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次の日、グロウは朝早くから一匹の子犬を連れて農場へやってきた。


「チーかまだ!」

「は?」

「だから、こいつはチーかまだ!」

「……え、この犬の名前?」

 すると、わんっと返事をするように子犬が鳴く。

「え、おまえ本当にチーかまでいいの!?」

 わんっともう一度子犬は鳴くと、ノルズの足の周りを元気に走り出した。

「おわっ!ちょ、あぶないって!めっ!」

 するとおとなしくその犬はピタリとおすわりをし、その場から動かなくなった。

「どうだ? いいだろ? こいつに牛を追わせようと思ってさ」

「え、気が早いよ! まだ岩の片付けも終わってないのに!」

「大丈夫大丈夫。牛の手配もしてきたし、なんの問題もないって」

「問題だらけじゃん! 牧草も育ててないし、まだうちでは飼える環境じゃないよ!?」

「大丈夫大丈夫。なんとなく、今のお前なら大丈夫な気がするんだよな」

「なにその勘! 絶対にその賭けは良くないと思うよ!」

「大丈夫大丈夫ー」


 そう言いながら、グロウは早速岩を砕いていく。

 僕は僕で朝のいつもの作業を続けて、チーかまは農場内を走り回っていた。


「じゃあ、納品に行ってくるから」

「あいよー」


 そんな会話をして、今日も今日とて酒場へと。

 いろんな取り決めも決まったし、今日は堂々とあの扉をくぐれると思うとなんだかドキドキしてくる。

 心なしか足が弾んで、おっとと気を緩めないようにをぐっと前を見据えたときだった。


「……あれ?」

 前に見えるのはオードちゃんではないだろうか?

「オードちゃん?」

「え?」

 そうして振り向いた彼女の顔には、いつもの明るい表情はなく。

 どことなく悲しげに見える表情が、そこにはあった。

「あれ、ノルズくん。どうしてここに……って、あ、そうか! うちへの納品だね! ごめんね、毎日。助かるよー!」

 そう言って笑うオードちゃんはもういつも通りのオードちゃんで。

 一瞬見せた暗い表情はなんだったのかと言いたくなるほどの豹変ぶりだった。

「あ、いや。これも仕事のうちだし……」

「そっか! そう言ってもらえると助かるよー。あ、ここで私が貰っていこうか? そうしたらすぐに農場へ戻れるでしょ?」

「あ、いや。納品書ももらわなきゃだから僕が行くよ」

「あ、そうだったそうだった。いやー、失敗失敗」

 それから、なんとなく会話は途切れ。

 しんと静まり返った道に、ふたりの足音だけが響く。

「……あの!」

 それに耐えきれなくなったのは僕の方で。

「何か、あったのかな! さっき、あんまり元気ないように見えたから……その……」

 まるで尻切れトンボのように小さくなっていく声。

 自分でも聞いちゃいけないんじゃないかなって思ってたんだけど、どうしても気になって。

 だからこそ勇気を出して聞いてみたんだけれども。

「うん? なんにもないよ」

 オードちゃんからの返事はそれだけで。

 そうしてまた、沈黙が続く。


 その沈黙は、酒場の店に辿り着くまでそのまま続いたのであった。

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