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 二曲目のダンス。


 オードちゃんと気持ち密着して、チークダンスのようなダンスを踊る。

 チークダンスと言うにはあまりにも僕がへっぴり腰過ぎて、なんだかすごく不格好だけど。

 近すぎて、まともに顔も見れないから仕方なくて。

 もしかして恋人みたいに見えるかな!? なんて少しは期待しつつも、ゆったりと、ゆっくりと、二人でリズムを刻んでいく。


 ドキドキと高鳴る胸は、もう音楽も聞こえないくらいに大きくなっていて。

 僕の顔は多分真っ赤で、見るに耐えないかもしれない。


「なんだか、びっくりだね」

「へ?」


 必死に踊っている僕とは違って、オードちゃんは会話をする余裕があるようで。

 思わず出た声さえも裏返っているのに、それも気にせずオードちゃんは続ける。


「最初は卵が欲しくてノルズくんのところに行って、それだけだったのに。気付けばこうやって仲良くなって、まさかダンスまでしてる。……自分でも、びっくり」

「そ、そうなんだ」

 多分、僕が一番びっくりしてる。


 運命の人だと思った。

 ひと目で恋に落ちて、この人と結ばれたいと願った。

 それが引っ込み思案で弱虫の僕をこんなに変えてくれて、今、こうしてここにいられる。

 それだけが、それだけでも、奇跡なんだ。


「ありがとう」

 そう思ったら、自然と言葉が出ていた。

 ありがとう。

 ベンチで休んでいるであろう、今日ここに引っ張り出してくれたキョウにも。

 親友でいつも何かと助けてくれる、グロウにも。

 そして僕を変えてくれている、オードちゃんにも。

 それをきっと伝えたくて、言葉が出たんだと思う。

「私も、ありがと」

 けれどもそんな心の内を知らないはずのオードちゃんも、ありがとうを返してくれて。

 思わず顔を上げれば、そこにはニッコリと微笑んでいる僕の女神がいる。

 幸せすぎて、どこかに飛んでいってしまいそうな気分だった。


「もう、曲も終わるね。ゆっくり休めた?」

「え? あ、うん。さっきのキョウとの曲は本当に激しかったから疲れちゃったけど、今はもう大丈夫だよ」

「そっか。じゃあキョウの代わりを務めた甲斐があったね!」

 そう微笑んで、ゆっくりと身体を離して、腕を離す。

 名残惜しさと切なさがこみ上げてくるけれども、これでオードちゃんとのダンスはおしまい。

 最後にキョウとまたあの激しいダンスを踊って、それで今日はお開きだ。


 ベンチに居るキョウの方に目線を移そうと、身体を反転させようとした時のことだった。

「へ?」

 ぐいっと誰かに引っ張られる感覚。

 そうしてそのまま、オードちゃんや皆との距離は離れて、見えなくなってしまう。

 何事かと正面を見据えれば、そこに立っていたのは長身の中性的な美人さんだった。


「へ? へ? あ、あのすみません、どなたでしょうか?」

 誰かと間違えられたとのか思いそう声を掛けるも、目の前の人はただにこりと微笑んで手を離さない。

「んー、今はまだ名乗れないかなー。それにしても、君、強くなったね。最初は本当に大丈夫かなーって思ってたけど、もう大丈夫そうだ」

 え、知り合い!?

 こんな中性的な美人さんに知り合いなんていた覚えはないんだけど!

「あはは、混乱してるね。でもいいさ、今はそのまま混乱してて。さあ、ラストダンスを一緒に踊ろう。今日のお祭りの最後くらい、僕にも楽しませてよ」


 そうして、ラストダンスが始まって。

 意味のわからないまま、されるがままに僕は手を取られ、くるくると回される。

「これが本来のこの祭りのダンス。僕が教えてあげるね」

 そう言ってぴたりと僕を回すのをやめたその人は、今度が両手を合わせてパチンと音をさせた。

「さあ、こんどは君の番」

 そう言って僕の手を取ると、腕を上げて目の前でくるくると回りだす。

 何回転かすると動きをピタリと止めて、また両手をパチンと合わせて手を合わせた。

「次は前に二歩、後ろに二歩だよ」

 そう言って手を取ったまま、ぐいと引っ張られて前に二歩歩かされ、次には後ろへ二歩。

「はい、あとはこれを繰り返すんだ。周りをよく見てご覧? 最後はみんなこの踊りをしている」

 そう言われてあたりを見渡せば、町長を含めた皆がこうして踊っているのが見えた。

「さて、楽しい時間はこれで終わりかな。そろそろ曲が終わる」

 それを三回繰り返した辺りで、その美人さんはそう言うとそっと僕の手を離す。

 そうしてにこりともう一度僕に微笑むと、最後に一言だけこう言ったのだった。


「頑張っておくれよ、僕の愛しい子」

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