~金子と水木と野原の友情~
今回は木場君が出てきませんでした。
~金子目線~
俺の家は貧乏だ。
月15万ほどアルバイトで稼いではいるが、
家に10万入れているので、自分で使える金は5万ほどしかない。
もちろん、5万と聞けば高校生からすると大金だろう。
だが、将来的なことを考えると学費も自分で払わなければならない。
大学進学のためには貯金をしなければならなかった。
その為、月で使っていい金額は2万と決めていた。
その内一万は昼食に持っていかれる。
親は基本的に忙しい。
弁当など作る暇はないだろうし、俺自身遅くまでバイトをしているので、朝に弱く弁当を作る余裕はなかった。
結果自由に使える金は1万ほどだった。
みんなより時間を割いているのに、これしか使えないのでは割に合わないと、自分の境遇を恨んだりもした。
今も喫茶店で働いている最中だった。
たまに優と敬一が顔を出す。今日はそのたまにある日のお話だ。
今日の喫茶店は土日ということもあり、平日に比べれば忙しい方だったが、
朝、昼、夜のピーク時間以外は、2~3人の接客をする程度で忙しくはない。
優と敬一はこういう時間を選んでくる。
それもそうだろう。俺に会うのが目的で来ているのだから。
「今日も頑張ってるなぁ、空」
優の声に軽い挨拶をして、仰々しくお辞儀をして見せた。
「む、苦しゅうない。」
優は腕を組みえへんと胸を張って見せた。
普段よくやる茶番劇である。
「そいうえば、敬一は今日部活じゃないんか?」
俺がそう問うと敬一は短く「あぁ。」とだけ返した。
俺の中学は部活より学業だというスタイルなので、
テスト期間前の今の時期は部活がないらしい。
敬一は小遣いが減るからこの時期は好きじゃないんだがなと嘆息して見せた。
「テストと言えば、お前らちゃんと勉強してんのか?俺やばいんだけど」
率直な自分の立ち位置を口にすると、
優はスカした顔で余裕だと答えた。
敬一に関しては、部活で普段やれないことをしていると時間がないと、
勉強はしていないみたいだった。
まぁなんだかんだでテストの平均点は取ってくるので、
余裕だと言った、優よりたちが悪いかもしれない。
俺はというと前回のテストで赤点ギリギリ回避の科目が4つと、赤点2つ。
補修の時間があるとバイトが出来ないので、今回は全力で回避したいところだが、
テスト範囲が広いために半ば諦めつつあった。
バイトをしないと生活ができない。
バイトをしていると勉強ができない。
勉強ができないとバイトができない。
完全な負のスパイラルに陥っていた俺は、
どうしたら点が取れるのかと、二人に聞いた。
優は要点さえ押さえておけば赤点は回避できるだろうと言った。
俺にはその要点とやらがわからないので、
八方ふさがりだった。
~水木視点~
金子の家庭事情は知っていた。
俺の家庭は裕福というわけではないが、
普通の学校生活を送るには苦労しなかった。
だから、俺はあいつの為に何かできないかといろいろ考えた。
結果、スカラシップという制度を見つけた。
調べると成績優秀者となれば学費免除や、奨学金を受けることができる制度だった。
それ以外にも生活保護といった補助金制度もあった。
翌日、これらの制度を空に教えてあげた。
結論から言うと彼は怒った。ふざけるなと。
理由を聞くと、確かになと思う点がいくつかあった。
彼の気持ちを察せなかった自分のいら立ちを覚えた。
成績優秀者というのは俺のように勉強ができる奴が、
受けれるもので、空のような学力的に厳しい人間には受けるのは難しかった。
生活保護については、俺の家庭をバカにしているのかと憤怒した。
そんなつもりは毛頭なかったが、世の中そういう考えを持つ者もいると知った。
お前に俺の気持ちの何がわかるんだという空の叫びは、俺の胸に響いた。
だからどうしようもないと、そう思った。
彼には申し訳ないが助けることができないと。
せめてもの建前として、困ったことがあったらできるだけ助けになるとだけ言った。
彼は助けを求めなかった。
~野原目線~
学校に行ったら、優と敬一が揉めていた。
何事かと耳を傾けると、なにやら難しいことを話しているみたいだった。
俺には全く分からない。
でも、勉強が云々で困ってるということだけは理解できた。
優が勉強を教えてあげれば済む話なのではないかと思ったが、
ことはそう単純ではないだろうと、その話には触れないようにした。
その日の学校帰り、バイトがあるからと先に帰った空を傍目に優を見ると、
少し悲しそうな顔をしていた。
あまり足を突っ込むつもりはなかったが、
「どうした優」と声をかけた。
優は「ちょっとね」とだけ言って帰り支度を始めた。
少しばかり距離を感じた俺は、「いいから言えよ」と強気にでた。
問題の解決はできなくとも、悩みを共有できるというだけで、
救われる心もあるのだから。
野球部で培ったチームワークとはこういう所で発揮するべきだろう。
じゃなきゃ部活なんてやっている意味もない。
俺はみんなで仲良くやりたいだけなのだから。
話を聞くとやっぱりさっきの結論しか出てこなかった。
空の勉強を優が見てやれば赤点くらい回避できるだろうに、
成績優秀者になれないからなど高飛車な話ばかりしているようにしか思えなかった。
「なぁ、優。あいつの勉強見てやったらいいんじゃないか?」
俺がそういうと、優は「俺が少し見てやったからと言って、成績上位に食い込むのは無理がある」と答えた。
だからそれに対して予め用意しておいた答えを返した。
「なぁ、空が困ってるのは、補修でバイトができないと困るっていうその一点なんじゃないのか?」
金の問題は俺らにはどうしようもないだろう。
それは優が言っていたように俺も同感だ。
でも、赤点さえ回避すれば補修の時間は無くなる。
遠い未来のことはわからなくても
直近の事であるなら、解決できるだろう。
「お前があいつの勉強見てやれば、赤点くらいは回避できると思うんだが。」
俺もできる範囲で手伝うしさ。
最後にそう付け足して、言葉を切ると、
優は「やっぱり敬一はいざというとき頼りになるよ。」と微笑んで見せた。
~金子目線~
学校から家に帰り風呂に使っていると、先ほどの事が思い出された。
「俺は最低だな・・・。」
優が俺のためにいろいろしてくれた事を思うと、
先ほどの言葉を言わなかったことにしたいと願わずにはいられなかった。
それでも前向きに考えた。
明日、しっかり謝ろうと。
翌朝、学校に行くといつものように優が挨拶をしてきた。
俺は挨拶は二の次に、開口一番で謝まった。
優は優しいから、「気にしてないよ。」といい、俺を勉強会に誘った。
優は「赤点だけは何とか回避して見せる!」と意気込んでいた。
俺も優のやる気に充てられ冗談交じりに「満点とるか!」と返した。
敬一が隣で、「そりゃぁ無理だな」と笑うと、優も俺もつられて笑った。
翌日のバイトの予定がなかった俺は、その日のうちに「明日ならやれるぜ」と言った。
さっそく明日から勉強会が始まることとなった。
勉強会は充実したものであった。
優の勉強の教え方が上手いからか、すんなりと問題が頭に入り、回答が導けるようになった。
もちろん、全教科というわけではない。
今日は数学、英語と前回赤点だった科目を重点的に行った。
敬一は俺の隣で黙々と英単語の暗記として単語音読をしていた。
「Understand!Understand!Understand!理解!」
とても独特な勉強方法で気になったが、おかげで俺も単語を覚えた。
数日置きに開催された勉強会はしっかり効果があって、
今回のテスト範囲は大方網羅できた。
完璧でないことは言うまでもないが、4割~5割は堅いと思えるくらいの自身はついた。
テスト前の最後の勉強会で礼を言った。
こいつらには助けられてばかりだ。
テスト当日は事無く進み、しっかりとした手ごたえを感じていた。
ひとまず穴埋めはすべて埋まったし、回答ペースも良好だった。
後は結果を待つだけという段階だ。
一週間後、採点結果が返ってきた。
前回赤点ギリギリだった科目は軒並み20点アップして、平均点には劣るものの、
自分が過去に取ったテストの点数と比べると差は歴然で、担当教師にも頑張ったなと声をかけられた。
数学、英語に関しては赤点から60点台への大幅アップとなり、
優にも教えた甲斐があったよと声をかけられた。
ちなみに優は数学で97点の高得点をマークし、学年で一位の点数だった。
敬一も72点と優秀で、まだまだ実力差を感じたが、
俺は結果に満足していた。
返ってきたテストを並べて、一人笑うと、
それを見た優と敬一は優しい目をして微笑んだ。