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堕落ちゃんの憂鬱


……『リドスラーテ』……。


『アーカイン語』で『深き冥界(リドスラーテ)』と言う意味を持つダンジョンの名だ。


それは堕落的な日常を送る僕がバイトしているここ、『コロン雑貨店』の隣に突如として出現した異空間であり、ギルドの人間達はここに希少な『魔法道具(マジックアイテム)』が眠っていると信じ、夢を追いかける冒険者達が日々探索に出向いている事で有名だ。


──────………………


げらげらと笑う中年の屈強な戦士は、僕の頭を鷲掴みにすると顔を近づけてくる。


「いいか、俺をよく覚えておけ。やがて伝説の戦士になる男の顔だぜ!?」

「命ある者を平然と殺しそうな顔してるネ」


……とまぁ、おかげで客層が非常に悪くなったのだ。


「グハハ!! 俺が戻ってきたら美味いもん食わせてやる。その後でたっぷり愛でてやるからよ……」


……『店主』は大金を落とす冒険者にヘコヘコしているし、地味な服装をしていた『売り子さん』に限ってはセクシーな服を身に着けるようになった。


おかげで、僕の性欲がダンジョントラベルしそうになっている日々が辛すぎる。


「ゴミ捨ててきまーす」


僕はと言うと、今日も仕事をするふりをしてサボっている最中だ。


「───今日は軽装で来ちゃった!」 

「───それじゃあ男達にも狙われちゃうよー?」


近くの草むらに寝転がり、薄着の女性3人パーティを心に焼き付けていた。


(……とても素晴らしき光景だと思わぬか……)


僕は地位にも名誉にも興味がないし、安静だけを求められればそれでいい。

興味があるとすれば、今まさに彼女達が見せつけている『純白の下着』だけ。


(……主の名は何と言う……?)


……僕は低収入のアルバイト生活で日々を送る、『ティータ・ティンクルシア』。


第二次成長期の様な見た目にして、その身長は約140cm程。


お客さんから聞いた僕の特徴と言えば、しなやかで張りのある身体付きをしている僕が『淡い桃色の眼』で見つめれば、誰もがイチコロとなる程の愛らしさ何だってさ。


……ほんっと気持ち悪い事言うよねー……。


そんな中。僕の目の前に現れた、女性連れの若い冒険者が声を上げる。


「───俺達の冒険の第一歩だ。きっと高名な冒険家になって見せる!!」


(……勇ましき武勇だ。しかし、あれは早死にする……)


「……さっきからなんなの。脳内に直接話しかけないでよっ!!」

「うぉっ!? ……何だよいきなり……ビックリするなぁ──────」


冒険者たちは、突然叫びだした僕に驚いてダンジョンの奥へと去って行った。


(……ワシは『木の精霊トレント』じゃ。今後共よろしくな、相棒殿……)


いつの間にか相棒となってしまった彼は、僕の手にしなやかなツルを巻きつけると同時に、鮮やかな色をした『印』を刻み付けた。


「ねぇ、勝手に何してるの……?」

(よいではないか。ワシ、チミ見たいな童顔で可愛い子が大好きなんじゃ……)


───────ぶちッ!!!


(あひぃー!?)


……エロ親父の如く僕の体を弄り続けるツルを引きちぎった僕は、そのままバイトに戻った。


──────………………


「……『聖剣』が見つかったぞッ!!! 『伝説の聖剣』がぁぁぁぁ!!!」


慌ただしく店の中に入ってきた冒険者のひとりが、そう叫ぶと同時に店内はざわめき始める……。


「今すぐ店の外に来い!! 戦士のバカが土台事持ってきやがったからよぉ!!」


……土台事持ってきたんだ……。


急いで外に出た僕達は、誇らしげに聖剣とやらを引き抜こうとする戦士の姿を見つけた。


「……なんだこれ……引きぬけねぇぞ……どうなってんだッ!?」


(……………………ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅーーー……………ッッ!!!)


聖剣と呼ばれる物は鮮やかな刀身を真っ赤に染め上げ、巨体を持つ戦士の腕力に耐える様に踏ん張り続けている事が僕にはわかった。


(……あれは『聖剣ファレアディオ』じゃ。ワシの形見じゃよ……)


「ふーん」


僕は野次馬達を押しのけ、戦士に声を掛けた。


「それ、僕が引き抜いてあげるからもう付き纏わないって約束してくれる?」

「……ガッハッハ!! いいぜティータ嬢。やってみろよ、ほらほらほら」


いやらしく僕の体を触る大男を払いのけた僕は、ゆっくりと撫でる様に握ったそれを……。


「……えいっ……」


──────……引き抜いてしまった……!!


……その瞬間。周囲の人間達は凄まじい笑い声をあげて戦士を馬鹿にし始めた。


「──────アッハッハ!! チビ子でも引き抜ける剣をお前は……ッ!!」

「うるせぇ!! チッ、約束は守ってやるよ。だがその剣をこっちに渡せ!!」


僕は赤く染まった刀身を戦士に投げ渡し、帰宅する準備にかかった。


「お疲れ様でーす」

「……ちょ、土台が無くなった途端持ち上げられねぇ程重く……っ!!」


……うるさい人達だなぁ……。


寄りついてきた小動物を肩に乗せる僕は、そのまま家路につく。

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