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さて、正直少しばかり困ったことになった。
『本当!? じゃあ早速明日からお願いしたいんだけど、いいかな?』
『勿論ですとも!!!』
『じゃあじゃあ、あとから手が空いたらウチの店に来てもらってもいいかな?』
『了解です!!!』
あれからそんな会話をして、彼女は帰っていったのだけれども。
どうやって納品するのか、そもそもいくつ必要なのかさえ何も聞かずに二つ返事で返事をしてしまった。
そしてなにより困ったこと、それは……。
「彼女のお店ってどこなんだろう……?」
あとから行くも何も、店の場所を知らなかったのである。
僕がこの町に来てから行ったところと言えば、近所の農場と雑貨屋くらい。
実はまだ街の人達との面識など殆ど無く、買い物をする時も必要以上の会話をしてこなかった。
自分で言うのも何だが、僕は人付き合いが苦手だ。
実家にいた頃は近所付き合いなんてしたこともないし、実は友人と呼べる人もいなかったりした。
よくもそんな状態で農場を継ぐなんて言い出したなと冷静になると思えるけれども、だからこそ実家を飛び出せたっていうのもあるんだと思う。
そうじゃなければきっともっと悩んでいたし、しがらみもたくさんあったはずだ。僕自身は、全くしがらみも何もなく飛び出してこれたのだから、結果オーライというやつなんだろう。
けれども、それはそれ。これはこれ。
そして実家は比較的都会で、ここは田舎なのだ。
どうしても人付き合いがないとやっていけない、そんな場所である。
そう。
そんな場所にいるのに、僕は人付き合いという人付き合いをまだしたことがないのである。
まずい。これは非常にまずい状況である。
「えっと……とりあえず……」
まずはいつも種を買う近所の農場に行ってさっきの彼女の特徴を言って、お店を聞く……? それくらいしかできない気がするぞ、うん。
考えながら手を動かし、いつも通りに農作物に水をやり、鶏の世話をする。
卵をとりあえずお土産として十個ほど準備して、ついでに今日出来たばかりのプニップもいくつか手土産としてカバンに詰め込んだ。
残りはいつも通り出荷箱に突っ込んで、業者さんが取りに来る夕方まで放置する。僕が留守にしていても勝手に持っていってくれるし、料金も置いていってくれるからあとは勝手にやってくれるだろう。
それにしても品物を放置、料金も手渡しじゃなくても大丈夫なんて、さすが田舎。素晴らしいけれども、改めて考えてみると不用心極まりない気がする。……深くは考えないでおこう。あまり話さなくていいのは正直助かってるわけだし。
「……よし!」
目深に帽子を被り、大きなカバンを肩にかけて準備完了。
自分自身に気合を入れて、家を出た。
目指すは近所の農場、カノン農場である。