【18】
会話とはいっても、私が一方的に話をしていたようなものだが、あっという間に時間は過ぎ去り、気づけば太陽は西の空に沈もうとしていた。
太陽の代役を買って出ているパトカーの赤色灯が、地上を赤く照らしている。
そして樋口の“現在地”をしっかり把握するため、太陽光の代わりとして、地上から屋上に向けサーチライトが当てられている。
不自然に浮かび上がる樋口の全身を眺め、私は足元で目を留める。
手入れが行き届いているとは言い難いが、スーツ姿に違和感のない革靴を樋口は着用していた。
そこで、私は人間界のルール、取り決めについて考えを及ばせる。
『確か、この国の人間が高所から地上にダイブするときは、履き物を脱ぎ、綺麗に揃えてから飛び降りるのが通例だと記憶しているが…』
私は外斜視の瞳を樋口の顔面に向ける。
「お前…最初から飛び降りるつもりないだろ?」
断定的な物言いは、真実を炙り出す効果があることを私は知っている。
「飛び降りたとしても、死ぬ気は更々ない。違うか?」
押し黙ることが樋口にとっての回答、即ちイエスなのか?
口を噤んだままの樋口は、地上から光を当てられ続けている。こめかみから頬にかけて伝う汗が、はっきり見て取れる。
クイズ番組の司会者に、解答を促されているのに、正解が思い浮かばず、無言でスポットライトを浴びるパネラーさながらに。




