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1イニング 茜の現状と始まり

最後の軟式野球で完全試合を達成し、チームを初の優勝に導いたあの夏から、半年が過ぎた。

桜はすでに散り始めている4月、茜は無事高校に進学した。

女性投手の甲子園参加が決定した昨年のオフシーズンから中学3年生だった茜の元に幾つもの特待生の推薦がいくつも来た。しかし(あかね)は入学式の今日、中学の時と同じ学び舎の門をくぐった。


「おはよー、茜」


「おはよ」


校門をくぐって最初に会ったのは、中学からの友達の美優(みゆ)優希(ゆうき)だ。


「おはよ…」


相変わらず朝に弱い茜の大きな瞳が半開き程度で、眠そうな感情が伝わってくる。本日発表になっているクラス割り表を校舎に入ってからもらった3人は、自分の名前を探すとともに、知り合いの名前も探していた。


「あたしA組だ」


茜がそういうと、


「ウチはEだって」


美優が続く。


「みんなバラバラだね、私はB組みたい」


最後に優希が言った。バラバラのクラスだが、3人が一緒だったのは中学2年生の時に一度だけ。珍しいこともない。特にガッカリすることもなく教室へと向かった。


「それにしても、茜が別の高校行ったらどうしようかと思ったよー」


階段を上っているとき、美優がホッとした表情で言った。


「そうね、たくさんの学校から特待生の話来てたんでしょ?」


優希にそう言われると茜はあっけらかんとした表情で言った。


「だって、ただでさえ高校から新しく入ってくる人に馴染めないのに新しい学校でなんて無理だよー」


理由に野球の強弱がないことが茜らしい。


「それに、ここの硬式野球部の先生も特別扱いしないで野球やらせてくれるって言ってたから」


茜が進学したのは通っていた中学と一貫校となっている、私立城戸高等学校。高校から6クラスに増え、新しい仲間も加わる。人見知りの茜はそれすら嫌がっていた。


「野球部もう行ったんでしょ?」


「うん、まあね」


「知り合いたくさんって感じじゃないの?」


茜の体験入部の事を聞く2人に茜は、どれだけ硬式野球部の同級生が、野球と女しか好きじゃないということを語った。


「アニオタのあたしは、女ということでチヤホヤされるものの、真に話せる人が全くいない」


内部から硬式野球部へ進んだものは茜を含めてたった4人。基本的に彼らとしか喋らず、ちょっとずつ慣れ始めようとしている時期だった。


「まあそうだよねー。なんかバカっぽいやつ多そう」


「ぽくないよ。バカだから」


「そんなこと言わないの!」


女子らしい会話をしていると教室のある階へ着いた。


「じゃあね!」


「うん、また帰りに」


「そうね」


別れた3人はそれぞれの教室へと入った。続々と集まる教室内の面々。茜がA組のスライド式のドアを開けると中にいる生徒の視線が集まった。


「お、松原(まつばら)おはよう」


そう知ってる人が声をかけてくると、


「あ、やっはろー」


アニメの通じる相手にはオタクっぽさを出す。それをあざといと見る女子や、可愛いとみる新入の男子。ちなみに、このクラスに茜と密に話したことのある女子はいない。中学3年間野球部にガッツリ所属し、遊ぶ相手は美優、優希の2人に限っていたせいか友達ができなかった。さらにそのルックスの良さゆえ、話しかけてくるのは男子ばかり。天然のあざとさでよく思わない女子ばかりなのだ。


「茜さん、おはようございます!」


「お、おはよ…」


お次は野球部だ。茜の好感度を上げようと朝からしっかり挨拶をしてくる。


「席どこっすか??」


「あ、えっと、、あそこかな?」


野球に関わる人なら茜のことを知らない人はいない。トッププレイヤーであると共に茜と一線越えたいと思っている部員が多い。


「今日もいい天気ですね!」


「あ、う、うん。そうだね、、、」


席に着こうとする茜を坊主の集中攻撃が襲う。困る茜を救ったのは、


「おい松原。名古谷(なごや)が呼んでたぞ。俺も一緒にって」


(つよし)!行く行く!」


(助かった…)


中学野球部から硬式野球部へ進んだ部員の1人の西村剛(にしむらつよし)だった。茜は剛に付いて行くと、そこはB組だった。


「あれ、敦史(あつし)ってF組じゃなかったけ」


「バカ。嘘だよ」


「ほえ?」


アニメキャラの真似をするあざとい茜の頭を強めにチョップする剛。


「あいた!!」


「あからさまに困ってたから助けてやったんだろ」


「だからってチョップすんな!チョップ!」


「うるさい。あとアニメのキャラの真似すると新しく入ってきた女子にも嫌われるぞ」


剛は、茜に対して容赦しない。


「既存の人たちにも、陰口言われてるくらいだからまだ完全に嫌われてませんからー」


開き直る茜もどうだろうか。

他人のクラスで喧嘩しだした2人を止めたのは、優希だ。


「2人ともうるさい」


「「ごめんなさい」」


全く優希には頭が上がらない。彼氏である剛は、尚更。茜は姉的存在である優希には、なかなか逆らえない。


「剛くんももう少し素直さ抑えたほうがいいと思うよ」


「やーい怒られた」


「茜は少し黙ろうか」


「はい…」



そんなこんなで始まった高校生活。そして、初めての新入部員としての練習参加はこの日から3日後のことだった。

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