堕落ちゃんの水没
──────………………
僕達はダンジョンの中へとやってきた。
薄暗く、ジメジメとした空気が僕のもちもち肌を撫でる。
(……ティータちゃん。油断するでないぞ……)
「わかってるよー」
松明の火に飛び入る虫達は、自身の身を焦がして光に這い寄る……。
その光景はまるで、このダンジョンに挑む冒険者達を暗示している様だった。
「……おや。この広間には何かありそうだねー」
ここは天井から流れ出る滝を光輝石が照らし出しており、広間全体を美しく彩っている神秘的な空間であった。
勿論ここだって、沢山の冒険者達が通ってきた道筋のひとつに過ぎない。
それでも何か隠されているんじゃないかって思うと、ちょっとわくわくする。
(……そこの深き水の中を覗いてみりゃれ……)
僕はトレントの言う事を聞き、ゆっくりと水面に顔を近づける。
──────………………光る小さな穴の先、そこにあった光景。
それは『太古の昔に沈んだ大遺跡』の姿そのものであり、顔を近づけなければわからない程の微弱な光が目印となった、不思議な『水中の都』とも呼べる場所であった。
「綺麗だねー。ここって、遺跡の上に造られたダンジョンだったんだ」
(……ワシはな、昔はあの姿無き都に住んどったんじゃよ……)
トレントはいつもと違って元気を無くしており、僕はちょっと心配だった。
「元気ないね。そろそろ寿命かなー?」
(……まだまだ現役じゃわい。でもな、ちょっと聞いておくれよ……)
僕は仕方なく彼の話に耳を傾けた。
彼は元々水中に沈んだ都市である、『霊都市レルデバルド』の住人であり、『高名』な魔法使いって呼ばれてたんだってさ。
でも、ある日の事。
突如として現れた『魔人ゼルブレード』の手によって、都は滅ぼされて彼も戦死してしまったんだって。
彼の無念の思いは地上の木々達に届いて、めでたく木の精霊になりましたとさ。
「それってとってもハッピーなお話だねー!」
(……アンハッピーじゃろがい。一度主の頭の中を覗いてみたいわい……)
淫獣トレントは私の肩に乗り、寂しそうに水面を見つめる。
(……もう一度、あの都に行ってみたいのぉ。それがワシの唯一の夢じゃ……)
「じゃあ行ってみよっか。僕、『空気袋』持ってきたから長く潜れるんだー」
(……ワシはどうすればいいんじゃ……?)
僕は少し考えた末に、答えを出した。
「気合で頑張って。エッチでスケベなトレントならいけるよネ!」
(あひぃー!?)
僕はその掛け声と共に、深い穴の底へと潜り進んで行った。