風船と小猿と私と
何処かの部屋で畳の上に仰向けに寝転んでいた私。
何気なく見た窓の外は高く青い空が澄み渡っていた。その空には上へ上へと上昇して行く色とりどりの沢山の風船が見えた。それは雲一つない青い空にとても良く映えていた。
沢山の風船を見た私は「今日って何かのイベントあったっけ?」と思い、起き上がり窓に近付く。寝転んでいる時には見えなかった風船を結ぶ糸の先に白い封筒が付いていた。
「こっちに飛んで来ないかな」と、上昇して行く風船に向かって届くはずもない手を伸ばす私。
すると上昇して行く風船とは別つに、何処からか緑の風船がひとつ目の前にふわふわと漂って来た。私はそれを掴もうと手を伸ばす。あと数ミリで風船に指先が触れそうな瞬間『今、まさに!』というタイミングで、横風に煽られて緑の風船はふわりと上に飛んで、上昇していく沢山の風船の仲間入り。
「またこっちに飛んで来ないかな」と上昇する風船を見詰めていた私。また何処からか今度は黄色い風船がひとつふわふわと漂って来た。再び手を伸ばすが、先程と同じタイミングで黄色い風船も上昇組へ。
『風船を見て「こっちに来ないかな」と思うと、何処からかふわふわと漂って来る風船。私がそれに手を伸ばすと横風に煽られて上昇する』という事を何度か繰り返し、上昇して行く風船をすべて空の彼方に見送った。
陽が指す窓に白いレースのカーテンを閉め、私はまた畳に寝転んで何かの本に目を落とす。数秒後、ふと閉めたカーテンを見たら、カーテン越しに揺れる風船の影。私はカーテンを開けた。窓の外は先程の青空とは打って変わり曇天の空模様。そして曇天と一緒に視界に入る赤い風船。その風船の糸は屋根に引っ掛かり、その場で風に揺られ振り子のように大きく揺れていた。揺れる風船には全長30センチぐらいのぬいぐるみの茶色い小猿が乗って、というより、しがみついていた。
ぬいぐるみの小猿だけど、寒さと大きく揺れる風船の恐怖に震えているように見えた。小猿のプラスチックの黒い目と私の視線が合った。その時、私は何を思ったのか、そのぬいぐるみに向かって「ハァイ!」と外国風に片手を上げて挨拶をしてみた。するとぬいぐるみだった小猿が気まずそうに「……ハ、ハイ」と同じ様に片手を上げて返事をした。
「え?(ぬいぐるみが喋った!?)」と片手を上げたまま固まる私。ぬいぐるみの小猿は片手を上げたせいでバランスを崩し、風船から落ちた。
「ちょっ!」と咄嗟に私は手を伸ばしぬいぐるみの小猿を受け止めた。受け止める時に『ずしり』と腕に重みを感じ、その重みに無意識に顔をしかめる私。その顔を見たぬいぐるみの小猿は、先程よりも更に気まずそうな顔をして私を見上げた。
それに対して私は曖昧に微笑みながら、震えるぬいぐるみの小猿を部屋の中に入れ、抱き抱えて暖める。先程は『ずしり』と感じた重みは、今は何故か『本当のぬいぐるみの様にふわふわとした布の手触り』だった。そのふわふわした手触りを感じていたら……目が覚めた。
・夢の感想
今まで二十数年間生きて来て『風船の先に手紙などを付けた風船飛ばし』を、生で見た事、やった事はない。いつかやってみたい。あと『瓶に入れた手紙を海に流す事』もやってみたいけど、個人情報(漏洩)が怖い。