彼女と私だけが知る真実
あの日何があったのか...
『彼女』と『私』以外、誰も知らない。知る由もない。
これはあの日、私に起きた話。
ある日の朝、学校に着くとすぐ、話し掛けられたことのないクラスメイトから「昼休み、屋上に来て」と頼まれた。
何故私...?
しかもなんで屋上...?
彼女が何を考えているのか理解することも、自分の中の疑問が解決することもなく、最近彼女のせいでまた増えた手首の傷を眺めながら、グダグダと考えているうちに気づいたら午前中の授業が終わり、昼休みになった。
行くか行かないか迷って、私は屋上へ向かうために階段を上り始めた。
1つ上の階からはいつものように、廊下で話す女子達の楽しそうな声が聞こえた。
そんな女子達の話を聞き流しながら、ここから2つ上の階にある屋上へ向かった。
彼女は私より先に着いていた。
「あっ来た」
「遅くなってごめんなさい」と言いかけた瞬間、
軽やかな動きでフェンスを越えて、それから地上へ真っ逆さまに落ちていった。
3秒くらいあとだっただろうか―――――ドスッという鈍い音が小さく聞こえた。
彼女は死んだのだろうか。
屋上からみた彼女は、さっきまでの彼女とは別人だった。
早くも地上には、突然の鈍い音に気づいた先生や生徒たちが集まっていた。
私はこの数秒間で起きたことを理解することができず、身体がガタガタ震え、動けなかった...。
その後、暫くしてからパトカーのサイレンが聞こえ、屋上に来た先生と警察官に話しかけられた。
2人に支えてもらいながらゆっくり歩き、生徒指導室に案内された。
生徒指導室の中では、何故屋上にいたのか、2人で何を話したのか、何かトラブルはあったのかなど、沢山質問された。
私に答えられたのは''気づいたら彼女が落ちていた''ということだけだった。
そんなことを正直に話したところで解放されるはずはなく、彼女についてもたくさん質問された。
「後からまた話を聞く」と言われ、やっと解放された私は3階の自分の教室へ向かった。
教室へ向かう途中に見かけた先生たちは、他の生徒の日常に影響が出ないようにすることに必死な様子だった。
教室では、彼女が死んだことで泣いているクラスメイトや彼女が死んだときの状態を事細かに説明する生徒、何も起きていないかのようにいつものように勉強している生徒がいた。
生徒が話している話によると、5階の高さから飛び降りた彼女は、地面で頭を打ったことで脳が破裂し即死だったそうだ。
警察の介入があったためか、彼女のお葬式は亡くなってから3日後に行われた。
遺体は既に焼かれて骨になり、彼女のお母さんと思われる女性が誰よりも涙を流していた。
ふとその女性の目が私を睨んでいるかのように感じられたが勘違いだろうと思い気にしなかった。
人に聞いたところ、彼女の遺書など残された文書は何もなかったそうだ。
「楽しい高校生活を送っていたはずなのにどうして...」とドラマでありそうな言葉も耳にした。
彼女の生きていた最後の姿を見た人が私なんかで良かったのだろうか...
何故彼女は仲の良いクラスメイトもいるのに私を選んだのだろうか...
私にはやっぱりわからなかった。
あの日からずっと私の周りの人たちは、みんなで示し合わせたかのように「貴女は何も悪くない。あれはただの自殺だ」と言う。
私を慰めてくれていたり、気にしないように気を使ってくれているのだろうが、私は素直に受け取れなかった。
彼女のお母さんが私の家に来たこともあった。
「あの日、あの子が屋上から落ちた日、何があったのか本当のことを話してほしい」と何度も泣きながら言われたが、私はあの日先生と警察官に話した内容と同じことしか話すことができなかった。
あの日から3年が経ち、私は志望校の大学に合格し、国家試験を受けるための勉強をしていた。
大学生活は楽かと思っていたが、そんな訳もなく、勉強とサークルとバイトに追われる忙しい毎日を送っていた。
私はあの日の事を早く忘れたかった。
そして、忘れた。
あの日は何もなかった。
普通の、いつも通りの1日だった。
そう自分に言い聞かせて。
あの日彼女につけられた右腕の深い引っ掻き傷は、未だに痛む時がある。
『私』の発言が全て正しいなんて誰が決めたのでしょうか…