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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鬼灯虎姫の事件簿 ─家柄も能力もチートな女の子が片っ端から事件を解決していく話─

作者: 阿東ぼん

「は……、は……、は……!」


 私は廊下を走っていました。生徒を避け、角を曲がり、先生に見つかりそうになって階段の陰に隠れ、安全を確認してからまた走り出します。

 そうして辿り着いた二年生のフロア。目指すは2ー1組の教室。そこにいる救世主を尋ねます。


「キキさん! キキさんはいらっしゃいますか!」


「うるっせェな! 耳元ででかい声出すな馬鹿野郎!」


 尋ね人はドアのすぐ近くにいました。大声を出した私に負けず劣らず恫喝し、昼食のパンを口に詰めて立ち上がります。


「キキさん! 大変です! 事件です! パンなんて食べてる場合じゃないですよ!」


「ふぁへ。ひふぁほひほふ」


 キキさんの柔らかそうなほっぺがもぞもぞと蠢き、ごくんとパンを飲み込みました。

 私はそのあいだにも早く現場に彼女を連れて行きたくて地団駄を踏んでいましたが、キキさんからしてみれば急かされているようで決していい気分ではなかったでしょう。


「で、何があったんだよ?」


 キキさんは怪訝そうに言いました。


「事件! 事件ですよ! 三年の沢渡さんって知ってますか?」


「ああ、あのいけ好かねえチャラ男のことか。あのクソ野郎がどうした?」


 顔をしかめるキキさんに、私は唾を飛ばす勢いで、


「一年の篠崎ククルちゃんって子があの人にさらわれちゃったんです! 私は一部始終を見ていましたが、沢渡さんが篠崎さんに言い寄ったけどフられて、その腹いせにこんな蛮行に走ったのだと思います!」


「なぁにぃ?」


 キキさんがブレザーを脱ぎ捨てました。私はそれが床に落ちる前にキャッチします。


「女にフられたからって無理矢理手篭めにしようたァいい度胸だ。ここが誰のシマなのか、きっちり教えてやらァ!」


「さっすがキキさん! 場所もすでに特定しています! 三階の理科室です! 多分、鍵をかけられていますが、キキさんなら問題ないでしょう!」


「おうよ! 行くぞ、アノン!」


「合点です!」


 私たちは2ー1の教室を飛び出しました。




 理科室の小窓から中を覗き込むと、一年の篠崎ククルちゃんが複数の男子生徒に囲まれ、服を脱がされそうになっていました。なんてひどいことをするんでしょう。やめて、やめてという悲鳴がドア越しにかすかに聞こえます。


「そこまでだ、ボンクラ共!」


 キキさんはドアを蹴破って入室しました。うわあ……。トラックに突っ込まれたみたいにひしゃげちゃってる……。


「お、おまえは!」


 男子生徒の一人が驚きの声を上げました。他の生徒も一瞬遅れて同じように呻きます。数えると、両手を拘束しているのが二人、カメラを回しているのが一人、そして今まさに篠崎ククルちゃんの膝のあいだに腰を割り入れようとしている沢渡クズが一人。合計四人の暴漢が、一斉にキキさんを見たのです。


「た、助けて! 助けてください!」


 篠崎ククルちゃんが聞いていて胸が痛くなるような切実さで訴えてきました。かわいそうに。アフターケアも考えておかなければいきません。


「おや、誰かと思えば……。鬼灯グループのお嬢様ではありませんか」


 沢渡クズが下卑た笑いを浮かべました。外見こそ爽やかな茶髪の青年ですが、中に詰まっているのはせいぜい馬糞か牛糞のどちらかでしょう。いや、もしかしたら人糞かも?


 まあ、そんな(文字通りの)クソみたいな話はどうでもいいんです。彼は脱ぎかけていたズボンを上げ、ベルトを締め、人当たりの良さそうな笑顔でキキさんに向き直りました。


「何か御用でも? これから僕たちは彼女と愉しむ・・・予定なんです。邪魔をしないでいただきたい。それとも、あなたも混ざりますか? そちらのお友達も加えて」


 うげえ、やっぱりクソだわコイツ。私はなんだか口の中が苦くなってえずきました。後ろにいるのでわかりませんが、キキさんもきっと似たようなリアクションをとっていることでしょう。


「誰がテメェなんかとヤるかよ。気持ち悪いったらありゃしねえ。脳みそにチ●コ生えてんじゃねえの?」


「ブフォ!」


 吹き出しました。はい、私です。言われてみれば沢渡クズの長い前髪が、その一房ひとふさがそれっぽく見えなくもありません。短小だ。


「そんなことはどうでもいい。その子をさっさと解放しろ。さもなくば一人ずつそこの窓から突き落としてやるぞ」


「くく……。くっははは!」


「あん? 何がおかしい?」


 沢渡クズが笑みを、下卑たものから冷血なものへと変容させました。右手を顔の横に掲げます。すると、手下の三人が前に出てきました。


「たかが女一人で複数の男に勝てるとでも?」


「ふん。なら、逆に言わせてもらうぜ。たかが四人でこのアタシに勝てるとでも?」


 沢渡クズの手がキキさんに向けられました。


「やれ」




 カップラーメンを食べられるくらいの時間が経ちました。そのあいだに起こった出来事は、とてもお茶の間に流していいものではありませんでした。




「ま、ざっとこんなもんだろ」


 キキさんは手をこすり合わせるように叩きます。その眼下には、無謀にも彼女に挑んだ四人が折り重なるように倒れています。失敗した将棋崩しみたいです。


「く、くそ……! こんなことしてただで済むと思うな……!」


「どの口が言ってんだ。死ねオラァ!」


 まったくです。沢渡クズの顔面にキキさんの強力なトゥーキックが入りました。ご自慢のイケメンフェイス(笑)も形無しですね。いい気味です。あっかんべー。


「んじゃ、宣告通り窓から落とすぞ。安心しろ。木の上に投げてやっから死にはしねえだろ」


 なんだか矛盾しているような気もしますが、あまり深く考えるべきではないでしょう。

 キキさんは沢渡クズの襟首を掴み、理科室の窓に放り投げました。バリンバリーン! というドラマでしか聞いたことのない音がリアルに鳴って、沢渡クズは姿を消しました。そのまま死ねばいいのに。

 残りの三人も同じように処理されました。あとで報復を防ぐために脅しておかねばなりませんね。彼らの顔と私のデータベースはとっくに称号済み。学生証に書いている内容から産まれた病院まですべて特定できます。いえい、私有能!


「大丈夫だったか?」


 キキさんが篠崎ククルちゃんに手を差し伸べました。彼女は大泣きしながらキキさんにしがみつきました。無理もありません。


 ──こうして篠崎ククル暴行事件は未遂に終わりました。帰ったらプロファイリングしましょう。『鬼灯虎姫の事件簿』がまた分厚くなります。めでたし、めでたし。


亜音メモ


篠崎ククル

一年生。可愛らしいルックスと庇護欲を駆り立てる性格で人気の女生徒。おっぱいが大きい。ふぁっきゅー。


沢渡

三年生。脳みそに性器が生えた変態。チャラいドSキャラとして一部の女生徒のあいだでは人気を博していたが、今回の一件で"転校"することになった。調べたところ、これまでにも何度か女生徒を暴行し、動画や画像などで脅していたようだ。転校先では屈強なオネェさんたちとさぞ楽しくやっていることだろう。


その他

井沢、斎藤、林

沢渡の手下。金をもらって今回の事件に関わったらしい。主犯ではないとして"転校"は免れたが、二度と学園にくることはないだろう。もう彼らに居場所などない。

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― 新着の感想 ―
[一言] キキさんと付き合いたい……です
[良い点] 独特なペースとテンポが気に入ります。 [一言] 主人公のような人間とはとても付き合う気になれないでしょう。はた目で見れば痛快かもしれませんが。
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