはやめてほしいかなって」

「ノルズくん……」

「僕はこの時間が好き。二人で話して、温泉卵が出来るのを待って、またねって別れるのが好きだよ。オードちゃんは、ダメ?」

「ダメじゃないけど、キョウに……」

「キョウちゃんじゃなくて、僕はオードちゃんに聞いてるんだ。オードちゃんは、僕と二人は嫌?」

「……もちろん、嫌じゃないよ」

「じゃあ、このまま。ふたりの秘密で行こうよ。バレたら笑われるくらいのちっちゃな秘密くらい、誰も何も言わないよ」

 必死だった。

 この二人の時間を失うのが嫌で、言い訳を並べ立てて。

 それでもいいから、この時間を失いたくなかったんだ。


「……じゃ、二人の秘密が笑われちゃうまで続けよっか」

 そう言ってオードちゃんは苦笑するけれども、僕は心底ホッとして。

「うん!」

 ちょっとだけ卑怯なやつだなって、自分の事を思ったんだ。

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