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「じゃ、私はここで。エスコートありがとうございました、ノルズくん」
「あ、いえ……。こちらこそありがとうございました、キョウさん……」
雑貨屋の前に辿り着いたところで、そんな挨拶を交わしてキョウと別れる。
最後のあたりにまだ怒りが滲んでいたのはきっと機のせいだと思う、うん。
「さて、じゃあ酒場まで送るよ」
「え、ここでいいよ。キョウももういないし、ここから近いし……」
「それでもその……エスコートの役割だって言うし、送っていくよ」
「……わかった。ありがとう、ノルズくん」
そうして二人きり、酒場までの道を手をつないで歩いていく。
たった数十メートルのことだけれども、妙に緊張して、手汗が酷いことになっていないかばかりを心配していた。
「今日は楽しかったね。キョウを休ませようとしたら、ノルズくんラストダンスにいなくなっちゃったのには焦ったけど」
「え。あれってキョウちゃんを休ませるためだったの?」
「うん。ああ見えてキョウは体力がないから。そのくせあんなに激しく動き回るんだから、毎年ラストダンスにはへばっちゃて……。だから今日は変わろうって思ったんだけど、結局無駄に終わっちゃった」
「……すみません」
というか、オードちゃんは僕と踊りたかったわけじゃなかったんだ。
それなのに張り切ってあんなふうに叫んじゃって、僕ってば間抜けじゃないか。
「キョウはきっと、ラストダンスを楽しみにしてたから。知ってる? ラストダンスで踊った二人は、結ばれるんだって。だからキョウは今日まで張り切って準備をして、朝から待てなくてノルズくんのところに行っちゃったんだね」
「え?」
待ってよ。なんかその言い方だと、キョウちゃんが僕のことを好きみたいに聞こえるんだけど?
そんな事を考えていると、オードちゃんは手を離して一歩前に躍り出て。
くるりとこちらを向いて、満面の笑顔で言うのだ。
「キョウのこと、大事にしてやってね。私の大事な大親友なんだから」
そしてその笑顔は僕を絶望へと突き落として、そのまま掬い上げてもくれなくて。
「じゃ、ついたね。今日は楽しかったよ! また明日!」
そう言って、彼女は酒場の中へと去っていく。
「……え?」
つまり、どういうこと?
キョウちゃんは僕のことが好きで?
オードちゃんはキョウちゃんのサポートのために僕のエスコートを受けてくれて?
つまり、僕の気持ちは一ミリも伝わってなくて?
「…………え?」
これ、どうすればいいっていうんだろう。
誰か助けてください、どうか。
僕が好きなのは、オードちゃんだって言うのに、どうしたらいいんでしょうか?




