【24】
奥村 聡様
ご無沙汰しております。
お元気ですか? 真弓です。
早速で恐縮ですが…
航に関することで筆を執らせて頂きました。
『大きくなったら何になりたい?』
そう訊ねられたら少年時代のあなたは何と答えたでしょうか?
年齢が低ければ低い程、職業からかけ離れた[憧れの対象]が幼き口から発せられますよね?
男の子なら…やれウルトラマンだの、やれ戦隊ヒーローだのと。
当然、勧善懲悪の世界で活躍する正義側のヒーローに、子供が憧れを抱くのは自然なことで…それは誰もが通る道で…言わば王道。
真っ直ぐに育ってくれているな『順調! 順調!』と、子の親ならば安心することでしょう。
しかしながら、息子の航が目を輝かせて眺めていたのは…ゴムなのです。無機質のゴム。
それも衝撃を和らげる、決して主役に成り得ない、陰で支える脇役のゴムです。
サポート役だとしても何かの役に立っているのであれば、悪者と呼ばれることはないでしょうが…航はゴムのような縁の下の力持ち的な役割に関心があるようで…。
先日、駅のプラットフォームでのこと。
電車を待っていたとき『電車はどうやって動いてるの?』と航に訊ねられました。
定刻通りに到着した電車の屋根に、ちょこんと取りつけられた、ひし形のパンタグラフを指差し『あそこから電気が通って、電車は走ることが出来るのよ』と私は説明しました。
それからというもの、ことあるごとに駅に行くことをせがまれました。
ゴムに憧れの眼差しを向けていた息子が、他の男の子と同じように乗り物に興味を抱き…“普通”になってくれたと、親としては安堵したのですが、何てことはない、航の目的は車両本体ではなくパンタグラフだったのです。パンタグラフそのもの。
ゴムからパンタグラフへ憧れの対象が変化しただけで…『あなたは…どれだけ縁の下の力持ち系男児なの?』と航の将来を憂慮しています。
文字通り、社会の歯車になることに喜びを感じ、自ら進んでその役目を志願し、結果ズル賢い人間に利用され、不遇の人生を送ることになるのでは、と親である私は息子の行く末を心配してしまいます。
親の取り越し苦労なら良いのですが…血は争えないと申しますし、参考までに小さい頃のあなたがどのような子供だったか、お聞かせ願えないでしょうか?
何をそんな些細なことで、と思われるかも知れませんが、親としては気に掛かり、こうして筆を執らせて頂きました。
返信お待ちしております。 真弓




