第1話 鎧装機甲スターティング
よろしくお願いします! では、どうぞ!
俺は賭頼信護。彩月高校に通う高校2年生だ。
俗に言う平凡な学生ってやつだ。けど、平凡じゃない所が一つある。
それは――中2以前の記憶が欠落していること。記憶喪失。
でもそんな状態でも普通に生きてこれたし、友達もできた。問題なのはどんな人間や環境だったのかが分からないのが怖いくらいだ――。
◆
「信護! 帰ろうぜ!」
「私も! 帰ろー!」
「うん、帰ろう」
声を掛けて来たのは同じ部活の大石硬侍と小鳥遊旋梨だ。硬侍が男で旋梨が女。ちなみに部活はボランティア部。
「ねぇ、まだ記憶は戻って無いの?」
「戻ってないよ。というか、戻ったら言うから」
「うーむ、鬼面ファイターのスーツアクターが親父さんなら、絶対にファンだと思うんだがなぁ」
「そうだよね! 元の人格知りたいから早く戻して!」
「無茶言うな!」
鬼面ファイターというのは、いわゆる特撮の変身ヒーロー番組だ。主に子供向けとされている。親に言わせると、俺の性格はあまり変わってないが、以前は鬼面ファイターの熱狂的なファンだったという。そんな子供向け番組を本当に好きだったのか?
「まあいつかは戻るだろ! 鬼面ファイター好きだったら、語ろうぜ!」
「違うと思うけどなぁ」
「私達はどういう性格だって受け入れられるよ! 安心して早く戻してね!」
「急かすなって!」
そうこうしている内に校門へ着いた。
「先輩!」
聞き覚えのある声が聞こえる。この声は――
「神風か」
「はい。私も先輩達と帰ってもいいですか?」
「おう、もちろんだとも」
「当たり前だよ!」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます!」
彼女は後輩の神風白輝。あまり俺の記憶のことは詮索しないし、素直ないい子。白い髪と蒼い目が特徴的だ。
「ねぇ、古今玩具録寄ってかない?」
古今玩具録というのは、色々な物が揃っている玩具店。このメンバーでたまに行くことがある。
「いやこのメンバーで行くと遅くなるし、後にしようよ」
「俺も後にするのに賛成だ」
「私は……」
先輩三人で意見が二対一だから、選びにくいだろうな。
「あはは、いいよ後で。白輝ちゃんも後で良いんだよね?」
「はい。そうなるとありがたいです」
「じゃあ、また今度の休みにしよう!」
話しながら帰っていると、分かれ道になった。神風とは家が近いから、まだ同じ道だ。
「じゃあな!」
「また明日ねー!」
「ああ、じゃあね!」
「さようなら!」
硬侍と旋梨は左で、俺と神風は右の道に分かれて帰る。……正直、少し緊張しないでもない。
「あの……」
「うん? 何?」
「賭頼先輩は……私のことを覚えてないんですよね……?」
前にも聞かれたことはある、この質問。最後に覚えている記憶に、泣いている女の子の姿があるんだけど……。神風かは分からない。
「分からないんだ……何か大切なものを忘れてる気がしてならない。でも、それが何であろうと、今の俺が分からないなら仕方ない……そう思ってる。」
「そうですか……私が何を言ってもそう簡単に記憶は戻らないと思います。なので、その日まで……待ってます」
神風がそう言った瞬間、大型トラックがこちらに突っ込んで来た。
「えっ!? わっ!!」
「うわっ!!」
大型トラックは俺達にぶつかるすれすれで進路変更し、近くの店に突っ込んだ。
「な、何だったんだ」
「……!」
いつの間にか握られた手が痛い位の力を感じる。見ると、神風が恐怖で固まっていた。俺も、強く握り返す。
何故かここからは、決してこの手を離してはいけないと思った。
大型トラックが突っ込んだ店から、聞いた事があるような無いような、金属の壁がぶち破られる音が聞こえた。その直後、言葉に出来ないような、耳を劈く咆哮が周辺に轟く。
これに似た音を、俺は聞いた事がある。昔の……あの時に。
「こ、これは――」
もはや廃墟のようになった店から何か大きい物体が出てくる。その大きさは人間2人を縦に並べても尚大きい。動物で言う所の、猪のような形状をしている。
「――虹害獣だ!」
そう、虹害獣。5年前に突如出現した七色の体を持つ謎の怪物。
でも、それがトラックに入ってるなんて……!
「そんな……しかもあいつ……ぐっ!?」
「先輩!? どうしたんですか!?」
頭が……痛い! まさか……今なのか? 今、記憶が……!
かつて失われた記憶へと思いを馳せる。俺はあの時、白輝と一緒にいて……! あの虹害獣と……!!
そうだ、俺と……神風……白輝は……!!
「先輩! 虹害獣が……!」
「ああ、走るよ――白輝!」
俺は白輝の手を繋いだまま走り出す。
もう、絶対に離すものか!
「もう俺は、絶対に白輝を忘れたりなんかしない!!」
「信護……思い……出したの?」
「ああ、思い出したよ。白輝も、あの時のことも」
「良かった……信護……!」
泣きそうになってしまっている。こっちまで泣きそうになってしまった。
「記憶を取り戻した所で、このまま走ってもどれだけ逃げられるか……!」
建物の間を通ったり、工夫しているけど全然逃げ切れそうにない。
「私が……守るから」
え?
「今度は、私が信護を守るから!」
急に止まって俺の前に出る。
こちらを目掛けて突っ込んでくる虹害獣に対してただ立ち止まっているなんて、自殺行為だ。
「何やってるんだよ! いいから――」
「いいから!」
すると、突如として突風が巻き起こる。自然現象として、全く風が無く、温度の変化が無い時に急にこんな突風が起こる訳がない。それならば、もはや一つしかないだろう。
「……エレメント?!」
そう、エレメントだ。進化した人類が手に入れた新たな能力。
エレメントを使える者をSECT(Special,Element,Cause,Throngの略)という。SECTの人口はそう多くはない。あまりの少なさに、少し前まで本当に存在しているかも疑わしかったのに――
「まさか白輝が……? 何で……?」
「ごめんね、信護。今まで隠してて……」
そう言っている白輝の全身は緑色の光を発しており、その風のエレメントで虹害獣を足止めしていた。
「それは良いよ……。でも、大丈夫?」
「大丈夫だよ。でも、ちょっとだけ……キツい……かな。くっ!」
誰が見ても明らかな位に大丈夫じゃないだろ!。
確かに、このまま走って逃げても追いつかれるかもしれない。でも、だからってこんな状態で持ちこたえられるとも思えない……!
「もういいよ! 白輝、逃げよう! 無理しないで!」
「大丈夫だから、やらせて! 私にも、白護を守らせて!」
こちらの話を聞こうとしない。畜生! 俺もエレメントを使えれば!
「何だよ! 俺にもエレメントがあれば! 何で無いんだ……!?」
そう叫ぶと、ふと思い出した。昔、虹害獣に襲われた時にかけろって言われた電話番号がある。それはしっかりとスマホのメモ帳の中に残っていた。登録しておけば良かったのに、番号を打つのが面倒くさい。
「これで……!」
急いで電話をかける。
『もしもし』
「博士!」
電話の相手は白輝のお父さんの神風博士だ。
『その声……まさか信護君か?』
「はい! 思い出しました! 多分! それより、白輝がエレメントで虹害獣を抑えているんです!」
『何……! あの子はエレメントがあまり強くない! 無理する前に止めさせてくれ!』
「もう充分、無理してるのに止めてくれません! 今の状況を打開する策は無いんですか! その為に連絡するように伝えてあったんですよね?!」
今も尚、白輝は無理をしている。とても辛そうな顔をしていながら。白輝が楽になるのなら、一刻も早くその方法が知りたい。俺は今、白輝の為なら何でもする気持ちでいるんだ。記憶が無かった時の分まで――!
『ああ、分かっている。こういう時の為の処置だったからな。いいか、驚かずによく聞け。』
驚くものか。白輝の為なんだ!
『今、君の体には【鎧装機甲】という物が融合しているんだ』
俺の……身体にそんな物が。分かった瞬間に、身体中が熱くなった気がした。
『何故とか、何時からとかは後で話す! それは、融合している人の人体の性質を変化させ、身体能力を上げたり、姿形を変化させたりするんだ!』
「それってつまり――」
『ああ、君の大好きだった鬼面ファイターと似たようなものだ!』
「いえ、今も大好きです! それで、使う条件は!?」
『その存在を認識し、使用するというはっきりとした意志を持つと使える! ただ、今の君の身体でどれだけやれるかは分からないぞ』
……! 驚かないと思っていたけど、これは驚くなという方が無理がある。
鬼面ファイターと似たようなもの? 最っ高じゃないか! やるしかないだろ!
「俺は……変身する!」
鎧装機甲で変身するという強い意志を込めて全身に力を入れていると、身体中が熱湯をかけられたように熱くなった。
「ゔっ! ぐあああぁぁぁぁぁ!!」
熱い!! 身体が! 何だこれは! こんな事をいつもヒーローはやってるのか!? いやそんなこと言ってる場合じゃない! 俺はこれから、目の前の少女1人ぐらいは救える、俺なりの小さなヒーローになるんだから!
「ぬぐぅ! おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!」
腹の底から、今まで出した事の無いような大きい叫び声を上げ、俺は変身した。熱が引いた頃、立っていられずに膝を突いてしまった。
掌を見ると、グローブのような分厚くも力強い柔軟な皮膚(?)になっていた。恐らく、全身がこれと同じ、もしくはもっと強い皮膚になっているのだろう。手の甲にはよく分からないが、蒼い宝石のような、結晶体のような物が付いていた。胸にも付いているし、全身に付いているのだろう。
そして胸や肩、下腿や足、前腕や手の甲、腰や頭部全体などの部分部分がより硬い素材に変化している。
あとは……全体的に白い。青白い光のラインも見える。
「俺は……本当に変身を?」
口は、上顎と下顎に分かれていて開く事が出来るが、硬い素材に変わってた為、喋れない……と思ったが、自然と声を発していた。どういう仕組みか、喋れるようだ。
「信護!? どうしたの!? きゃっ!!」
必死に耐えていた白輝も流石に限界を超えてしまったのか、自身の生み出した突風で吹き飛ばされてしまった。
「白輝ぁっ!!」
俺は白輝の元へ思い切り跳躍した。すると、自分がやったとは思えない程の速さで白輝の元へ跳ぶ事が出来た。
「えっ? 信護……なの?」
「うん、そうだよ。俺だ。信護だよ」
疲れ果てた白輝を空中で抱き抱えた。できるだけ優しい抱き方と声をしたつもりだけど、優しくできただろうか。
地面に着地する時も衝撃は感じるのにあまり痛みは無い。これは凄いな。
感心していると、白輝も落ち着いたようだった。
「ありがとう。信護。また、私を助けてくれて」
「何言ってるの。さっき俺を助けてくれたじゃない。白輝がいたから俺はこの姿になれたんだ」
白輝は優しく微笑んでくれたが、複雑な表情になった。
「それじゃあ、やっぱりさっきの大きな叫び声も信護が?」
「そうだけど、恥ずかしいからあんまり言わないで」
「表情が変わらないのに、恥ずかしがってるの凄いわかり易いね。」
「だーから……まあいいか」
白輝はすぐに微笑みを取り戻したが、さっきの複雑な表情が忘れられなかった。
そんなことをしていると、虹害獣が再び咆哮した。
こちらへ突進してくる為、今度は俺が白輝の前に立った。
「今度は男の俺に顔を立てさせてくれよ!」
真剣ながらも、少し笑って言った。
「うん、気を付けてね! 信護!」
「ああ!」
その声でどれだけ力がもらえることか!
俺は正面から虹害獣を受け止めた。思ったよりも重い攻撃で、生半可な気持ちで戦う相手では無いことを再認識する。
「はっ……なかなかの力だな……! でも!」
凄い勢いで足裏をずりながらも、俺はうまい具合に避けた虹害獣の角を思い切り殴った。砕けはしなかったものの、ヒビが入った。
これならいける――そう思った瞬間。
「うぉわっ!!」
虹害獣の額にある、俺に付いてるのと似てる結晶体の部分から炎が吹き出した。
忘れてた! こいつらも、エレメントが使えるんだった!
「くっ!」
一旦離れて距離を取る。そして、変身してから置きっぱなしのスマホを、壊さない程度の力で持った。幸い、電話はまだ通じてるようだった。
「博士! 変身出来たけど何かあいつに弱点とかは無いんですか!」
『おお、やはり変身できたか。弱点というと、まずは結晶体を潰すのが定石だな。例えば、角とかを折っても時間が経てば修復してしまう』
「えっ……」
『ん? どうした?』
「あ、いえ」
まず危ないと思われる角を折りに行ったとか恥ずかしくて言えない……!
『まあその反応だと、まず攻撃力のありそうな角を折りに行った……て所か。』
流石に博士は察しが良いな!
『結晶体――コアを潰せばエレメントは使えなくなり、弱体化する! そこにポテンシャルプルーフを流し込めば倒すことができるぞ!』
「なるほど、ありがとうございます! ……って、ポテンシャルプルーフって何です? 流し込むってどうやって……」
話してる内も虹害獣は襲ってくる。なんとか避けているけど、このまま話しながらは辛い。
『それは、口頭で説明するのは難しい。だが、やろうと思えば自然と分かるはずだ』
「あぁもういいですよ! やってやります!」
電話を切って再び覚悟を決め、虹害獣と対峙する。虹害獣はすぐに突進して来た。それを避け、全力で駆け抜ける。
「こっちに……来いっ!!」
思惑通りにこちらに突進してくる。逃げる俺の目の前には建設途中の鉄骨剥き出しの建物。
俺は前方に跳び、鉄骨を踏み台にして虹害獣の方へ跳んだ。虹害獣がこちらを認識して物凄い勢いの、生身だったらすぐさま全身が焼き爛れそうな炎が俺の前に展開した。一瞬怯みかけたが、そのまま突っ込んでいく。
「いっ……けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そして、一瞬の内に虹害獣に肉薄し、飛び蹴りを食らわした。虹害獣の速さと跳んだ時の勢いを利用した蹴りは見事に額の結晶体に当たっており、砕けた。
結晶体が砕けたと同時に苦しみだす。そして、目に見えて動きが鈍くなった。
「よし、こっから……どうするんだっけか」
『身体を巡っているエネルギーを全身から激しく放出するイメージをして下さい』
「何だ? 声が……」
『全身から放出したエネルギーを右拳に集め、一気に虹害獣目掛けて放つイメージです』
「だから何だよこれは……!」
『虹害獣が調子を戻す前に早くして下さい』
「よく分かんないけど、やればいいんだろ! やれば!」
言われた通りに実行する。すると、俺の体の全ての結晶体(多分)が青白く光り輝く。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ポテンシャルプルーフと呼ばれたエネルギーが全身から放出され、右拳に集まっていくのが分かる。
丁度エネルギーが集まり終わった頃に、虹害獣が突進してきた。
「さぁこっちに来い……そうだ、名前を付けなくちゃな」
みるみる距離が縮まっていく。
名前も決めた。後は――撃つだけ!
「ファイナルフォォォォォォス!! ブレイカァァァァァァァァァァ!!!!」
叫ぶと同時に右拳を虹害獣に向けて全力で突き出す。
凄まじい量のエネルギーが放たれ、俺の体は反動で大きく後ろへ押される。
放った光の帯は俺の体をゆうに超える大きさで、俺自身も驚いてしまう。
「はぁ……はぁ……ど、どうなった……?」
撃ち終わった途端に凄い疲れた。これでまだ生きてたら辛すぎるぞ……。
「ん? あれ、いない……? 倒したってことかな」
まっすぐ向かってきて、俺がまっすぐ撃ったから大丈夫だよな。
「ふぅ……疲れたぁ……」
座り込むと、白輝がこっちへ来る。
「信護、お疲れ様。大丈夫? ……じゃないみたいだね」
「ああ……凄い疲れちゃったよ」
少し休んでから再び神風博士に電話をかける。
『信護君か。今の状況は?』
「博士の言った通りに、自然と分かった……というか声が聞こえて、虹害獣を倒せましたよ」
『そうか、無事倒せたなら良かったよ』
あっそうだ、と思い出した。
「俺の体の事や、隠してた事、俺の記憶が無かった時の事とか全部話して下さい」
「ああ、話せる限り話そう」
「じゃあ博士、今から博士の家に行きます。」
『分かった。食事を用意して待っててやるからな。ただ、もう遅いし色々話すのはまた別の日だ。良いな? それと、道覚えてるか?』
「覚えてますよ! 分かりました。白輝は何か言う事ある?」
「じゃあお父さん、今からすぐ帰るね。あと、信護の傷の応急処置の用意が出来たら用意して欲しいかな」
『分かった。出来る限りの事はする。』
「それでは」
「またね」
電話を切ると、白輝に肩を貸してもらう。
「色々あったけど……まずは帰ろうか」
「うん」
「へぇ、まさかここに……」
そしてこの時、ある人物に見られていたのを俺は知る由もなかった。
読んで頂きありがとうございました!
良ければ評価をお願いします!
今回出た新技は「ファイナルフォースブレイカー」です!
次回「人工知能シルバライト」
フィジカルチェンジ! セクトマン!