【20】
地平線に陽が落ちる。
独り言のように、ほぼ一方的に話をする私は、それを樋口と一緒に眺めている。
だが私と時間を共有している樋口に、多くの時間は残されていない。
おそらく日没と共に、この騒動は締めくくられるだろう。
この国の人間の持つ性質からも、それは疑いようのないことである。
仮に、決定したのは自分たちだと自覚していたとしても…『責任は負いたくない』のだ。
出来ることなら見て見ぬ振りをして、知らぬ間に全てが終わっていて欲しい…そんなところだろう。
目視することが困難な暗闇の中で、騒動は実行に移される。
きっと大衆はそれを望むに違いない。
バーーーーーン
巨人が地球に張り手をくらわしたような衝突音だ。
人間が道路を思いっ切り平手で叩く…その何千倍もの凄まじいエネルギーが地表に衝突する。
それを目撃した者は…『雷が落ちたような』と証言するかも知れない。或いはその瞬間…『大気が震えた』と表現するかも知れない。
ヒッ…
キャーーーーッ
ギャーーーーッ
人間が生命の危機を目の当たりにしたときに発する切迫した声音が、地上から屋上に向け、吹き上がる。
温泉の源泉が勢い良く湧き出るように。
樋口が落ちた。
木から林檎が落ちるようにビルから人間が落ちた。




