【13】
ニュービルディング芝の周囲は騒然としていた。
ビルを取り囲むように停車した警察車両は赤色灯を光らせ、救急隊員の姿も確認することが出来る。
放送局が近隣にある港区の土地柄か、マスコミ関係者とおぼしき者も目につく。
そして学生やサラリーマンなど、年齢がまちまちの野次馬は皆、同じ動作を続けている。
まるでアイドルユニットの振りつけのように皆一様に…自分のスマートフォンを取り出し、屋上にいる人間にレンズを向けている。
「ね、ねぇ…ちょ、ちょっと…ヤ、ヤ、ヤバいんだけど?」
学生服を着た女子高生は、興奮のためか、目の前の状況を上手く言葉で表せない。
単語を繋いで文章を構築することが出来ず、隣にいる友人の肩を叩きまくっている。
「痛い痛い! 痛いって~! えっ…あれって何かの撮影じゃないの? 映画とかドラマの…」
「はっ? ち、違うよ~事件事件…ドキュメンタリーだよ。屋上に人がいるんですけど~」
「え~っ…ドラマじゃなくてニュース? ねぇねぇうちらテレビに映るかな~?」
アドレナリンが分泌されているのだろうか…どことなく二人は嬉しそうだ。
「そうかも~…おかんにラインしよ。録画録画! テレビ録画!」
「ねぇあの人、ホントに飛び降りるつもりなのかな~? ここから落ちたら痛くない? 私…無~理~」
状況判断力が乏しく、限りなくゼロに近い女子高生二人組。
彼女たちは、大掛かりなイベントに偶然遭遇したミーハー女のように、妙なテンションの上がり方をしている。
感情表現が不具合を起こし、なぜか二人はその場でピョンピョン跳び跳ねている。
『けっ・・・はぁ・・・』
私はかぶりを振り、溜息は自然と漏れた。
『はぁ・・・どうかしている・・・この国の民は』
地上では、揃いの作業服を着た人間が集合し、万が一に備え、巨大なエアークッションが相応しい位置に設置されようとしていた。
『そろそろ…』
私は屋上にいる対象者の元に行くことにする。




